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第5話 別れ

 和彦が登校して来たのは、あれから3日後だった。教室に入ると、和彦は他のクラスだけでなく、上級生や下級生らに取り囲まれてサインをねだられたり、「有名人にあった?」とか聞かれていた。

 和彦は困った表情をして、遠くから何か言いたそうに僕と目が合った。


「はい、はい、席に着く!もう始業のチャイムが鳴ったでしょう?」


 担任の先生が入って来ると、蜘蛛の子を散らしたみたいに、和彦の机から去って行った。和彦の隣の席は僕だ。皆んなが居なくなって、ようやく席に着いた。

 和彦はノートに、「あの日、行けなくてごめんね」と書いて謝って来た。僕は、今日は遊べるかと書くと、マネージャーが迎えに来るから遊べないと書かれた。

 放課後、和彦は野次馬達に揉みくちゃにされながら、迎えに来たマネージャーの車に乗り込んで走り去った。そんなこんな日が続き、和彦は週に2日も来れば良いと言う感じで、会えなくて寂しい思いをしていた。

 それから(しばら)くして和彦は、『Cau Cau』と言う小中学生向けの雑誌の表紙を飾り、あっという間に人気者となった。


「凄いね美春(みはる)。カリスマモデルだよ」


 クラスメイト達の話題は、毎日の様に和彦で持ち切りだ。僕は和彦が遠い世界に行ってしまい、置いてけぼりにされた気がして悲しかった。僕と和彦は、確かに付き合っていたのだ。大好きな和彦を奪られたみたいに感じて、嫉妬してイライラしていた。


「もう、別れましょう」


 久しぶりの秘密基地でようやく2人になれたと思ったら、和彦から別れを切り出された。僕は泣きじゃくりながら、「嫌だ絶対に別れない!」と言って和彦を押し倒して無理矢理にHしようとした。


「いいよ…、身体が目的なら好きにして…」


 僕は「そんなんじゃない」と泣いて、どうしたら別れなくて済むのかとか、何か嫌な所があるなら直すから別れないで欲しいと必死で引き止めた。


「私だって本当は、別れたくなんか無い。でも芸能界に入っちゃったから、彼氏とか作れないし、いるなら別れなさいと言われたし、瑞稀(みずき)だってずっと男子でいる訳じゃ無いじゃない!来月には…女子になるのよ…だから、もう終わりにしましょう…」


 僕は、号泣した。和彦も僕につられて泣き出した。ひとしきり泣き終わって御堂から出ると、和彦のマネージャーが待っていた。僕がジロリと見ると、そのマネージャーは頭を下げた。


「ちゃんとお別れは出来た?」


「…はい」


 和彦は、マネージャーに背中をさすられながら、その場を離れた。僕はその背中を、いつまでも名残惜しそうに見ていた。

 僕は家に帰ってからもずっと、涙が止まらなかった。「夢なら覚めて欲しい」「何でなんだ?何が悪かったんだ?」「どうすれば、別れずに済んだんだ?」「時間が巻き戻れば良いのに」そんな事で頭がいっぱいになった。


瑞稀(みずき)ー!瑞稀(みずき)、早く起きなさい!」


「頭が痛いから、学校は休むー!」


 僕は熱は無いけど、頭痛と吐気と目眩がすると押し通して、初めて学校をズル休みした。とても学校に行く気にはなれなかった。どうせ和彦は仕事で登校していなくてもだ。


「あいつだ、あいつが僕の和彦を奪ったんだ」


 和彦に馴れ馴れしく触った、あのマネージャーだ。イケメンで優しい仮面を付けていたが、その仮面の下で何人もの女子を泣かせて来たに違いない。


「何で和彦が、あんな奴に…」


 僕達は愛し合っていた。あの幸せがずっと続くと思っていた。それなのに…あいつのせいで…。


「分かったよ、和彦。僕はお前より可愛くなって、君からあいつを奪って、僕達の仲を引き裂いたあいつを(おとしい)れて復讐してやる!」


 次の日から僕は学校に行き、無口になった。そして、クラスメイトの中でも比較的に可愛い女子の動きを観察していた。僕が女子になった時、自然な形で女子でいられる様にする為だ。

 その間も和彦は週に1、2回登校したが、僕は目を合わせない様にしていた。和彦は僕をフった手前、隣の席で何か言いたそうだったが、言葉を飲み込んでいた。

 何を言っても言い訳になるだろうし、この状況を改善するには、復縁するしかない。でも和彦にはその気が無いので、僕と距離を置くしか無いのだ。だからあれ以来、僕達は一言も口を開かなくなった。

 親友から恋人、恋人で無くなったら、友達ですら無くなった。もうあの頃の様には戻れないのだ、僕達は。


瑞稀(みずき)…くん…、明日…お誕生日だね。おめでとう」


 和彦から1ヶ月振りに話かけられた。胸に込み上げて来るものがあって、僕は泣きそうになりながらお礼を言った。


「ありがとう…。でも、僕は…まだ君の事が好きだから…」


「うん…分かってる。でも、明日からはきっと違って見えるはずよ…」


 和彦の言っている意味が分からなかったけど、恐らく僕が女子になったら、「女同士でまた友達に戻れるよ」と言う意味なのかも知れない。

 でも僕は、きっと変わらない。変わらない自信がある。性別が変わったって、僕が僕である事には違いない。だから、僕が僕じゃ無くなるなんて事は有り得ない。


 とうとう、この日が来た。僕は明日、誕生日を迎える。性別が変わる時に何が起こるのか、詳細が書かれているサイトを見つけた。


 先ず最初に、全身に激しい痛みを(ともな)う。それから更にギアを上げた痛みが襲い、気を失いそうになる。


「何だって!?気を失いそうになる程の激しい痛みだって…そんなの嫌だ。怖すぎる」


 続きを読むと、サイトに載せてた人は気を失っており、気が付くと失禁していたそうだ。その時には全身の痛みは取れていたと書かれている。


「お母さん!性転換の時、気を失ってオシッコもらしちゃうみたいだよ?」


「部屋にビニールシートを敷いて置きなさい」


 お母さんも自分が性転換した時に、痛くて転げ回ったと言っていたので、痛いのは本当らしい。男子の身体が女子になるのだ。当然と言えば当然だけど、嫌だなぁ。


 一日早く誕生日ケーキを食べてジュースを飲み、両親から貰った誕生日プレゼントは、可愛い女子の服やアクセサリーなどだった。


「男子最後の誕生日なんだから、男らしいプレゼントが良かったなぁ」


「何言ってるの。あんたの欲しい物なんて、どうせゲームでしょう?」


「あははは、まぁ、そうなんだけどね」


 お風呂に入って僕は、オ◯ニーをした。あと1時間もすれば大切な男性シンボルが無くなってしまうので、男子として最後の快楽を味わった。

 3回目にイキそうな時に、お母さんが「早く出なさいよ」と声を掛けて来たので、オ◯ニーしているのがバレそうになって、ドキドキしながらイった。


「結局、射精出来なかったなぁ」


 もう1、2年もすれば、精通していたのかも知れない。友達のお兄さんも、精通前からオ◯ニーはしていたみたいだけど、射精する様になってからは、もっと気持ち良くなったと言っていた。だから射精してみたかった。でも、もうその望みが叶う事は無い。

 お風呂から上がって、パジャマに着替えてベッドに腰掛けて携帯ゲームをしていると、遂にその時が来た。

 0時を報せるアラームが鳴り、7月7日僕の誕生日になった。


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