第20話 扈マネージャーの正体
「早く、早く急いで!」
急かしたタクシーを降りて美春は走り、春美が支払いをした。
「はぁ、はぁ、はぁ…山根Pの部屋はここね…はぁ、はぁ…」
ピンポーン!ピンポーン!ピポピポーン!
美春は少々苛立ってチャイムを連打した。
「はい、誰だこんな時間に?非常識じゃないか!?用事なら明日にしてくれ」
「私です。美春です!瑞稀、瑞稀いるんでしょう?瑞稀、出て来て!」
ガチャリ
マンションの玄関が開けられると、白いガウンを着て素足の瑞稀が立っていた。ガウンの中は裸だと分かる格好だ。
「瑞稀!」
美春は抱き付いて泣き出した。後から春美も息を切らせながら来た。
「何なんだね、君たちは?」
「夜分遅く申し訳ありません。瑞稀は連れて帰ります」
「はいそうですかと、帰れると思っているのかね?」
春美は自分達も犯されるのではと、恐れて後退りした。
「ええ、帰らせてもらいますわ」
「扈さん!」
この状況で、この場に現れた大人が、より頼もしく感じた。
「山根さん。貴方のした事は犯罪ですよ?この件に関しては、後日改めて弁護士を挟んでお話し致しましょう」
「は、はは…。この俺を敵に回すって言う事が、どう言う事か分かっているのかね。お宅の事務所を潰すくらい訳ないんだぞ」
「ぷっ、あははは…。本当に悪役っぽい台詞を吐く人がいるのね?やれるものなら、やってご覧なさい!貴方はMizuki相手に写真や動画を撮影してるわね。おそらく他にも何人か被害者がいるはずよ。児ポの作成及び所持、さらには未成年者への強制猥褻、他にもモロモロ叩けば埃が出そうね?実刑は覚悟した方が良いんじゃないかしら」
「くっ…」
「取り敢えず、Mizukiは連れて帰らせて頂きます」
山根Pはその場に崩れ落ちた。それを尻目に、美春が瑞稀の着替えを取りに部屋に入った。
「キャッ!」
「どうしたの?」
瑞稀を確保している春美が悲鳴を上げたので、扈マネージャーは振り返った。
瑞稀の白いガウンの下が赤く染まり、露わになっている脹脛から足首まで、血が垂れていたのだ。
「嘘でしょう、瑞稀!?お兄ちゃんと付き合っていた時でも高校生になるまでは守るって言ってた処女を、こんなオジさんに捧げちゃったの!?」
春美は堪え切れずに泣き出した。
「うるさいな、ほっといてよ!僕のプライベートに入って来ないで!」
瑞稀は怒って、春美から離れた。
「これで貴方の実刑が確定したわね?」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!俺はまだヤってない!ヤってないんだよ!」
山根Pは両手を扈マネージャーの前で広げて、違うと手を振ってジェスチャーをした。
「じゃあ、あれは何なのよ?」
「僕のこと?さっき突然、女の子の日になっちゃったんだよ。でも、月のモノが無ければHしてたよ。僕、今日そのつもりで来たんだから」
「良いから取り敢えず帰るわよ、Mizuki」
「何なのさ!?愛し合う僕達の邪魔をしないでよ!嫌だ、絶対に帰らない!」
扈マネージャーは、瑞稀に当身を喰らわして気絶させると、そのまま抱きかかえてマンションから出た。
「このままで済むと思うなよ!ああ、俺だ。頼みごとがあるんだ…」
「貴女達はタクシーを待たせてるのね?領収は、忘れずに事務所で切るのよ。私は自分の車でMizukiを連れて戻るから。別々に帰った方が安全よ」
扈マネージャーは車に乗り込むと、勢いよく発進した。事務所への帰路、直ぐに後ろから付けて来る車に気付いた。それは、1台、また1台と増えて8台もの車に追われていた。
「くっ!」
前に回り込んだ黒い車3台が横並びになって道を塞いだので、急ブレーキを踏んだ。
「危ないじゃないの!!」
扈マネージャーは車から降りて、道を塞いだ男達に向かって怒鳴った。
「威勢が良いな、ネェちゃん。悪いがその積荷を置いて行ってもらおうか。そして今日の事は忘れるんだ。そうすれば、命だけは助かる」
「ふふふ、その台詞はそっくりそのままお返しするわね」
「何だと、このアマァ!」
車からは明らかにヤクザの風体の男達が降りて来て、扈マネージャーを取り囲んだ。
「待て!」
グレーに斜め黒のストライプが入ったスーツ姿の男が、車から降りて止めた。
「まさかあんたは、扈と言う名前では?」
「私の事、知ってる人間もいたのね?」
グレーストライプスーツの男は、扈マネージャーに頭を下げると、取り囲んでいた黒スーツの男達は顔を見合わせた。
「おい!引くぞ!」
ストライプスーツの男が声を掛けると、男達は車に乗り込んでその場を立ち去った。
「兄貴、あの女は何者なんですかぃ?兄貴が頭を下げるなんて…」
「あの女には手を出すなよ?アレは扈家の娘だ」
「扈家…って言いやすと、まさか黒社会の扈家ですかぃ?」
中国政府ですら手が出せない裏社会を仕切る黒社会は、4つの組織によって牛耳られている。その4大勢力のうち東の扈家は上海に基盤を持ち、今もなお勢力を拡大中だ。
「扈家の娘が、何でこんな所にいやがるんで?」
「それを聞きたいのは、こっちの方だ!」
ストライプスーツの男は、山根Pに電話を掛けた。
「おぅ、俺だ。ああん?捕らえたかだと?無理に決まってんだろが、あんなのがバックに付いてるんじゃあよ。お前さんも、手を引いた方が身の為だぞ?死ぬぞ、今まで世話になった忠告だ。奴らは、お前さんを自殺や事故に見せ掛けて消すなんて訳ないぜ。じゃあな、捕らえられ無かったが金だけは振り込んでくれよな?」
電話を切ると、ストライプスーツの男は腕組みをして目を閉じ考え事をした。
「何だってんだ、どいつもこいつも、コンチクショウがぁ!」
山根Pはスマホをベッドに投げ付け、床を両手で叩いて喚き散らした。
「ふぅ、付いて来て無いわね?」
扈マネージャーは、更にアクセルを踏んで加速した。
美春達はタクシーで事務所に着いたが、扈マネージャーが中々帰って来ないので、何かあったのかと心配した。
社長秘書のスマホに着信が入り電話に出ると、扈マネージャーからだった。
「あと10分で着くそうよ」
良かったと、ホッと胸を撫で下ろした。
「まだ電話が繋がっているか?今から言う場所に向かえと伝えてくれ!俺たちもそこで合流しよう」
「何処へ行くんですか?」
「もう遅いから、君達は帰って寝たまえ!」
「嫌です!ここまで来たら、最後まで見届けさせて下さい!」
「…良いだろう。では着いて来い!」
美春と春美は、社長の後をついて行った。車の中で何処に向かっているか知った。事務所と密かに繋がっている産婦人科医だった。
瑞稀が月のモノだと言ったのは、嘘かも知れない。万が一、膣内に出されていれば妊娠する可能性もある。その場合、膣内洗浄をして精子を殺す必要があると、社長は考えたのだ。
「どうだった?」
「…彼女はまだ処女ですね。心配する様な事は、何もありませんでした」
「良かった…」
人の気も知らないで、スヤスヤと気持ち良さそうに眠る瑞稀に、春美は腹が立った。ぐぅ~と、お腹の虫が鳴って、恥ずかしくて顔を赤らめた。
「ははは、心配したらお腹が空いたな。皆んなでラーメンでも食べに行こうか?まだ開いてる美味い店を知ってる」
良いですねと言って、皆んなでラーメン屋に行った。扈マネージャーは、瑞稀の看病をしたいと言って残った。
「早く良くなってね。貴女は私が見初めた金のなる木よ。貴女を世界一の大木に育てて見せる。それが私の夢…そうすれば、お父様もきっと私の事を認めて下さるはず…」
扈マネージャーは、濡れたタオルを絞って瑞稀の顔や身体を拭いて着替えさせた。




