ストーカー被害者の女子高生只野乙女
「はぁ~」
思わず溜め息を付いた。
私は普通の女子高生の只野乙女。
平穏な暮らしを送るのが望みなのに、とても大きな悩みを抱えている。
それは同級生の首尾奈女留にストーカー紛いの行為をされている事だ。
私は世界一不幸な女だぁ~。
いつも大胆に身体を密着させてくるし、油断すると首筋を舐めてくる。
どうやら私の汗の味が超好みらしい。
そんな事は知らんがな~。
「乙女さん、おはようございます。今日も良い汗の匂いですね。身体を密着させても構いませんか。首筋を舐めても良いですか」
悩みの元凶の舐女留は今日も絶好調だ。
私は女神マリア。
地球を観察していたら、只野乙女という女子高生の思念が届いてきました。
あの女子高生は何ですか。
平和な世界で生活しているのに、世界一不幸な女だと思うなんて、なんと贅沢なんでしょう。
これは神罰を与えなければなりません。
異世界に転移させて、彼女の望み通りストーカーから解放させてあげましょう。
【転移】
乙女は異世界に転移させられた。
「此処は何処なの」
いきなり光に包まれたので、思わず眼を瞑った。
光が収まったので、眼を開けたら、見知らぬ場所に居た。
まるで王宮のように華やかな場所だった。
そして大勢の人達が私を驚愕した顔で見つめている。
何故か全員がパーティーに出席するような衣装を身に付けている。
コスプレ会場かなぁ。
「貴様、何者だ」
「不埒者、王家主宰の夜会に突然現れおって」
兵士のようなコスプレ集団に取り囲まれてしまった。
「お前達、その令嬢に近寄るな」
「「「スキスキ王子」」」
「美しい。貴女こそ理想の女性だ。決めたぞ。ユウガ嬢との婚約を破棄して、貴女を新たな婚約者とする」
イケメンが私に近寄って、婚約者とすると言い出した。
「・・・・」
私は呆然とするしかなかった。
「はぁ~」
王妃は溜め息を付きました。
スカスカだけでなく、スキスキまでも愚行を犯すとは、完全に怒りを通り越してしまい、もはや呆れるしかないわね。
王妃はスカスカに続いて、スキスキも見限る決心をしました。
スクスクとスケスケは大丈夫よね。
「衛兵、スキスキを黒の部屋に隔離しなさい」
スキスキ王子は衛兵によって、黒の部屋に隔離する為に夜会から連行されてしまった。
「衛兵、この令嬢を地下牢に投獄しなさい」
「王妃様、お待ち下さい。その令嬢は私が預かります」
「聖女アティシア」
「その令嬢に興味があるのです。お願い致します」
「・・・・分かりました。貴女に預けます」
「ありがとうございます」
「・・・・」
私は相変わらず呆然とするしかなかった。
「貴女、お名前は」
「只野乙女です」
「やっぱり日本人なのね。それも転移者よね」
「・・・・どうして分かったのですか」
「黒髪黒眼だからよ。それとセーラー服を着ているからよ。私は前世が日本人なのよ。いわゆる転生者ね」
「貴女がですか」
アティシアが転生者と聞いて、乙女は安堵した。
「貴女、私の専属侍女になりなさい。そうすれば私の保護下に入れるわよ」
「・・・・侍女ですか」
「もちろん名目上だけよ。実際に侍女の仕事をする必要は無いわ。現在の日本の状況が聞きたいので、話し相手になってくれれば良いのよ」
「・・・・分かりました。どうせ私には拒否権はありませんから」
「そんなに不貞腐らないでよ」
これで現在の日本の状況が分かる。
どんな話が聞けるのかな。
とても楽しみだわ。
「今は令和五年です」
「令和五年?私が死んだのは昭和六十二年よ」
「昭和は六十四年までで、その次が平成で三十一年までです」
「それで今の流行りは何なの」
「今の流行りはスマホです」
「スマホって何なの」
「スマホというのは携帯電話で、インターネットやゲームが出来ます。これですけど、この世界では使えません」
アティシアに所持していたスマホを見せた。
「ふーん、これがスマホなの」
アティシアはスマホに興味津々なようで、穴が空く程スマホを凝視した。
「食べ物の流行りは」
「・・・・え~と、カロリーメイトのバニラ味かな」
「カロリーメイトのバニラ味。一度食べてみたいわね。所持していない」
「所持していません」
「・・・・そうよね」
アティシアはバニラ味が食べられないので、がっかりした表情になった。




