第10話 秘密基地にて
今日はKOUJIさんとデートだ。とは言っても、「約束したよね?」と言われて、秘密基地に連れて行く事になった。
途中の駄菓子屋で、好きなだけお菓子を買っても良いと言われたので、遠慮なく大量に購入した。駄菓子屋で、5000円も使ったのは初めてだ。僕のお金じゃないけど。
「この細道を抜けて、獣道を行くと御堂が見えて来るの」
KOUJIさんは、両手一杯にお菓子とジュースを抱えて、僕は手ぶらだった。優しいお兄さんって感じだ。
暫く歩いて御堂が見えて来ると、ある考えが頭によぎった。2人っきりしかいない御堂は密室だ。付き合っていると思われているからこの間みたいに、キスされたり身体を触られる可能性が高い。最悪の場合、襲われてHな事をされるかも知れない。そう思うと、急に怖くなった。
「ちょっと先に行って、様子を見て来るね?」
僕はそう言って走り出した。そして御堂に着くと、妙な声が聞こえて来たので耳を澄ませた。よく聞き取れないけど、女性の声が聞こえる。
この御堂は熟知している。裏側に回り下から入ると、隠し扉から中の様子が窺えるのだ。
「あっ!」
僕は両手で口を塞いで、直ぐに声を押し殺した。
「嘘でしょ、美春…」
美春がマネージャーと、Hしている最中だった。僕は我に返り慌てて外に出ると、わざと大きな声でKOUJIさんに聞かせた。
「ここよぉ!ここが御堂なの。僕達の秘密基地よぉ!」
怒鳴り声とも叫び声とも違う大声で、中にいる美春達に聞こえる様にいった。今から僕達は御堂の中に入る。KOUJIさんに見られる前に服を着て!と言うメッセージだ。
「おお!すげぇ、格好いいなぁ!テンション爆上がりしてるわ俺」
何も知らないKOUJIさんは、僕達の秘密基地を見て興奮して言った。
「へへへ、凄いでしょう?僕も初めて見た時、感動したんだから」
僕は御堂の外で彼に声を掛けながら、わざと時間を潰した。
「Mizukiちゃん、そろそろ中に入れてよ」
「う、うん…(もう大丈夫かな?)」
僕は恐る恐る扉に手を掛けると、鍵は掛かっていなかった。扉を開けて中の様子を窺うと、美春と目が合った。
(ホッ。良かった服着てる、間に合ったみたいね)
「何んなのMizuki?私達の秘密基地に、部外者を連れて来ないでよね」
「そう言う美春だって、マネージャーさんを連れて来てるじゃない?」
そう言うなりキッと、物凄い目で睨まれた。
「こ、ここで何してたのよ?」
僕はわざと意地悪な質問をした。
「何って…、打ち合わせよ。打ち合わせ!あんた達は何しに来たのよ?」
「俺達は、Mizukiに誘われてデートだよ。デート」
「デート?って貴方、YNJのKOUJIじゃない!瑞稀と付き合っているの?」
「そうさ俺が一目惚れして、Mizukiと付き合い始めたんだ」
(くそ、コイツら早く何処かに行かねぇかな?Mizukiとヤりに来たんだよ俺は。付き合ってるって言ったんだから、空気読めよ!)
「ふ~ん、それで瑞稀の何処が良いの?顔?それとも身体目当て?」
「身体って、ははは…面白い事、言うね美春ちゃんは…」
(くそ!コイツのせいで、Mizukiちゃんに警戒されたら、どうしてくれるんだコラァ?)
「ねぇ、一緒にお菓子食べよう?」
「はぁ…アンタって、いつまで経っても子供ねぇ…」
「美春だって子供じゃんか!?」
「アンタと言い争う気は無いわ」
美春は見せびらかす様に、マネージャーに甘えて見せた。僕が男子のままだったなら、今の姿を見たら悲しくなって、泣いて帰っていたに違いない。
だけど女子になった僕は、全く嫉妬心が湧かなかった。あんなに美春の事が、大好きだったはずなのに…。
「喉が渇いたから頂くね?」
美春のマネージャーが、紙コップにコーラを注いで飲んだ。僕達もコップ一杯、注いで飲んだ。
「ふぅ、美味しい」
それから皆んなでお菓子を食べた。僕と美春の学校での話や、仕事での悩みとか、KOUJIさんとマネージャーの学生時代の話とかで盛り上がった。
話をしているマネージャーさんを見ると本当に良い人で、美春を弄んでいる様には見えなかった。
ポッキーを咥えて、ギリギリで止めるゲームをしたけど、男性陣は止める気などなく、そのまま口付けされた。
僕とKOUJIさんもだし、美春とマネージャーさんもだった。その後ペアを交代したけど、僕とマネージャーさんも皆んなの前でキスをした。
(良いの?こんな事をして…。)
でも、美春の彼氏と彼女の目の前で見せ付ける口付けは、背徳感を感じてゾクゾクした。奪ってやった感が半端ない。
仕返しとばかりに、美春とKOUJIさんも舌を絡めるキスをした。でも残念ながら僕は、KOUJIさんは彼氏では無いから嫉妬する事は無かった。
美春が、何でマネージャーさんを好きになったのか、少し分かった気がした。僕達は、好みが同じだ。僕もこのマネージャーさんの事が、好きになってしまった。
それからは積極的にマネージャーさんに甘えたり、スキンシップを図ったりした。KOUJIさんも美春も、明らかに嫉妬して不機嫌になっていたが、そんな事はお構い無しだ。
美春のマネージャーだから、同じ事務所であっても滅多に会える事は無いからだ。膝の上に乗り、「お兄ちゃんみたい」とか言って気持ちを誤魔化して甘えた。
恋では無くて兄に接する感じで甘えているんですよと、そうでも見せなければ彼女と自称彼氏の目の前で、人の彼氏とイチャつけない。1度キスしたのだから何度しても同じだとばかりに、理由を付けてキスをした。
「瑞稀ちゃんは可愛いなぁ」
「じゃあ、僕と付き合っちゃう?」
抱き締められて口付けをされたので、OKの返事だと受け止めた。それを見て美春が泣き出した。KOUJIさんは怒って御堂から出て行ったので、僕は後を追いかけた。
「ごめん、ごめんなさい!冗談って言うか、ノリでただの悪ふざけじゃない?KOUJIさんの時だって、キスの演技の為って言ってたじゃない?」
「それとこれとは話が別だろう?俺達は付き合ってるんだろう?お前は俺の女で、俺の物なんだよ!他の男なんかに色目を使うな!」
両肩を掴まれて怒鳴られると、怖くて泣きそうになった。キスをされながら押し倒されると、胸を露出されて吸われた。
「嫌だ、止めて!」
「他の男とキスして浮気したお前が悪いんだ!ヤらせろよ。Hさせてくれたら許してやる」
パンツの中に手を入れられて、直接性器を触られた。
「へぇ、驚いた。ちゃんと濡れるんだ?」
パンツを下ろして性器を見ようとして来たので、必死に抵抗した。
「嫌だ、嫌だ、止めて!誰かぁ、誰か助けてー!」
「うるさい、黙れ!ブチ殺すぞ!」
我を失ったKOUJIさんは、両手で僕の首を締めた。僕は苦しくて、両手を緩めてと、締め付ける手を押さえたりタップしたけど、更に強く締められた。
涙と鼻水とヨダレを垂れ流し、意識が遠のいた。気を失いかけて朦朧としていると、パンツを脱ぎ捨てられて性器を舐められているのを感じた。
僅かに意識があるのに、指1本動かす事が出来なかった。彼が自分のパンツを下ろして、性器を押し当てて来たのも分かった。
「あれ?キツ過ぎて中々入らねぇ。クソ!絶対に挿入れてやる!」
無理矢理に挿入れようとして来て、激しい痛みで意識が戻って来た。僕は、大声で悲鳴を上げた。
「何をやってる!?」
美春達が、声に気付いて駆け付けて来て助けてくれた。僕はマネージャーにしがみ付いて泣いた。
「何をしたか分かっているのか?犯罪だぞ!恋人同士だろうが、この国の性交同意年齢は16歳以上だ。お前がやった事は、例え未遂であっても犯罪だ。Mizukiちゃんは、我々事務所側の人間だ。この件はそちらの事務所にも報告し、善処させて法的処置も取らせて頂く」
僕はマネージャーにお姫様抱っこされて、林を抜けた。
「あっ、パンツは?」
美春が、僕のパンツを拾って手渡した。美春からパンツを受け取ると、恥ずかしさで顔が真っ赤になった。
(僕、今ノーパンだよ…恥ずかしいよぉ)
車に乗り込むと、そのまま事務所へと向かった。