王女スルスルとマンプク子爵令嬢
「スルスル、そなたに妾の代役を命じます。聖女アティシアの相棒となり、二人で協力して懲りずに婚約破棄をする愚か者を断罪しなさい」
社交シーズンに入り、公務で忙しくなったので、愚か者を断罪するのが疎かになりそうだから、第三王女のスルスルに代役を任せる事にした。
わざわざ第三王女のスルスルを選んだのは王女の中で最も知恵が回り、狡猾で、腹黒くて、アティシアに性格が似ていて、とても気が合いそうだからです。
いわゆる類は友を呼ぶです。
「えぇ、面倒なので断固拒否します」
「拒否は絶対に認めません」
「それならスルーします」
「スルーも駄目です」
「嫌です。断ります。ストライキします」
「良い歳をしているのにワガママは止めなさい」
「良い歳をしているのは母上の方です」
「な、何ですって」
親子喧嘩が勃発しそうな状況になった。
「これ以上拒否するのならば、黒の部屋に隔離しますよ」
「・・・・分かりました」
黒の部屋に隔離されると言われて、スルスルは真っ青どころか真っ白になり、渋々命令を受け入れた。
「スルスル王女、これから宜しくお願い致します」
「コ・チ・ラ・コ・ソ・ヨ・ロ・シ・ク・セ・イ・ジ・ョ・ア・テ・ィ・シ・ア」
こうしてアティシアとスルスルは相棒となった。
今更ながら王族のネーミングセンスは酷いですね。
普通では絶対にあり得ません。
私なら自殺したくなる程に最悪です。
なんせ国王がビンビンで、第一王子がスカスカ、第二王子がスキスキ、第三王子がスクスク、第四王子がスケスケ、第一王女がスラスラ、第二王女がスリスリ、第三王女がスルスル、第四王女がスレスレ、第五王女がスロスロですもの。
ちなみに今は四男五女ですが、国王は超絶倫なので更に増えるかもしれません。
「ねぇ、どうしても断罪をしなければ駄目なの」
スルスルがワガママを言い出した。
「駄目です」
「頭が重い。熱が高い。足が痛い」
「これ以上ワガママを言うなら、王妃様に報告しますよ。そうなったら黒の部屋に隔離されますよ。良いのですね」
「・・・・分かったわよ」
「マンプク子爵令嬢、貴女との婚約は破棄させてもらう。理由は貴女が超大食いだからだ。貴女と結婚したら、我が家が破産してしまう」
私は子爵家令嬢マンプク。
婚約者のケチル様から婚約破棄を言い渡されてしまった。
婚約破棄の理由は私が超大食いだからだ。
私が超大食いなのは身体強化症候群という体質のせいだ。
常に身体強化のスキルが発動しているので、頻繁に栄養を摂取しなければならなかったが、身体能力は人の限界を遥かに超えていた。
元々この婚約は政略的意味合いが強くて、お互いに好意が持てなかった。
だから婚約破棄されても、何とも感じなかった。
「分かりました。婚約破棄を受け入れます」
私はあっさりと婚約破棄を受け入れた。
おそらく父上からは激しい叱責を浴びせられるだろう。
「それでは失礼致します」
「マンプク子爵令嬢、お待ち下さい。この婚約破棄は不当な行為です」
スルスルのワガママのせいで遅刻してしまい、婚約破棄が実行されてしまった。
「「聖女アティシア、スルスル王女」」
アティシアとスルスルの突然の乱入にマンプクとケチルは驚愕した。
【記憶再生】
アティシアは記憶再生のスキルを発動させて、記憶を映像化した。
「マンプクの超大食いのせいで、我が家が破産してしまうという理由をでっち上げて、婚約破棄を言い渡そう。そうすれば私の使える金が増える」
ケチルの独り言の映像が映し出された。
「・・・・」
ケチルの顔色が真っ青にどころか真っ白になった。
「貴方の罪は明白です。私は聖女として断罪します」
「右に同じです」
アティシアとスルスルはケチルに断罪を告げた。
ケチルは一年間農場での強制労働の処罰を受けた。
「マンプク子爵令嬢、私に護衛として仕えてくれませんか」
「・・・・でも私は超大食いですよ」
「構いません。衣食住は保証します」
超大食いの私を護衛として勧誘してくれるなんて、凄く優しい女性だと感動しました。
「はい、宜しくお願い致します」
アティシアはマンプクを勧誘して、護衛として仲間に引き込んだ。
本当に油断のならない女性だと呆れると同時に感心しました。
もしかしたら私より知恵が回り、狡猾で、腹黒いかもしれない。
スルスルは心の中で呟いた。