もし流れ星を見たら
「水上さん、体調が悪いんだって? 大丈夫?」
絵海も昼休みに心配そうに尋ねてきた。
「はい、仕事を辞めてゆっくりしていれば良くなると思います」私が答えた。
「そう、良かった」絵海が微笑んで言った。
「本当に退職でいいの? 退職しちゃうとその後が色々と大変でしょう。
引っ越ししたり、職探ししたり。休職っていう選択もあったんじゃないかと思って。
必要なら私から上司に頼むこともできるわよ」
「お気持ちは嬉しいんですけど……。
いったん辞めて実家に戻って、あとはそこから通える範囲で職場を探そうと思ってるんですよね」
絵海に引き留められて私の心はかなり揺らいだが、働き方も変えたかったので何とか断った。
「そう、分かったわ。水上さんが辞めちゃうのは残念だけど、しかたないわね。
他に何か、私に力になれることがあったら何でも言ってね」
絵海はそう言って仕事へ戻っていった。
私は絵海と話したあと、自分の心がまるで春の陽射しを浴びたみたいに暖まっているのに気づいた。
それからも同じ仕事の日々を繰り返し、最後の出勤日を終えた。
お世話になりましたと職場の人たちと社交辞令を交わし、夜空の下でひとり帰路についた。
見上げると雲のない紫紺の空に、まるで砂の中のガラスの破片のように幾つかの星が瞬いていた。
もしこの空に流れ星でも見ることがあれば、これからも絵海と一緒にいれるようにと願いをかける気がした。