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願うは皆の幸せ

「今頃、リアーナとロイド様は何の話をしているのかしら・・・」



そんなことを考えていると、窓からコンッと音がした。


ここは二階、誰かが何かを投げたのだろうか。


「え?」


私が窓に近づくと、ロイド殿下が軽く手を振っている。


リアーナとの談笑後、わざわざ私の部屋の前まで寄ったのだろうか。


そして、私の足元を指さした。


目線を足元に向けると、小さな箱が落ちていた。


先程のコンッという音は、この箱が窓に当たった音だろう。



「ティアナ嬢、君は私が嫌いなのか?」



ロイド様が私を見上げながら、そう問いかける。


いくらロイド様に近づかないと決意しても、嫌いと問われれば嫌いなはずなどなかった。


「それは・・・」


上手く答えられない私にロイド様は微笑んだ。


「否定されないということは、嫌いではないようだね・・・ねぇティアナ嬢、何故私は君に興味が沸いたと思う?」


「え・・・?」




「あのカフェでリアーナ嬢と談笑している時、君はほとんど話していなかったんだ。聞き役に徹してね。君は自分から話すことが得意ではないのかと思っていた。しかし、君は妹を守るために矢面やおもてに立った・・・そんなの格好良いと思わない方が無理だろう?」


「王族をしているとね、自分の話をしてくるやつばかりなんだ。だから、ティアナ嬢になら私の話を聞いて欲しいと思った」




ふと、前回の人生でロイド様が私に仰った言葉を思い出した。




「ティアナ、君は私の話をいつも楽しそうに聞いてくれる。それがどれほど私の支えになっているか知らないだろう・・・しかし、私はティアナの話も聞きたいんだ。だって、婚約者なのだから」




そう仰っていたロイド様は前回の人生でも、リアーナを選んだ。


ロイド様の本心が分からない。


しかし、今目の前にいる8歳のロイド様が嘘をついている様には見えなかった。


今の私もまだ8歳である。


少しくらい子供っぽい言動をしても許されるだろうか。


私はわざとらしく顔に手を当てて、首を傾げた。


「あら、私は楽しい話しか聞かなくてよ?」


ロイド様がそんな私の言葉に吹き出すように笑った。


「ははっ、じゃあ精一杯面白い話を考えないとね」


そんなロイド様の笑顔はいつもの大人びた表情ではなく、ただの8歳の少年に見えた。



ロイド様、前回の人生でも、その前の人生でも同じですのよ?


私は楽しい話だから、聞いていたのです。


好きな人の話だから、どんな話でも楽しくていられなかった。


ロイド様を愛していたからです。


でも、何故でしょう?



今回の人生でも、貴方と話せることが楽しくて仕方がないのです。



ロイド様がお帰りになられた後、足元に落ちていた小さな箱を開けた。


中には、小さな花のブローチと一文の手紙。



「また『君に』会いに行くよ」



ぎゅうっと胸が締め付けられるのを感じる。


ロイド様、私は貴方の幸せを願っているのです。


私も、リアーナも、ロイド様も、ただ幸せになりたいだけ。


今回の人生は、どうか皆で幸せになれますように。


私は、それだけを願って空を見上げた。






それからも、ロイド様は度々我がフィオール家を訪れた。


その度にリアーナが相手をして、気まぐれのように帰り際に私の顔を見ていく。


「ティアナ様、本日はどのような髪型にいたしますか?」


ネルラが私の髪をくしでとかしながら、そう聞いた。


「ああ、ええっと・・・今日は、下ろしたままでいいわ」


「あら、お洒落をしなくてよろしいのですか?ロイド殿下がいらっしゃるかもしれませんよ?」


「からかわないで頂戴」


私は頬を膨らませた。


「・・・しかし、ロイド様は大人びていらっしゃいますね」


ネルラが何故か悲しそうにそう述べた。


「ネルラ、何かあったの?」


「あ、いえ・・・。侍女達の間では有名な話なのですが、王妃様・・・つまり、ロイド様のお母様がとても厳しい人でロイド様はその期待に応えるように大人びていったと」


王妃様は身体が弱く、王族以外は謁見えっけんすることすらを許されていない。


「噂では王妃様とロイド様の能力は同じらしく、王妃様はロイド様に特別期待されていらっしゃるとか」


王族の能力は、公開されていない。


理由は他国に漏れれば、攻めやすくなってしまうからだ。


なので今までの人生でも、私はロイド様の能力を知らない。


ただし、能力は血筋に大きく関係するので、ネルラの言う通り王妃様とロイド様の能力が同じであっても不思議ではないだろう。


ロイド様は、年齢と比べるととても大人びていらっしゃる。


それは、王族としては誇らしいことだろう。


しかし、その分誰にも弱みを見せられないということだ。


「ねぇ、ネルラ」


「ティアナ様、どうされましたか?」


「ロイド様は、幸せなのかしら・・・?」


前回の人生も、その前の人生も、私はロイド様に愛されたかった。


そして、ロイド様を愛して、幸せにしてあげたかった。



「ティアナ様。ロイド様が幸せでいらっしゃるかはロイド様しか分かりませんわ。しかし、ティアナ様がロイド様の幸せを願うのは自由です」


「ティアナ様が大人っぽくなられてから、本当に笑顔が増えました。しかし、何か悩みを抱えていらっしゃるのかあまり夜も眠れていらっしゃらない」


「どうかティアナ様がロイド様の幸せを願うように、私にもティアナ様の幸せを願わせて下さいませ」



ネルラが優しく微笑んだ。


前回の人生では、気づかなかった周りの人の優しさが今なら分かる。


「ありがとう、ネルラ。では、私もネルラの幸せを願ってもいいかしら?」


「ティアナ様に願って頂けるなら、絶対に幸せにならないとですね」


ネルラはそう述べて、私の髪を優しく撫でた。


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