第12話 RINKA
「磯山春美です。宜しくお願いします」
「えーっ!清隆くん!?」
「マジでぇ!?」
この中学校は、3つの小学校の校区から集まるのだけど、清隆と同じ小学校だった元クラスメイト達は、旧友との再会を喜んだ。
「どうなってるんだ?この学校。美春ちゃんといい、瑞稀ちゃんといい、美少女大歓迎だ!」
男子達は、清隆(春美)の美しさに舞い上がった。
皆んな忘れているかも知れないけど、この港北区では謎の性転換症が流行り、10歳の誕生日を迎えると性別が変わるのだ。つまり、この中学校の男女の性別は入れ替わっている為、男子はかつての女子であり、女子はかつては男子だった。
それが影響しているのか分からないけど、男女交際の割合も高くて学年の半数以上はカップルであり、更にその内の半数は初体験を済ませていた。
「瑞稀ちゃんって、あの瑞稀ちゃん?」
「そうだよ、青山瑞稀君の事だよ。Mizukiって知ってるよね?」
「嘘っ!あの瑞稀くんとMizukiちゃんが同一人物なの!?」
春美は、かつての彼氏が有名なMyTuberであり、モデルで女優のMizukiだと知って驚いた。
僕は相変わらず1人で、自主学習をしていた。お昼ご飯も、いつも1人で食べていたけど、清隆のお姉さん(今はお兄さん)が転校して来てからは、僕と一緒に食べる様になった。
「じゃ~ん!だーれだ?」
翔馬先輩(清隆の元お姉さんの事)が、1人の女子を連れて来ていた。
「清隆…いや、春美ちゃん…」
僕と清隆は付き合っていた。だから一目見て分かった。僕は、「どうして連絡も無しに居なくなったりしたんだ?」と涙を流して尋ねた。
「ごめんね。ずっと連絡を取ろうと思ってたの。でも盗聴されて居所がバレるとマズくて、出来なかったの。お父さんが連帯保証人になってて、借金した友人が逃げてしまったの。それで借金取りから逃げる為に夜逃げしたのよ」
借金取りなんて、ヤクザみたいな取り立て屋しか想像出来ない。きっと言い尽くせない程の苦労をして来たはずだ。
「今は大丈夫なの?」
「うん、何とか借金は全て返せたから、またこうして地元に帰って来たのよ」
春美と再び会えて、本当に嬉しい。それから僕達は3人で休憩時間を過ごす様になり、登下校まで一緒の仲になった。
「Mizukiちゃん、その娘は?」
「あ、ウチのマネ(マネージャー)です。僕の友達の春美ちゃんです。ちなみに美春は、春美ちゃんに憧れて名前を逆にして付けたんですよ」
「本当、貴女の友達はレベル高いわ。春美ちゃん、もし良かったらウチの事務所に来ない?」
「えぇ!?」
「もう、僕の友達を誘惑して勧誘しないでよ」
でも春美は満更でも無く、僕も仕事でも一緒にいられると思って、内心は喜んでいた。
早速事務所に連れて行って社長に会わせると、「良いじゃん、良いじゃん」とノリ気だった。
「よし、スィート・ダイヤモンドの3人娘として売り出そう!」
3人娘とは、僕と美春と春美の3人だ。
「うーん、でも春美は…なぁ?美春と名前が似過ぎてて覚えられ難いからな。他に芸名を付けちゃうか」
「それなら清美でお願いします」
社長は、あはははと笑って誤魔化し、「考えておく」と言った。
「芸名かぁ、まだ実感が無いけど私もMizukiと同じ芸能人になれたのよね?」
「うん、後はご両親を説得しなきゃね」
それから春美は正式に事務所の一員となり、芸名はRINKAと名付けられた。僕達は3人でユニットを組む事が決められ、アイドルとして売り出される事になった。
「待ってよ!僕、歌もダンスも苦手なんだよ?」
「だったら練習するしかないわね?」
美春は冷たく言い放ち、僕に対しては特にスパルタだ。
「ねぇ?美春って、どうしてあんなにMizukiには厳しいのかしら?何かしたの?」
「…春美がいなくなった後、僕と和彦(美春)は付き合ったんだ。僕の誕生日が来るまでは、仲が良かったはずなんだよ。僕が女子になったら、あんな感じで冷たくなったの」
正直、僕は美春と居ると辛い。もう男女としての愛情は無いけれど、僕は美春の事を確かに愛していたし、Hもしようとしていた。それなのに僕とはせず、マネージャーとはあっさりと身体の関係になっていた。
それが何とも言えない感情だ。今の僕は女子だから、嫉妬はしていない。だけど、マネージャーへの敗北感、かつての恋人を寝取られた感は半端ない。
僕も新しい恋でもすれば吹っ切れるのだろうけど、男性恐怖症のせいで当分は彼氏など作れそうに無い。
アレ?僕達、アイドルになるのに彼氏とか作っても良いのかな?事務所の先輩に相談すると、大笑いされた。
「あのねぇ、アイドルや女優、モデルだって彼氏くらい居るに決まってるでしょう?人気アイドルが突然、妊娠と結婚を発表したりするでしょう?授かり婚だし、実は7年前から交際していましたって、それって隠れて7年間Hしまくってましたって事でしょう?ファンからすれば、彼氏居ないって、私の彼氏はファンの皆んなですって言葉を信じていたのに、今までお前に幾ら金を注ぎ込んで来たと思ってるんだ?と恨まれるのよ。素直におめでとう!と祝福してくれる人ばかりじゃないからね。結果的にファンを裏切ってるのには違いないわね。それに…」
「それに、この業界では枕営業が当たり前の様に横行しているわ。売れない、使えないと思われたら、容赦なく枕担当にされるわよ。その時、それでもこの世界にしがみ付くのか、引退するのか良く考える事ね。枕営業がバレて引退して、セクシー女優として再デビューなんて良くある話よ。元アイドルやグラドルの肩書きを持ったセクシー女優がいるじゃない?枕営業で軽く3桁も経験していれば、今更Hしてる所を見られても、恥ずかしくなんて無いだろう?とスカウトされるからよ」
めっちゃ詳しく話しを聞かされて、顔が真っ赤になりながら聞いた。その先輩も事務所から、枕営業をさせられた事があると言っていた。テレビ局の重役や、大御所俳優だったり、番組のスポンサーや広告代理店のお偉いさん達の相手をさせられたと言っていた。
先輩は、「彼氏がいるのに平気で仕事だと割り切って、他の男に跨がって腰を振っているのよ。彼はこんな私を信じているし、芸能人の彼女がいる事が自慢で愛されてるの。それなのに、私は…彼を裏切って、何人もの男達に身体を好きにさせてたのよ」と告白して泣き出したので、僕はどう慰めて良いか分からずに、オロオロとして先輩の頭を優しく撫でた。
「出来る事なら、こんな世界からは早く足を洗う事ね」
僕は、その時が来たら引退しますと答えた。
苦手な歌を克服する為にボイストレーニングに通い、芸能人専属のダンススクールで汗を流した。まず歌は口を大きく開けて、お腹から声を出す練習をさせられた。ダンスは覚えるだけでも大変で、ワンテンポ遅れて踊るので、ダンススクールのメンバーから「リズム音痴」とか「取り柄は顔だけ」などの陰口を叩かれてイジメを受けた。
「お前、あのMizukiだろう?ヘタクソ、お前ダンスの才能無いよ。隅の方で盆踊りでも踊ってな」
このダンススクールのボス猿的存在である、華山美智子さんが主導して、彼女に媚びを売る小猿(女)達を仕切っていた。
後から聞いた話しだけど、華山さんの彼が僕のファンだったらしく、嫉妬で八つ当たりして来たのだそうだ。
「えっ!?嘘っ!あれってまさかMizukiちゃん?」
華山さんの彼氏が、僕に聞こえる様にワザと大きな声で言った。僕は聞こえないフリをするのも何なので、お辞儀をした。すると、こっちに来て話し掛けようとして来たので、僕はまだ男性恐怖症が治っていないから、忙しいフリをして慌てて逃げた。
「お前、私の彼に色目使って何様なの?」
翌日、僕と会うなり髪の毛を掴んで、引き摺り回した。
「痛い!痛い、痛い、痛い。止めて!お願い止めて!」
髪の毛を掴んで僕を放り投げ、飛び膝蹴りを受けて派手に転んだ。
「お前、もう辞めろよ?なぁ、今度私の彼に色目使いやがったら、殺すぞ!」
そう言ってビンタを数発食らわせて来た。流石に芸能人である僕の顔に傷が出来たら、警察沙汰になるかも知れないと恐れた小猿達が、ボス猿を引き離した。
僕は泣きながらダンススクールを飛び出した。




