懐かしい夢・SIDE : RIANA 《サイド :リアーナ》
街に出掛けた夜、懐かしい夢を見た。
「ティアナ、君は私の秘密など知らなくていい」
前回の人生で婚約破棄された卒業パーティーの前日。
ロイド様は、会いに行った私に何故か悲しみを浮かべた顔でそう述べた。
一体ロイド様が何を考えていらっしゃったのかは分からない。
しかし、ロイド様のあの顔を忘れることなど出来なかった。
ロイド様も何か秘密を抱えていたのだろうか。
「いいえ、今の私には関係ないことだわ」
私は目を瞑り、もう一度眠りについた。
リアーナと街へ出掛けて三週間が経った頃のこと。
私とリアーナは、たまにお茶会をしたりと距離を縮めていた。
しかし、段々とリアーナの話はロイド様のことが多くなっていった。
「ロイド様にまた会いたいですわ。街で会った時はあまりお話出来なかったですから、今度お茶会に誘いませんか?」
「それは・・・」
今までの人生で何度も惹かれあった二人である。
リアーナが一目でロイド様に恋に落ちても不思議ではないだろう。
「何か駄目な理由でもあるのですか?」
駄目な理由などないはずだ。
だってリアーナとロイド様はいつかは結ばれるのだから、その時期がズレても問題はないだろう。
私が、今回の人生ではロイド様に関わらなければ良いだけのこと。
「いえ、今度お誘いしてみましょうか。でも、私は暫く忙しいからリアーナとロイド様の二人で・・・」
コンコン。
私の言葉を遮るように、扉をノックする音が聞こえた。
「ロイド殿下がお見えです。客間にお通ししますか?」
執事長がそう問うた。
街でロイド様に「また会いに行ってもいいか?」と問われた時に、一線を引いたことはロイド様も気づいていただろう。
まさか本当に会いに来るなんて・・・
しかし、王族でいらっしゃるロイド様を出迎えないわけにはいかない。
私が困っていると、リアーナが勢いよく立ち上がった。
「私が出迎えますわ!客間にお通しして頂戴!」
「リアーナ・・・!?」
「お姉様はお忙しいでしょう?私が要件を聞いて参りますわ。勿論、何かあったらお呼び致します!」
ここはリアーナに任せても良いのだろうか?
しかし、今回の人生での一つの目標は「ロイド様に近づかないこと」。
「そうね。では、リアーナに任せても良いかしら?」
「はい!」
リアーナが元気よく返事をして、部屋を飛び出して行った。
「これで良かったのよね・・・」
何故、自分がそう呟いてしまったのか、私には分からなかった。
SIDE : RIANA 《サイド :リアーナ》
「はぁロイド様、格好良かったな・・・」
街に出かけた夜、ベッドに入ってもロイド様のことが忘れられなかった。
凛とした佇まいで、優しい口調。
物語に出てくる王子様の様だった。
しばらく前から、お姉様も大人びるようになった。
私にさらに優しくなり、笑顔も増えた。
理由は分からなかったが、そんなお姉様が嫌いではなかった。
しかし、いくらお姉様に愛されてもそれだけでは足りなかった。
お母様が早くに亡くなり、お父様も愛してくださらない。
皆が羨むほど、愛されてみたかった。
ヴィルナード王国第一王子ロイド・エルホルム、彼に愛されれば幸せと言えるだろうか。
愛されることを憧れのままにせず、現実に出来るだろうか。
しかし、ロイド様はお姉様に興味を示した。
お姉様が泣いたから?
「無能の聖女」と呼ばれる可哀想な私ではなく、何故お姉様を慰めるの?
可哀想な私こそ、王子様に愛されて幸せを掴まないと。
待っていて下さい、ロイド様。
これから、貴方に愛されに向かいますわ。
コンコン。
「リアーナで御座います」
客間の扉をそっと開けて、深く礼をした後、可愛く微笑んで見せた。
「リアーナ嬢、街ではあまり話せず申し訳なかったね」
「いえ、大丈夫ですわ。その代わり、今日はリアーナともお話して下さいますか?」
「ああ、勿論・・・今日は、ティアナ嬢は不在なのか?」
だめよ、リアーナ。
いくら悔しいからって、不貞腐れてはダメ。
気を引きたいなら、あの日のお姉様の様に涙を見せないと。
私はわざと目に涙を溜めて、ロイド様に近づいた。
「ロイド様は私では不満ですか・・・?お姉様は、ロイド様にあまり会いたくなさそうだったので、私が名乗り出たのです・・・」
ロイド様の顔色は変わらない。
「そうか。では、今日はリアーナ嬢の話を聞かせてくれるかい?」
「はい!」
お気に入りの本に、習い事の話、お気に入りのお菓子、私は沢山ロイド様に私のことを教えた。
ロイド様はとても聞き上手で、話していてとても楽しく、時間はあっという間に過ぎてしまった。
「今日はとても楽しかったですわ。ロイド様!・・・また、会って下さいますか?」
「ああ」
大丈夫、この格好良い王子様に愛される様になれば、私は幸せ者だわ。
格好良くて、物語の王子様の様で、可愛い私にお似合いのはず。
それに、お父様も王族と婚姻を結ぶことを昔から望んでいた。
ロイド様、私だけの王子様になって下さいますか?