魔族ステルス
「大江山衆が聖女アティシア達に捕縛されただと」
酒呑童子指揮いる大江山衆が聖女アティシア達に捕縛されたという報告が魔王ラーマの元に届いた。
「他の者を派遣致しますか」
「ふん、そんな必要は無い。そもそも身体強化しか能の無い脳筋達が捕縛されようと大騒ぎする程の事でもあるまい。暫く放置しておけ」
「畏まりました」
他の者の派遣は必要は無いと言ったが、このままでは面白くないのも事実だ。
取り敢えず適当な諜報員でも派遣しておくか。
私は魔王軍隠密部隊所属の諜報員ステルス。
実は私は物凄く存在感が薄い体質で、誰にも認識されない事が日常茶飯事だ。
その体質を買われて、隠密部隊に配属された。
今度の任務は聖女アティシア達の調査だ。
魔王様から命令された特別任務だから失敗は絶対に赦されない。
いつも以上に気を引き締めて任務に当たった筈なのに護衛のガードナーという女性騎士にあっさりと気付かれてしまった。
ダメ元で気付かれた理由を聞いたら、微かな足音がしたから気付いたという、到底あり得ない理由だった。
この女性騎士は音に敏感な変人だった。
耳女、異常聴覚者、音フェチ。
「この諜報員は役に立ちそつね。従属魔法で服従させて、くの一にしましょう」
【従属】
私の体質に興味を示したアティシアに従属魔法を掛けられて、くの一にされてしまった。
そして隠密部隊の情報を全て吐かされてしまった。
「お前、諜報員のステルスじゃねえか。久し振りだな」
裏切り者のデビルモンと再会した。
「うるさいわよ。黙りなさい。馴れ馴れしく話しかけないでよ。この裏切り者」
「良く言うぜ。お前だって裏切り者じゃねえかよ」
「・・・・」
とても悔しかったけれど、完全に図星なので反論出来なかった。
「社交パーティーに潜入して、不審な態度の者を全て報告しなさい。それが貴女の基本的な任務です」
アティシアから基本的な任務の説明をされた。
社交パーティー等に潜入する為に王宮や神殿でのシキタリとマナーを徹底的に叩き込まれた。
ハッキリ言って、隠密部隊の訓練よりキツかった。
必死でシキタリとマナーをマスターした。
隠密部隊所属の諜報員に聖女アティシア達の調査任務を命令したのに、少しも報告が届かない。
どうやら任務に失敗したみたいだ。
まぁ、暇潰しに命令した任務なので、成功しようが、失敗しようが、どっちでも構わん。
諜報員も使い捨ての道具だし、捕虜になろうが、処刑されようが、大きな問題は無い。
そもそも余には積極的に人族に関わるつもりなど無いのだ。
デビルモンが提案した婚約破棄計画も多少面白いから承認したに過ぎない。
成功しようと、失敗しようと、構わなかったのに、重臣達が騒ぐから、デビルモンをクビにしたのだ。
元凶の王妃ナヤミナと聖女アティシアの生首を持参しろと命じたのも、その場の勢いでしてしまったのだ。
多少でも被害が出るのなら、放置しておくべきだった。