第17話 別れ
不祥事と言うか、被害者なのに世間の風当たりは冷たく、そのグループに在籍する僕にも現実は冷たかった。
落ち目のアイドルには大人達が寄ってたかって、イヤラしい目で値踏みをして来る。
「生活が苦しかったら相談に乗るよ。出来る限りの事をさせてもらうよ。でも、分かるだろう?中学生は、もう立派な大人だ」
そう言いながらイヤラしく腰と肩に手を回され、僕は身を捩ってその手から逃れた。
「困ったら、いつでも来なさい!」
局の役員が、僕に投げ掛けた言葉だ。そんな事は日常的に行われ、ディレクターやADにまでホテルに誘われる様になった。
(今の僕の立場になったら、お誘いを受けるのが普通なんだろうな)
事務所の先輩や、他の事務所で仲の良い同期に聞くと、当たり前の様に答えが帰り、「普通、そこで断るの?」みたいな事まで言われた。これがこの世界での常識なんだろうと思いつつも、僕がすでに高校生であり、菜月ちゃんに処女を捧げた後だったなら、受けてたのだろうか?と思い悩んだ。
段々と僕の仕事は減って今撮影中のドラマが終わると、MHKの子供番組くらいしか残らなかった。MHKは僕を切る事もなく、優しくしてくれた。
僕はこのままではSweetStarsは終われないと思い、決心をした。
「あの…Hは…挿入はしないで下さいね。僕、(彼氏以外とは)初めてなので…」
「初めてって、処女?」
「はい」
「嘘だろう!?」
「僕、(彼氏以外に)裸を見られるのも初めてです」
「本当かよ!?本当に俺で良いの?」
僕が頷くと、山根プロデューサーは嬉しそうに僕を抱き締めた。
「はぁ、良い匂いだ。夢にまで見たMizukiちゃんの匂いだ」
そう言うなり僕の胸を服の上から夢中で揉みながら、口付けをして舌を絡められた。それから押し倒されると、服を捲り上げられて、ゆっくりと時間を掛けて胸を舐められた。
「はぁ、はぁ、はぁ。可愛い、たまらない」
山根プロデューサーは、美少女好きで有名だった。影で囁かれるネーミングは、「ロリコン山根」だ。
業界には三大巨頭と呼ばれる敏腕プロデューサーがいる。その3人のうちの1人がロリコン山根だった。
他にも田嶋プロデューサーは巨乳好きで有名で、「ボイン田嶋」と影で呼ばれており、彼に枕するのは主にグラドルが多い。
もう1人は矢嶋プロデューサーで、彼は熟女好きで「熟矢嶋」と呼ばれている。3人ともロクでもない大人だったが、業界内での力は絶大であり、今の大女優達のほとんどは、いずれか3人のお手付きとなっていた。
3人の中で、1番僕を気に入ってくれそうな山根プロデューサーを選んだのだが、彼は僕の大ファンだと周囲に公言していたのを後から耳にした。
僕の身体を堪能すると、口に挿入れようとして来たので、断った。
「口でしてくれないなら、手でしてよ」
「これで良いですか?」
「くうぅ、上手いな。他の男にもしてあげてるのか?」
「してません、こんな事」
山根Pはニヤニヤ嬉しそうにして、何度も口付けをして来た。
「可愛い。俺の人生の中でダントツ1位だよ。君の為なら何でもしてあげる。挿入れさせてくれたら、10億出す。10億円だよ?俺の女になってくれないか?一生大切にするからさ」
「お金なんて要りません。Hも出来ません、ごめんなさい。でも…もっとテレビに出たいです。お願いします」
「H出来ないんじゃあなぁ。それなら素股で良いかい?素股って分かるかな?」
「…良いですけど、滑ったとか言って挿入れたら、その場で舌を噛みます。死なれたら困るでしょう?」
「あははは、可愛い、可愛いな。俺にそんな事を言ったのはMizukiちゃん、君だけだよ。最高だよ!気に入った」
山根Pは僕の問いに答えず、胸にむしゃぶり付いた。
「その代わり、撮影させてもらう。Mizukiちゃんがいない時に、独りで楽しみたいからね。これが最低譲歩だ。それが嫌なら、今すぐ服着て帰るんだ」
山根Pは脅して見せた。ここで帰れば散々キスされたり、身体中を舐め回された意味が無くなる。それに隠しカメラで撮影されてるかも知れない。それをネタにして何度も行為を求められた人を知っている。僕は知った上の覚悟でここに来たのだ。グループを存続させる為に、彼氏を裏切ったのだ。ここで帰る訳にはいかない。
「絶対に挿入れないで下さいね」
僕は撮影を許可した。
「うはっ、本当に処女膜があるのが見える」
僕のポーズをリクエストしながら撮影し、素股をしている時も撮られ続けた。
「あははは、凄い。まるでMizukiちゃんとHしてる様に見えるよ」
射精して撮影が終わった動画を見せられた。僕は自分のHな動画をまともに見れず、目を逸らした。
明け方、山根Pの部屋から出て寮に戻り、舐め回された身体を何度も泣きながら洗った。
「ううう…ごめん、菜月ちゃん…本当にごめんなさい…。僕、僕…ひっく…」
それから週5日は山根Pの元に通い、身体を好きにされた。その代わりに僕は、彼が担当する番組8本のレギュラーに抜擢された。番組スタッフ達にはバレバレ(こんな事は日常的に行われていたのだろう)で、「またか」と僕を穢らわしい女だと軽蔑した目で見て来た。
それでも文字通り身体を張って掴んだチャンスだ。僕に出来る限り献身的に取り組んだ。無視されてもスタッフ1人1人に挨拶を欠かさず行い、定期的に差し入れをした。
「君みたいに良い娘が、何であんな男の毒牙にかかるんだ?」
少し仲良くしてくれる様になった照明係りのおじさんに聞かれた。
「…僕が女の子だから、仕方無かったんです。でも最後の一線は越えてませんよ。本当です」
「…そうだろうね。そうあって欲しい」
僕を頭から足先まで目線を落として見られた。
「まだ中学生ですからね?そう言うのは、さすがに早いですよ」
「ははは、そうだな。まぁ、頑張んな。応援してるよ」
少しずつ番組スタッフ達とも距離が縮まったけど共演者達からは、僕が山根Pの女だとレッテルを貼られていた。確かにそうだ。週5日も会っていれば、菜月ちゃん以上の関係も同然だ。彼氏が1番でなければいけない、僕はそう考えていたのだけど、そう出来ない事に葛藤していた。
「瑞稀、正直に答えて欲しい」
菜月ちゃんにだけは、知られたく無かった。その質問で全て知られている事を悟った。
「枕をしているんだな?相手は山根Pか?」
僕は血の気が引いて、頭がクラクラしながら頷いた。
「もうHしたのか?」
僕は首を横に振った。
「Hはしてないです。挿入れたら舌を噛むと言ってるから」
「毎日毎日寮に帰って来ないのは、あいつの所に行ってるからか?」
「はい…」
「行くな!もう行くな!行かないでくれ、頼む。俺の大切な瑞稀が他の男にキスされたり、裸を見られたり、触られたり、舐められたりしてるかと思うと気が狂いそうだ!」
「菜月ちゃん、本当にごめんなさい…」
僕は両手で顔を覆い、号泣して謝った。菜月ちゃんは、立っていられないほどショックを受けて、膝から崩れ落ちた。
「俺の、俺の瑞稀によくも手を出してくれたな」
包丁を片手に取って部屋を出ようとしたので、慌てて止めた。
「何するの!?殺しに行くつもり?僕の為に人殺しになるの!?止めて!どうしても行くなら僕を先に殺して!僕が悪いんだから」
「そこを退け!瑞稀!」
僕を突き飛ばして出て行こうとしたので、叫んだ。
「殺したら、僕も死ぬから!」
「何でだ?何でなんだ?ォォォ…」
菜月ちゃんは号泣し、落ち着くと話した。
「枕を止めるつもりが無いなら、別れよう」
「僕は、本当に…菜月ちゃんの事…大好きで…結婚したい…と…」
自業自得が招いた結果だ。バレた時にこうなる最悪の予想も当然していた。確かに僕は裏切った。でもそれは、好きとかの感情は存在せず、性的快楽を求めた訳でも無い。ただグループの存続を、美春達が戻って来れる場所を守りたかっただけなのだ。勿論、許される事では無いのは理解している。
だけど、それでも僕が好きなのは菜月ちゃんなのだ。僕の心が崩壊せず、枕なんてやってたのは、菜月ちゃんがいてくれたからだ。菜月ちゃんは僕の心の支えだった。それを失ったら、僕は僕が許せず精神崩壊してしまう。
「もう無理だよ。別れよう」
「嫌だ。別れたくないよ。僕は、僕が愛してるのは菜月ちゃんなのに…ひっく…、お願いだから、別れるなんて言わないで…」
「ふざけるな!彼氏の俺がいるのに、お前は他の男とイチャイチャしたんだぞ!?そんなにテレビに出たいか?裏切り者!穢らわしい!吐き気がする!汚い女!2度と顔を見せるな!」
菜月ちゃんは、僕に怒った事が無かった。最後に1番言われたく無い人から吐かれた暴言に、深く心が抉られた。
「お願い、僕には菜月ちゃんしかいないんだ。お願い。許して、お願い…何でもするから、許して下さい…」
「本当に何でもするなら、俺とセッ◯スしろよ!あいつとは、まだヤってないんだろう?他の男とも彼氏と同じ事をさせていて、それなら同じじゃないか!?彼氏は特別じゃないのか!!」
「…分かった。それで気が済むなら、許してくれるなら、僕の全てをあげる」
僕は目を瞑って、ベッドに横になった。菜月ちゃんは、僕に覆い被さってキスをした。
「俺だって瑞稀の事が大好きだ。この世で1番愛してる。それなのに、どうして俺を裏切ったんだ?」
菜月ちゃんは、僕を抱き締めて泣いた。
「本当にごめんなさい…」
「悪いと思っているなら、もう行くなよ!俺の大切な瑞稀を玩具にしやがって!許せない、許せないよ」
僕達は抱き合ったまま3時間ほど泣いた。菜月ちゃんは、最後まで僕に挿入はしなかった。
「もっと自分を大切にしなよ?別れても、愛してるから…ずっと応援してる」
「うん…有難う…」
結局、僕達は別れた。実った初恋は、こうして花を咲かせる事なく散った。