魔族デビルモン②
「頭が痛い」
俺は酒に溺れて、毎日のように呑んだくれていた。
何もかも嫌になったからだ。
「畜生、魔王軍なんかに戻ってやるもんか。魔王のバカヤロウ」
俺は長年に渡り、魔王軍で魔王に仕えていたのに、たった一度の失敗でクビにされた。
もし魔王軍に復帰しても、直ぐにクビにされるかもしれない。
魔王軍への復帰など諦めて、暗殺者にでもなってしまおうか。
そんな事を考えるながら、歩いていた。
だから周囲への警戒を怠ってしまっていた。
【捕縛】
誰かに捕縛魔法を掛けられてしまった。
「魔族さん、お久し振りですね」
「お、お前は聖女アティシア」
目の前にアティシアが居て、俺を睨み付けている。
よりによってアティシアに見つかってしまうなんて、大失態をしてしまった。
こんな事なら呑んだくれるんじゃなかったぜ。
後悔先に立たずとは正にこの事だ。
「俺に何の用だ」
「貴方が呑んだくれているという情報を掴んだので、この前の襲撃の報復に来ました」
【従属】
アティシアが俺に従属魔法を掛けやがった。
「本来なら処刑する処ですが、それでは私の怒りは収まりませんので、貴方を下僕にします。そして死ぬまでこき使ってあげます。感謝して下さい」
【睡眠】
俺は睡眠の魔法を掛けられて、眠らされてしまった。
「此処は何処だ」
目を覚ましたら、真っ暗闇な部屋の中に居た。
「やっと目覚めましたか。この部屋は黒の部屋と呼ばれる王族専用の隔離部屋です。国王陛下と王妃様に頼み込んで、特別に借りました。目的は貴方の心を折り、私に完全に屈服させる事です。貴方がいつまで耐えられるか楽しみです」
アティシアは一方的に言い放って、退室していきやがった。
「ふざけるな。此処から出せ」
俺は叫び続けたが、何の反応も無かった。
一日目。
「此処から出せ」
二日目。
「此処から出してくれ」
三日目。
「此処から出して下さい」
四日目。
「反省しますから、此処から出して下さい」
五日目。
「謝罪しますから、此処から出して下さい」
六日目。
「土下座しますから、此処から出して下さい」
七日目。
「二度と逆らいませんから、此処から出して下さい」
八日目。
「下僕になりますから、此処から出して下さい」
「やっと心が折れましたか。意外と耐えましたね。少し見直しました」
アティシアが入室してきた。
「アティシア様、下僕にでも、奴隷にでも、何にでもなりますから、此処から出して下さい。お願い致します」
「良いでしょう、此処から出してあげます」
俺は久し振りに部屋から出る事が出来た。
そして心の底からアティシア様に忠誠を誓った。
「しかし八日間しか耐えられないなんて、情けない魔族ですね」
「違いますよ。八日間ではなく、八年間ですよ。黒の部屋では空間魔法により時間の流れが速くて、一日で一年分の時間が流れるんです。ちなみに栄養は減らないので、飲食は必要ありませんし、老化もしません」
罪を犯した王族専用の隔離部屋だけあって、黒の部屋は本当に恐ろしい魔牢だったのだ。
「そういえば貴方の名前を聞いていませんでしたね」
「お忘れですか。俺は部下だったデビルモンです」
「・・・・ごめんなさい。覚えていないわ」
「そうですか」
「デビルモン、魔族の情報を全て教えて下さい」
「畏まりました」
俺はアティシア様に魔族と魔王軍の情報を全て教えた。
魔族の裏切り者となってしまったが、反省も後悔もしない。
魔族も魔王軍も魔王も知ったことか。
アティシア様への忠誠心だけが俺の全てだからだ。
こうしてデビルモンは完全にアティシアに屈服して、真の下僕へと堕ちてしまった。