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パートナーになっちゃいました。

 朝日か目に染みるってこういう事なのかな...。

イヴは窓から見える太陽を目を細めて確認する。


「うん。私の部屋からは見えない景色だね」


イヴは再び目を閉じてとりあえず現実逃避をしようと思った。

しかし、自分の匂いが付いていないベッドは一時になると眠れない。

獣人あるあるだ。

イヴは起き上がると、周囲を見渡す。シンプルな部屋の造りは客室なのだろうか?

ドアを開けるとリビングだった。ソファーには明らかに人が寝ている形が見える。

その横を気づかれないようにそろりと通り過ぎる。


「うわぁ~イーサン副隊長殿の部屋に泊ってしまった...」


背中を向けているので寝顔は分からないが髪型とか体形でなんとなく分かった。

このまま起こすのは申し訳ないので、持っていたチラシの裏側にお礼の手紙を書いてローテーブルに置くとそのまま部屋を出た。


イヴがガチャリとドアを閉めると背中を向けていたイーサンが起き上がりそのドアを見つめた。立ち上がり、キッチンに向かい水を飲むと溜息を付きながら


「なんか声をかければ良かったのかな...」


と言いながらそのままシャワーを浴びに行った。



 イヴは、イーサンの部屋を出たのはいいが自分の現在地が分からなかったらどうしようと思い一瞬焦ったが彼は意外と職場から近い場所に住んでいた為、迷わずにそのまま自宅に戻ることができた。


一晩寝たので酔いは覚めているが、どうして自分がヒト化しているのか分からなかった。ただ、いつもだと獣人の視線しかなかったが今日は珍しく人の視線も感じた。イヴは不思議に思いガラス越しに映る自分の姿で理解したのだった。


 イヴは部屋に戻るとすぐにシャワーを浴びた。早く他人の匂いを消したかったからだった。ベッドを借りておいて失礼な考えだが好んでもいない者の匂いはやっぱりお断りだった。


 スッキリしたイヴはコーヒーを飲むとそのまま仕事に向かった。

そういえば昨日隊長は帰る間際に何か辞令みたいなものを言っていたような気がする。

うん、覚えてないな。


「まぁ~今日聞けばいいかっ」


二日酔いもなく軽やかに職場に向かうイヴだった。

職場に着き、制服に着替え朝礼を受けようと事務所に向かうと掲示板の前に人だかりができていた。気になったイヴも覗きに行こうと挨拶しながら押しのけようとした時、スゥーと自分の前に道ができた。えっと思いながらすみませんといいつつその掲示板を見ると



  辞令


  本日より

   イーサン・マーシャル副隊長のパートナーをイヴ・カーウェルとする。



「イヴ、おはよぉ~。朝から楽しい情報を提供してくれてありがとうね~」

ジーンは嬉しそうにイヴの肩を叩きながら話しかけてきた。


「おはよ。って言うかこれのどこが愉快な話なのよ!」


ジト目になりながらジーンを責めると


「まぁ~。本人以外はみんな愉快だと思ってるよ?」


とジーンが言うので群がっている同僚や先輩を見回すと


「うん」


と同時に頷いてくれた。


「あはは、なんて素敵な職場ナンダロー」


イヴは最後の方は棒読みになりながら感想を述べた。


「そんなに喜んでもらえると私も楽しみになってきましたね」


イヴはこれは幻聴、これは幻聴と思いながら声の方を見るとしっかりとその人物は立っていた。

相変わらず前髪と眼鏡で表情は分かりずらいが口元が引きつっているので良い感情ではなさそうだなと思った。


イーサンを見た先輩と同僚たちは蜘蛛の子が散る様に仕事場に行ってしまった。

ジーンも「ごめんね。あとは若い者たちでごゆっくりと」と言いながらパートナーと見回りに行ってしまった。


 イヴは内心「最後はなんで仲人みたいになってるの?」と思いながらも見事に二人になったのでとりあえず、自分から話しかけることにした。


「おはようございます。イーサン副隊長!」


と声をかけると、イーサンは「おはよございます。イヴさん」と返してくれた。

そして


「とりあえず、タッカー隊長からお話があるのでさきに隊長室に行きましょうか」

と言われたのでそのままイーサンの後を追っていった。


二人で並んで隊長室に向かっている時に、イヴは思い出したように


「そういえば、昨日はすみませんでした。ベッドを借りてしまって。体は大丈夫ですか?」


イーサンも思い出したように。


「ああ、大丈夫ですよ。イヴさんの自宅を知っていれば送れたのですが知らなかったので私の判断で連れて帰ることにしました。」

イヴは申し訳なく思い改めて丁寧にお礼と謝罪をした。

イーサンはもう大丈夫ですからと言った後で


「ところで、一つ気になったことがあるのですが」


イーサンはピタリと歩くのを止めると、イヴも一緒に止まった。


「はい。」


「...酔い覚ましにヒト化すればいいというのは誰に教わったのですか?」


イーサンは少し低い声で質問してきた。

イヴはそんなイーサンの変化に気づかずに


「あ~、近衛の先輩ですよ?少し前に一緒に飲みに行く機会がありまして」


その言葉を聞くとイーサンは再び歩き始めた。


「そうですか...。近衛が」


イーサンについていくようにイヴも歩き始めたが


「あっそういえば、そのとき副隊長の事を知ってる方もいたような気がします」


その言葉に一瞬イーサンが反応した。

すごい殺気を伴って。


「えっ」


イヴは驚き足がすくんだ。

こんな恐怖は久しぶりだった。

すると、少し距離のある隊長室がガチャリと開くとタッカーが飛び出してきた


「イーサン!お前何やってるんだよ!秘書官が仕事できねぇ!」


急に怒鳴りこむタッカーにも驚いたイヴだった。


「すみません。」


イーサンはそれ以上何も言わなかった。


「とりあえず、説明すっから二人とも部屋に入ってくれ」


そう言って三人で隊長室に向かった。


三人でソファーに座ると、先ほど怯えていたと言われる秘書官がお茶を入れてくれた。


「すみません。」とイヴが言うとニコリと笑って、隣室に戻っていった。

「タッカー隊長の秘書の子もかわいいんですね」


イヴが思わず伝えると。


「ん?ああ、臨時で雇ってるんだよ。今からお前が引き継ぐんだけど手ぇ~出すなよ」


タッカーに少し睨みながらイヴは釘をさされた。

イヴは苦笑いをしながら


「一体、私をなんだと思っているんですか!公私混同しませんよ!」


と胸を張って言い切る。


「ただし、相手からアプローチがあった場合を除く!ですがね!」


自慢げに付随事項も付けておいた。

タッカーが大げさに溜息をつくと、急に小声になり


「あの子、婚約者がいるから、本当にそういうのヤメテネ」


となぜか最後は女性的な表現で念押しされた。


「了解しました!」

イヴは小さく敬礼をした。


それを見て安心したタッカーは本題に入る


「以前からリハビリを兼ねてイーサンは私の補佐をしてくれていたが、この度本格的に活動することになったんだよ。しかし、イーサンもこの通り消極的というか誰でも受け入れるタイプじゃないから、この警備兵一の八方美人であるイヴ・カーウェルさんにお任せしようと思ってな」


最後はガハハと笑って誤魔化したが


「隊長、私は八方美人じゃないですからね?あくまでも来るもの拒まずですよ?」


間違えないでくださいね!とイヴは怒っているが、イーサンはそこじゃないだろうと思いながら二人の会話を聞いていた。


「イヴは、体術も出来るが書類作成も得意じゃないか、なのでついでにイーサンがいないときに補佐してもらえたらいいなと思ってな」


「隊長、それが本心でしょ...」


「ん~。そんな感じ。さてさて、話したい事も伝えたし今日から二人のシフト表を組み込んだから午後から早速Ⅾ地区の見回りを頼むわ」


タッカーはそういうと席を立ち、イーサンに別件の話をし始めた。

イヴはこれから内勤も含まれることになったので部署移動扱いになり、午前中は荷物の整理をして隊長室の隣に移動する準備をすることになった。


一通り準備が終わり備え付けの食堂にお昼を取りに行くとジーンが待っていてくれた。


「イヴ~。どうなったの?」


いや、興味本位で待っていてくれた。に訂正しようとイヴは思った。


二人で今日のオススメランチを注文し、近くの席に座るとイヴが早速説明し始めた。


「ん~。副隊長とペアになるから内勤も少しずつ増えるみたい。隊長の書類の補佐も業務内容に入るんだって」


イヴはパスタを食べながらジーンに話すと


「そっか~、イヴは座学も出来る子だったもんね。警邏隊って基本的に体を動かすのは得意だけど書類はあんまり好きじゃないしな~」


書類という言葉をいうだけでジーンはうえぇ~と言う表情をしていた。


「街を見回るの結構好きなんだけどね~」


残念そうにしているイヴを見ながらジーンが


「あんまり内勤が多いようだったら副隊長に相談するのもありなんじゃない?」


その言葉を聞きながらう~んと唸るイヴ


「そうだよね...。話し合いが必要だよね」


二人は昼食をとった後、コーヒーを追加で買って人気のいないテラスに移動した。


「人に対してあんまり不満のないイヴが珍しいわね?副隊長の事嫌いなの?」


ジーンは周囲を見回して人がいないことを確認すると痛いところを付いてきた

イヴはコーヒーをクルクルと周り飲み口を元に戻すと


「嫌いって事はないんだけど...。」


「・・・」


「苦手なんだよね...」


イヴは自分が思ってた以上に暗い声が出てしまったのがショックだった。

ジーンはそんなイヴを眺めながら


「まっ親しくなったら、今まで見えなかったことも見えると思うし決めつけは良くないよね」


「イヴらしくないよね」


そう言いながら残りのコーヒーを飲み干した。



それからジーンと別れて、イーサンとの待ち合わせ場所に向かった。

ほぼ内勤のイーサンが帯剣している姿を見るのは初めてだったのでなんだかすごく


「新鮮ですねぇ~」


先に着いていたイーサンに思わず感想を述べると、イーサンは眼鏡をクイっと上げてから


「上司より後に来るなんて良い根性してますね」


と少し怒られてしまった。ジーン、見えてきても何も変わらないわ。


隊長に指示されたⅮ地区はいつもイヴが巡回している場所だったのでイーサンに説明をしながら見て回った。犯罪が行われやすい場所や、色々な情報を教えてくれるマダムや美味しいお菓子を置いているお店やオススメの居酒屋など


「最後の方は、巡回に必要なのでしょうか?」


イーサンの疑問にイヴはキリっとした表情をして


「今必要かどうかは分からないですが、いつか必ず役に立つかも知れないでしょ?」


と力説し始めた。

イーサンは、それは仕事上の事でか?と思ったがイヴがあまりにも熱弁するのでそっとしておいた。


就業時間になったので詰所で夜勤組に申し送りをした後、タッカーに報告も兼ねて一度隊長室に戻ることにした。王宮で働く人たちが使用する門を通り抜けると


「おっイヴちゃんじゃん!」


聞いたことのある声にイヴは立ち止まると、向かい側から近衛の制服を着た二人組がこちらにやって来た。


「あっ、ウォルターじゃん!」


久しぶりに会う同級生に嬉しくなったイヴは思わず大きく手を振った。

お互いが駆け寄るとじゃれるように手合わせをした。

イーサンは焦って止めようとするが二人には当たり前の行動だったらしくしばらくするとすぐにやめた。

ウォルターはにこやかに笑うと

「やっぱイヴは昔から強いや。俺勝てないかも」

と言いながら軽く自分の肩を回しながらストレッチをする。


「いやいや、ウォルターは十分強いよ~。私は仕事柄どうしても実践の毎日だからね」


王宮で事件ばかり起きるわけないし。と付け加える。

お互いの上司が二人の会話を少し待っていると


「おい!ランバーグ行くぞ!」

ウォルターの上官らしき人がウォルターを呼ぶ。

イヴは時間をとらせて申し訳なかったので、上官らしき人に軍に共通する礼をする。


「お時間を頂きありがとうございました!」


ウォルターの上官は頷いた。ウォルターもイヴの上官イーサンに同じ礼を示すと。

イーサンも同じように頷いた。


しかし、ウォルターの上官がイーサンを見ると少し驚き


「マーシャル殿...。」と言いながら上官への敬礼をしだした。


「いいから...」


イーサンはすぐにその敬礼を取りやめさせる。

異様な雰囲気にイヴとウォルターが待機していると


「イヴさん、行きますよ」


と言いながら先にイーサンが歩き出してしまった。

イヴはウォルターに


「んじゃ、私も行くわ。また飲みに行こうよ」


というと


「ああ、連絡待ってるわ」


お互い軽く握手した後、イヴは走ってイーサンを追いかけた。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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