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うわさの青年‐異類昏婚恋奇譚‐  作者: 兼村モナ
神社のお狐様
3/3

冬景色

 れん波留はるに会ってから二週間ほど立った頃。

 彼女の高校ではもうすでに、冬休みの期間に入っていた。あたりを見るとすでに雪が蕭々(しょうしょう)と降るような時期とかしていた。彼女は基本、学校に帰った後も、ほぼ日課のように波留のいるこの神社へと訪れていた。

 最初は、何故こんなに来るのかと疑問に思っていた波留は、蓮に意地悪をしてはその様子を見ていたが、それでも彼女がココへ来るのをやめないため、放おって置くことにしていた。


「よく来るな。お前は。』

「私の名前は『お前』ではありませんが...来ないでほしいんですか?」

「別に来んで良い。邪魔なだけだ。」

「今更警戒しても遅い気がしますが?婚約して”しまった”ので。」

「!」


 その言葉に波瑠の肩がまるで返事をしているかのようにピクリと動くのを見て、蓮は呆れたというように溜息を付いた。

 露骨に波留が目をそらすため、蓮は彼が座っている縁側の方へ寄り、隣に腰を下ろす。


「何故...俺にあの時気を許したんだ。」

「はい?」


 怒られた時、言い訳をする子供のように、モゴモゴと口籠りながら喋る波留に対し、反射的に問い返す。


「人間とそもそも関わりを持とうなんて気はなかった。故に神なんて以ての外だ。だが、あの娘だけには妙に惹かれたんだ。」

「だから、私に興味がないのならあんな事言わないでくれますかね?(ただただ、迷惑極まりないというのが本音なので。)」

「ああ、何故だろうな。あまりその記憶とあの娘の記憶がはっきりしていないんだ。あいつに簪を渡したことは覚えているんだがな。」


 波留は言いながらも、自分の矛盾に苦笑する。事実、娘を差し出せと言うが目の前の女に恋い焦がれ、再出された娘が目の前に来ても女に未練たらたらとは、結婚したら顔面一発殴るじゃ済まされないというのが蓮のうちに秘めた思いだった。


「意味がわかりません。まずありえないこと過ぎて、この前も頭痛になったばかりだと言うのに...なんですか、あなたは人を頭痛に陥れるのが趣味なんですか?」

「それはすまんが、俺のせいではない...と、脱線したな。で、何故だ?」

「え?ああ、今の波留さんの...いや、波留の話を聞いて再認識したよ。『ああ、私は頭のおかしい人と結婚しようと視野に入れてたんだなあ』って。でも、いくらあなたのバカさ加減が青天井並みだったとしても、一人は寂しいから...私はどこにもいかないよ。」

「結婚はせん。それに、お前がいても邪魔だと言っただろ。早く去れ。」

「は?」


 少しだけ、蓮の言葉を聞いて嬉しく思ってしまったがすぐに冷めた口調で上記の言葉を放った。しかし、口元には笑みを浮かべているのを彼も彼女も気づいていない。

 蓮は、春に対して睨むが春はさらさら気にしていない様子だった。


「帰らないよ。」

「何故だ。」

「ここが私の家だから。あんたのことも何もかもどうだって良いの。ここに居たいっていう私の我儘わがままなんだから。」


 少々、ムキになった様子で言う彼女に対し、お好きにどうぞというように片手をひらひらと振ると煙のように、波留は何処かへ消えた。

 しかし、波留には少し気にかかるものがあった。それは”何故蓮は家に帰りたがらないのか”だった。自分にお節介がしたいのか、否そうでは無いだろうと考えていた。が、いちいちくだらない事に目を向けても仕方がないと考え、その件はおいておくことにした。忘れてはならないが、この二人は婚約している。

 それからいちじかんほどたつと、社の周りは見違えるほどにきれいになった。


「よし、だいぶ良くなったかな。うん。」

「ふん、ここにタダで住む自覚を持ったのだな。」

「あゃっ!何…よ。」


 いきなり現れたことに驚いたが、出てきて早々嫌味を言われたため、頬をふくらませる。


「ほれ、まだこんなにも埃があるが…お前、本当に神主になる自覚はあるのか?居候兼神主(”いそうろう”けん”かんぬし”)になる自覚が。」

「グサッ…ぬう、あんたこそ本当に神様兼お狐様なわけ? 甚だ信じがたいわ。」

「ああ、もちろん。お前ら猿…人間のように貧弱ではないのだ。かわいそうに。」

 

 だいぶ失礼なことをペラペラと言うな、と思いながら着物の袖で、目薬の涙を拭う波留を蓮は睨む。しかし、それを波留は右から左に聞き流した。


「みたいか?」

「ええ、死ぬほど。」


 二人の周りには。誰にも入れないような張り詰めた雪よりも冷たい空気を出し、表情は豊かでも内心はドロドロと黒く汚かった。すると、波留の頭の上に乗っていた葉を手で払った。その瞬間、彼は瞬く間に狐の姿へと変化へんげ、いや戻した。

 髪は長く、目は黄色く、人間の姿をしているが、それはれっきとした狐だった。


「何故いつも、その姿でなかったの?」

「皆喚くからだ。そして、怯え俺が陽子だからと殺そうとする。猿が喚くのはうるさいからな。」

「いちいち、猿々って…」

「それに比べ、お前は静かだな。」

「うん、凄いくらいしか…あまりね。」

「そうか。もう良いだろ。」

「いいえ。」


 蓮は、不敵な笑みでニヤリと笑うが、波留はそれに対し溜息を付いてさっさと終わらせたいようだった。


「何だ?」

「さっき、妖狐だと言ったよね?もとはそうだったってこと?なら何故神に…」

「頼まれたんだ。元々ここの神だった”波留”に。」

「?」


 波留は、再び溜息をつくと話を続けた。


「俺の元の名は”月華げっか”。俺に神をやらせるのと同時に、名を与えたんだ。そうしないと、元の住民が怪しがるからだそうだ。お気楽なこった。ただ、用があってこの神社によっただけで次の日は置き手紙で『神になってくれ』だ。」

「で、は…いや月華はなんの神なの?」

「この神社の神使、つまり守り神は狐だ。だから縁結びの神と食物の神をやっている。正確には作物の豊作のな。」

「え?なんでその2つ?」

「”狐の嫁入り”ってあるだろ?それだよ。まずこの雨によって作物の豊作になるということと、そのおまけの縁結びってことらしい。」

「だいぶ、無理やりな気がする。」

「そのようなものだ。神ってのはな。民に必要とされ、まつられていくんだ。」

「ふうん。」

 

 そうなのか、と半端信じてないような感じで肯定し、小さく欠伸あくびをした。その様子を、無言で見つめる月華の視線に蓮は気づいていないが、そんな彼女に質問を投げかける。


「何故…いえにかえらんのだ。」

「…」

「言いたくないのであれば…」

「いつか言うよ。」


 この空間を静かに降る雪からくる寒気が支配した。そのいつかが、思いもよらずすぐ来ることを、彼女らは知らない。

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