第18話 関係の清算
山根Pと関係してから、3ヶ月が経とうとしていた。美春達の謹慎が、もうすぐ解けるのだ。謹慎期間中は会う事は勿論、メールなどで連絡を取り合う事も禁じられていた。
「美春、春美…もうすぐ会えるね」
机の上に飾られた写真立てを見ながら呟いた。
ティロリロリン♪ティロリロリン♪
電話が鳴り着信相手を一瞥した。山根Pからだった。週5日で通うのは、別に決まっている訳では無い。だから彼は熱心に僕を誘って来る。
山根Pには、お気に入りの娘達がいたのだけど、僕に執心してからはその全てと縁を切ったのだ。彼に枕していた5人が誰なのかは知らないけど、事情は似たり寄ったりだろう。
「ねぇ、他の娘達を切ったりして大丈夫なの?僕と同じでテレビに出たいとか事情があるんじゃないの?」
「君に嫉妬されない為さ。それに彼女達には、手切金として1億ずつ払ったんだよ」
「あははは、付き合ってる訳じゃ無いんだから、嫉妬なんてする訳無いじゃないですか?」
3ヶ月も通い妻をさせられれば、もうタメ口だ。
「これでも俺を他の娘達が取り合って、嫉妬して険悪だったんだよ」
「僕、他の娘達の事、何も知らないけど、僕の事は知られてるの?」
「さあ?でも薄々気付かれているかもね?何せ君は突然、俺がプロデュースしている番組全てのレギュラーになったんだ。むしろバレバレだぜ?恨まれてるかもなぁ」
「もう、週5で通わせなくたって、他の娘達と一緒で週1で良いじゃん。呼び戻しなよ」
「嫌だね。俺はお前にゾッコンなんだよ。もしかすると、本気でお前に恋してるかもなぁ?お前の身体を知ってからは、四六時中お前の事ばかり考えているんだ。俺は、お前1人いれば良い」
「僕の身体って、最後の一線を許した訳じゃ無いんだからね」
「そうだ、それだよ。お前を抱くまで俺は、お前を絶対に手放さないからな」
僕がHさせない事が却って、彼の執着心を煽っていたのだ。
「でも、美春達が戻って来るまでの間の関係だって約束は、忘れ無いでよね?」
「ああ、約束は約束だ」
山根Pが腰に巻いたタオルを取ると、僕は彼のモノを口に含んだ。彼氏と別れたので、今では口淫までは許していた。
「うっ、イクっ!」
彼は、僕の口の中に精を吐き出して満足した。
「ふぅ、今度は一緒にお風呂に入ろうか」
「はい」
彼は1回や2回なんかでは満足はしない。最低でも5発は付き合わないといけない。どんなにクタクタであっても、彼は容赦してくれない。へばっていると、代わりに挿入れるぞ!と脅してくるからだ。
僕はテレビの露出が増えた事によって、再び人気が出て来た。あの不祥事の件も、僕には関係が無いし、当事者の彼女達だって被害者なので同情されて、マイナスから一気にプラスに転じて好感度が爆上がりし始めたのだ。
僕はCMに23本出演し、今年のCM女王は確定的になった。そして遂に、美春達の謹慎が解けて戻って来たのだ。
「美春!春美!」
「瑞稀!」
2人は涙を流して僕に抱き付き、謝罪の言葉を繰り返した。
「ごめんね。本当にごめん」
「今まで1人で頑張ってくれて、有難う」
「うん、これでまた皆んな一緒だね」
3人抱き合って、ワンワン泣いた。
「…瑞稀、小百合さんに聞いたわ」
小百合さんとは、社長秘書の事だ。美春達は小百合さんから、僕が枕をしている事を知らされたのだ。
僕が枕をしている事を小百合さんが知っていた事に驚いたけど、分かる人には分かると言う事だ。
小百合さんが知っていると言う事は、社長も知っていると言う事だ。それなのに社長は黙認して、止めてはくれなかった。僕が枕をしている理由が分かっていたはずなのに。
売れる為なら利用出来るものは利用する。この芸能界は非情だ。売れない芸能人は消えていく運命だ。どれほど売れていたとしても過去の人になれば、「そんな人もいたね」と言われるのだ。
僕は山根Pとの関係を清算する為に、マンションに来ていた。
「美春達が戻って来ました。だから…僕達も約束通り、もう終わりにして下さい。貴方には感謝してもし切れません」
「悲しいよ。今日で終わりだなんて。でも君とのこれまでの日々の全てが、動画に収められている。それがリベンジポルノとして世界中に配信されたら、どうする?」
「良いですよ。もし配信されたら、貴方に脅されて無理矢理関係を迫られたと遺書を遺して自殺します」
「ははは、死ぬ死ぬ言ってる者ほど死なないよ。俺が最後に君を失うくらいなら、レイプされるとは思わなかったのかね?」
「…良いよ。試してみる?」
僕はズイっと一歩前に踏み出して、山根Pの目を見つめた。
「ふぅ、負けたよ。負けた、君には。でも最後に楽しませてくれるんだろう?」
「ええ、今夜は思いっきり尽くさせてもらいます。今まで、有難う御座いました」
この日、山根Pは泣きながら僕の身体を貪り続け、8発も射精して果てて、動けなくなり放心していた。
僕は1人でシャワーを浴びて部屋を出る時、山根Pから「本当に愛してた。高校を卒業したら結婚して欲しい」とプロポーズされ、僕は笑って言った。
「山根Pは、僕に優しくしてくれました。だから嫌いじゃなかったです。むしろ好きでした。でもそれは、彼氏にしたい好きじゃありません。本当に有り難う御座いました。さようなら」
マンションを降りるエレベーターの中で、これで終わったんだと思うと、涙が頬を伝って溢れた。
「おかしいな。あんなに嫌だったはずの枕営業なのに…なんで僕、泣いているんだろう?」
もしかすると、ちょっと好きになりかけていたのかな?と思い、首を横に振った。山根Pは38歳で、13歳の僕とは25歳も年上だ。僕のお父さんは40歳で、お父さんの弟、つまり叔父さんと同じ歳だ。
そんなおじさんに、身体中を舐め回されていたのだ。正直、気持ち悪い。愛に年齢は関係ないと良く聞くけど、流石にそれは無い。
でも最初は嫌で毎日泣いていたけど、そのうちに慣れたのか嫌じゃなくなった。それどころか、いつの間にかに好意さえ抱いていた。
彼は僕を子供扱いせずに1人の女性として扱い、興味は無かったけど沢山の宝石や高級なバッグや服、時計などをプレゼントしてくれた。物と一緒に、真心を込めた愛もくれた。彼に愛されていた自覚はあったのに、僕はそれに気付かないフリをしていたのだ。
「僕も…本当は好きでした…お元気で…」
エレベーターを降りて外に出ると、マンションを見上げて山根Pの部屋を見ながら手を振った。
美春達が戻って来て、話題性もあったのかも知れない。あのオリコンチャート100位にも入らなかった3曲目が、3人揃って歌うといきなり1位になったのだ。
「やっぱり凄いや、美春は。僕が1人で歌っても、100位以下だったんだよ。こんなに良い曲だったのに、申し訳無くて…」
「ふふふ、売れなかったから逆に、皆んな聴いて無いのが新鮮で良かったのかもね?」
「実際その通りだから、ぐうの音も出ないや」
3人で大笑いした。再び僕達には平穏な日々が戻って来た。年末が近づくと、出演する歌番組が増え、僕達はこの年の「新人賞」を獲得した。
僕は歌手としてだけでなく、女優としても「最優秀賞新人賞」と「最優秀主演女優賞」、さらに別の作品で「最優秀助演女優賞」を獲得し、史上初の三冠達成者となった。
その勢いのまま年末の紅白に出場し、この年の話題を掻っ攫った。
「Mizuki~!」
テレビ局から出ると、出待ちしているファン達が僕を一目見ようと押し寄せていた。僕は車の窓を開けて、手を振って応えた。
「サービス精神が素晴らしいわね」
マネージャーの扈さんが、僕を褒めてくれた。
「そう言えば、扈さんは中国人でしょう。参考にと渡された中国ドラマに出てた女優さんなんですけど、meiboを見ていたら、おそらく横店電視城(中国版時代劇村だけど、その規模は東京ドームの12倍もの広さ)で出待ちされていたファンから話し掛けられて、車に乗り込むまでファンと会話して、車に乗ってからも自分で窓を開けて手を振られていました。それを見て、なんて性格の良い女優さんなんだろうと、思いました。僕もそうなりたいと思ったんです」
「ふふふ、良かったわ。貴女に見せた甲斐もあったわね。実は興味があればなんだけど、中国ドラマのオファーが来ているのよね。海外だから、社長は握り潰しているんだけど。日本で足元も固まっていないのに、まだ早いとね。でも3月には上海で公演があるから、中国で知名度を上げるチャンスでもあるわ」
「僕、やりたいです!」
「じゃあ、一緒に社長を説得しましょうか」
扈マネージャーの母国だ。上海公演は、特に張り切って仕事をするに違いない。
しかし社長から反対され、10月まで仕事のスケジュールが決まっていると言われた。まだ年が明けたばかりなのに、10ヶ月先まで仕事が入っているなんて、光栄の極みだ。僕は社長に感謝して退室した。
「扈さん、社長は中国ドラマに出る事は反対してませんでしたね。スケジュールが一杯だから無理だと言われただけです。10月以降で出演出来るのが無いか、当たってもらえますか?」
扈マネージャーは嬉しそうに微笑んだ。




