ヤシン公爵と魔族デビルモン
「はぁ~」
王妃は相変わらず溜め息を付いています。
どうして婚約破棄が最近になり、再び増えたのかしら。
一度は減少した婚約破棄が増え始めてきました。
増え始めた原因は不明です。
我が国はマジで呪われているのでしょうか。
「王妃様、婚約破棄が再び増え始めた原因が判明しました。貴族令嬢や令息達の間に魅惑の種とかいう薬が出回っているからです」
今回もアティシアが余の執務室を訪れて、原因が判明したと告げられました。
「魅惑の種?それはどのような薬なのですか」
「影の報告によると異性の心を惑わせる薬のようです」
「・・・・そんな危険な薬が出回っているのですか。直ちに出所を突き止めなさい」
「出所は突き止めましたが、ヤシン公爵の領地なのです」
「ヤシン公爵の領地ですって」
ヤシン公爵は我が国の有力高位貴族であり、最大派閥の首長であり、国王陛下でも迂闊に処罰は出来ません。
「ヤシン公爵が関わっているのですか」
「出所が領地だとしか確認されていませんので、ヤシン公爵が関わっているかは不明です」
ヤシン公爵は温厚な人物で、悪事をするとは信じられません。
「分かりました。相手がヤシン公爵では暫く静観するしかありません。ヤシン公爵と会う機会があったら、妾が直接ヤシン公爵と話し合います。それまでは調査を続行して下さい」
「畏まりました」
どうやら王妃の苦悩は簡単には終息しそうにありません。
「ヤシン公爵、貴公にお尋ねしたい事があります。最近頻繁に起こっている婚約破棄騒動の原因は魅惑の種とかいう薬が貴族令嬢や令息の間に出回っているからなのですが、その薬の出所が貴公の領地だという報告があったのです。妾は貴公が関わっているとは信じられません。正直にお答え願えませんか」
「王妃様、私は私自身に誓って、そのような薬とは無関係です。しかし私の領地が出所だと報告があったのなら、疑われているのは当然です。この上は私が自ら調査の陣頭指揮を行い、身の潔白を証明致します」
「分かりました。貴公を信じます」
幸運にもヤシン公爵と会う機会があったので、魅惑の種の事を説明したら、ヤシン公爵は自分は無関係だと主張して、身の潔白を証明する為に自ら調査すると確約してくれた。
「王妃様から私の領地が魅惑の種という薬の出所だという情報が伝えられた。直ちに調査をせよ」
ヤシン公爵は直属の隠密達に魅惑の種の調査を命じた。
隠密達は直ちに領地に散開して、魅惑の種に関する調査を開始した。
隠密達によって様々な事実が明らかになった。
派閥貴族が魅惑の種を製造している組織の首謀者であった。
公爵の側近が管理する街が製造場所だった。
隣国アメジスト公国貴族の領地が原材料の生産地だった。
同国の商人が原材料の流通を行っていた。
魔族が生産場所に居て、捕縛に向かった兵士達と戦闘になった。
魔族は不利を悟って、逃亡した。
捕縛された者達の証言によって、魔族が黒幕だと判明した。
そしてヤシン公爵の調査で、彼の身の潔白は証明された。
以下の事実が王宮に伝えられた。
首謀者はヤシン公爵派閥の貴族達であった。
ヤシン公爵の側近も協力者として製造に関わっていた。
隣国アメジスト公国の貴族や商人が原材料の生産と流通に関わっていた。
最も驚くべき内容は黒幕が魔族だったという事だ。
残念だが魔族の捕縛は出来なかったらしい。
取り敢えず事件は解決した。
これで婚約破棄騒動が起こらなくなって、王妃の苦悩が終息すると信じたい。
俺は魔王軍幹部のデビルモンだ。
俺の開発した魅惑の種という薬を人族の大国であるトパーズ王国の貴族令嬢や令息に蔓延させて、婚約破棄騒動を起こさせて、混乱させてやろうとしたのに失敗してしまった。
失敗の元凶は王妃ナヤミナと聖女アティシアだ。
わざわざ有力高位貴族のヤシン公爵の領地で製造して、誰にも邪魔されない筈だったのによ。
今回の失敗で魔王から処罰されるだろう。
良くて降格、悪ければ死罪だ。
あの二人は絶対に赦せねえから、死罪にならなかったら、いつか必ず復讐してやるぜ。
魔族を舐めるなよ。
俺は復讐を誓った。
「デビルモン、貴様はクビだ。解雇だ。懲戒免職だ。追放だ。魔王軍から出ていけ。但し失敗の元凶の王妃ナヤミナと聖女アティシアの生首を持参すれば、復帰させてやる」
魔王は激怒して、デビルモンにクビを宣告した。
但し王妃ナヤミナと聖女アティシアの生首を持参すれば、復帰させるとも言い放った。
「必ず、絶対、何としても、王妃ナヤミナと聖女アティシアを殺害して、生首を刈り取ってやる」
デビルモンの復讐心が強まった。