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6/15

ロイドとの婚約

その日は客人が迎える予定があった。


しかし私は客間で客人を迎えた後、寝不足もありソファで眠ってしまった。


「・・・嬢、ティアナ嬢」


「んん・・・」


私が目を擦りながら、声の方に目を向けるとロイド様がいらっしゃった。


「ロイド様!?」


私は慌てて起き上がり、礼をする。


「そんなにかしこまらないでよ。もっと可愛い寝顔を見せてくれていても良かったんだよ?」


「からかわないで下さいませ!」


私は顔を赤らめながら、顔を逸らした。


「ねぇティアナ嬢。何度フィオール家を訪ねても、私の相手をするのはリアーナ嬢ばかりだ。私が帰りにティアナ嬢に会いに行かなければ、君は私に会わないままだろう。そろそろ、君の本心を聞かせて欲しい・・・・何故、君は私を避ける?」


「それは・・・」


「前は君の涙の理由を無理には聞かなかった。しかし、私はもうあの時よりティアナ嬢に興味を持ってしまった。どうか君の秘密を教えて欲しい。そして、共に悩ませてくれ」


ロイド様の言葉に優しさが込められていることも、私に寄り添おうとしてくれていることも分かっている。


しかし、私の秘密は明かせない。


どう答えればいいのかが分からない。


「ティアナ嬢、私はそんなに頼りないかい?」


「違います!ロイド様が頼りないなんてあり得ません!・・・しかし、これは私の問題なのです」




「ティアナ嬢、君はたまに私を見ているようで、他の誰かを見ている気がするんだ。自分でも意味が分からないことを言っていることは分かっている。しかし、そんな気がしてならないんだ」


「ティアナ嬢、一つ私の願いを聞いて欲しい」




すると、ロイド殿下は私の前で膝をついた。


王族が膝をつくなど普通ではあり得ないことである。


「ロイド様・・・!?」


しかし、ロイド様はその姿勢を崩さない。



「どうか、今の私に向き合って欲しい」


「そのためなら・・・・ティアナ嬢、私は君と婚約を結んでも構わない」


「他の誰かになんて目を向けないでくれ」



なんと答えればいいのか分からない。


他の誰かなど見ていない。


8歳のロイド様に、前の人生のロイド様を重ねてしまうだけ。


ロイド様が私の目をじっと見つめる。


その時、初めて今回の人生でロイド様と目が合った気がした。


「ロイド様、どうか立ち上がって下さいませ」


「ティアナ嬢?」



「でないと、同じ目線でいられないでしょう?」



私は、ロイド様と目を逸らさずに微笑んだ。


そして、ロイド様に深く頭を下げる。


「ロイド様、婚約は出来ませんわ」


ロイド様が、悲しみが浮かんだ目を私に向ける。


「何故だ?」



「ロイド様の幸せを願っているからですわ。そして、私自身の幸せのためにも」




私の言葉にロイド様はしばらく何も言わなかった。


しかし、しばらくしてロイド様が何故か私に近づく。


「ロイド様?」


すると、ロイド様が私の手の甲にそっと口づけをした。


「っ・・!?」


「ティアナ嬢、君の気持ちは分かった。しかし、君は一つ勘違いをしている」


「どういうことでしょう・・・?」




「私の幸せは、ティアナ嬢と共に掴みたい。残念ながら私は諦めが悪いんだ。だから、君との婚約は諦められない」


「君を一目見た時に私は君に興味を持ってしまった。悪いがもう逃がすつもりはない」




ロイド様が私の手を強く握る。



「あの日、リアーナ嬢の話を笑顔で聞くティアナ嬢の笑顔が、私に向けられればいいと思ってしまった」



私はその場で言葉を返すことは出来なかった。


分かっていた。


前の人生のロイド様と比べては駄目だと。


しかし、前の人生でも貴方は私に愛を囁いてくれた。


それでも、貴方は何度繰り返してもリアーナを選ぶのだ。


貴方の気持ちを信じることが、もう私は怖いのです。


そんな自分の事ばかり考えていた私は、客間の外の影に気づかなかった。



「何故、お姉様ばかり愛されるの・・・!」



そう怒りが浮かんだ顔で呟いたリアーナに気づく者はいなかった。


この日から、リアーナは少しずつ私に冷たくなっていった。



そして私達は成長し、私は14歳の誕生日を迎えることになる。


前の人生で、ロイド様が私に婚約を申し込む年である。


どれだけ努力しても、運命は変わらないということなのだろうか。


14歳の誕生日、我がフィオール家に一通の手紙が届いた。



ロイド殿下から私への正式な婚約の申し込みである。



その手紙を境に、リアーナと私の関係はさらに変わっていくこととなる。

「ティアナ、よくやった」



14歳の誕生日、王家からの婚約の申し込みにお父様はそう仰った。


誕生日を祝う言葉は、一つも述べずに。


それからのお父様は、今まで人生と同じく急に私に優しくなっていかれた。



ああ、私はまた同じ道を辿るの?



リアーナも、私とロイド様が客間で会話した日から私にあまり笑顔を向けなくなった。


ロイド様はあの日の客間での約束を守るかのように、私と距離を縮めようと何度も私に会いにいらした。


しかし、私は婚約を持ちかけられてもはっきりと断った。


それでも、結局前回の人生と同じ14歳に正式に婚約を申し込まれる。



ロイド様ではなく、王家としての決定である。



王家からの正式な申し込むを断ることなど出来ない。


ましてや、もうお父様の耳に入ってしまっている。


当主であるお父様の判断に、私は従うことしか出来ない。



「どうしたらいいの・・・!」



そう自室で叫んだ私を、ネルラが心配そうに見つめている。


「ロイド様は、最後までティアナ様の同意を得てからにして欲しいと頭を下げたようです。しかし、王家全体での決定を覆すことは出来ず・・・」


「分かっているわ」


ロイド様は私の気持ちを無視して、正式に婚約を結ぶことなどしない。


前回の人生では、正式に婚約を結んだ時にロイド様と初めて顔合わせをした。


そして、初対面の私にロイド様はこう仰った。


「これは王家が決めた婚約だ。覆すことは出来ない・・・しかし、すまない。王家とフィオール家の繋がりのために、君の気持ちを聞かずに決断した。どうか許して欲しい」


そう仰り、王族でありながら私に頭を下げたロイド様に私は心を奪われた。


まさに一目惚れだったのかもしれない。


しかし、ロイド様は何度繰り返してもリアーナを選んだ。


今回の人生での目標は、ロイド様に近づかないこと。


婚約を結んだからといって、公務を除いては仲良くしなければいい。


だって貴方はリアーナと結ばれ、幸せを掴む人。


婚約破棄されるまでの間、私はロイド様に近づかず、前回の人生のようにロイド様に振り回されないこと。



そして、ロイド様に恋に落ちなければいい。



恋に落ちてしまえば、悲しむことは分かっているのだから。


婚約が破棄された後は、きっとお父様はまた私から興味を失う。


しかし、権力拡大のために私を別の貴族へ嫁げせるかもしれない。



もう誰かに自分の人生を決められるのは絶対に嫌。



ならば、私自身の幸せを掴む方法をロイド様に婚約破棄される前に考えなければ。


もう時を戻せないということは、私は18歳以降も人生を歩むのだ。


今まで歩んだことのない、初めての人生である。


しっかりと考えないと。


これから先の長い人生を彩らせることが出来るのは、他でもない私自身なのだから。


正式に婚約が結ばれて、一ヶ月が経った。


私とロイド様は15歳になったら、学園に入学しなければならない。


ヴィルナード国の高位貴族は、14歳までの中等部までの学習は基本的に家庭教師に教わる。


そして15歳から高等部に入学をするのだ。


私は、学園への入学の準備と学園から事前に出されている課題で忙しくしていた。



「リアーナ、今日の分の課題が終わったのだけれど、良かったら一緒に紅茶でも飲まないかしら?」



久しぶりにリアーナの部屋を尋ね、そう問うた。


リアーナが私の顔をじっと見つめる。


「・・・嫌ですわ」


ロイド様の婚約が決まってから、リアーナは私にさらに冷たくなっていった。


リアーナに断られ、部屋を出て行こうとした私をリアーナは呼び止めた。



「ねぇ、お姉様。お姉様は、ロイド様のことを好きではないのでしょう?」



リアーナは今にも壊れそうな程、苦しそうな顔で微笑んだ。


「私はロイド様を愛していますわ。格好良くて、理想の王子様ですもの・・・何故、ロイド様を愛していないお姉様が婚約者に選ばれるの?」


「リアーナ・・・!」


私は慌てて、リアーナに近寄る。


「近づかないで!お姉様なんて大嫌いよ」


リアーナはそう言い放つと、近くに置いてあった花瓶を床へ投げつける。


花瓶はガシャンと音を立てて、粉々に砕けた。



「私が求めているロイド様からの愛も、お父様からの愛もお姉様は全て奪っていくの。平気な顔で」


「私の欲しいものを奪うお姉様なんて大嫌い・・・だから、奪い返してもいいでしょう?」



リアーナが昔のような可愛らしい愛嬌のある笑顔を私に向けた。


そして、床に散らばる割れた花瓶に手をかざした。


淡い光に周りが包まれ、花瓶が元通りに戻る。


リアーナが、自身の能力を使ったのだ。


リアーナは今まで「無能の聖女」と呼ばれる自身の能力をうとみ、あまり使って来なかったので、リアーナが能力を使っている所を見るのは久しぶりだった。




「壊れたものは、元通りに戻しましょう?」




そう述べて、微笑むリアーナはまさに「聖女」であった。


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