Sideアリナ03.恋心
「やっぱり賑わってるわね。」
匿名掲示板を覗いてみるとゲーム内で起こった快挙の話題で持ちきりだった。
「そりゃそうよね。今まで無かったMP回復手段だし。」
リロードをしてみるとバザーへの出品の話になっていた。読んでみるとやはり価格が安すぎるみたいな話の流れになっていた。
〈私今度接触する予定だから伝えておくわ。それまでに市場の促進剤の相場決まればいいけど〉
彼女にヘイトを向けたくはないので書き込む。
こんなくだらない事で恨みを買うような事になってほしくない。
〈接触できたらスクショ欲しいなぁ〉
ふざけた書き込みもあったが無視。誰が渡すものですか。
――――
「…………ねむ。」
時刻は8時。土曜日にこんなに早く起きるのは久しぶりなのでとても眠い。
「いつ来るか分からないし早めにログインしとかないと……。」
最低限の身支度だけ整えPodに座る。
――ログインしました。
「装備のデザインでも考えながら待ちますか。」
掲示板が見える位置に陣取りスケッチブックを取り出す。
「学生っぽいからやっぱりセーラー服着て欲しいのよね。腕も細くて綺麗だったし脇が見えた方が良いから袖は無しの方向で……。」
彼女の外見は完全に頭に入っているのでイメージはどんどん固まっていく。
「色は濃いめの青にして……リボンは赤がいいわよね……。」
筆が進む……久しく忘れてた感覚だ。
「あとは……ちょっとえっちな下着とか着けてると子供が背伸びしたみたいで可愛いわよね。」
アイデアが止まらない。本当に楽しい。
鉛筆をひたすら走らせていると視界の端に白いマントが見えた。
「来たかな?」
時刻は10時前。気付けば待ち始めから2時間弱経っていた。
よし、声をかけよう。
緊張で心臓が高鳴っているのを感じるがなんとか表には出さないようにする。
「あなたがミィちゃん?」
声をかけるが反応はない。聞こえなかったかな?
「ミィちゃん?」
今度は背後から声をかける。
「ひ……人違いですぅ。」
上擦った素っ頓狂な声が聞こえてきた。
「一昨日の配信から興味があったんだけど、よかったらお友達にならない?」
ひとまず会話のきっかけを作らねばと思い話しかける。
「あの……えーとですね。…………ごめんなさいっ!」
全速力で逃げられた……。
「うえっ!ちょっ!……って速っ!」
本当に早い。とりあえず後を追いかける。
全く追いつく気配もなく街の外れまで来てしまった。
「どこ行ったのかしら。」
あたりを見回しても見つからない。
「街の外に出たのかしらね?」
出口前に立っているNPCが居たので話を聞いてみる。
「すいません。今ここから女の子が出ていきませんでしたか?」
「あぁ。さっき異邦者の女の子が出て行ったけど何かあったのかい?」
どうやら合っていたようだ。
「いえ。知り合いなのですが碌な装備もせずに走って行ってしまったもので。」
「そうなのか。まぁここら辺は遠くに行かない限りモンスターは出ないから大丈夫だとは思うが。」
「武器も装備してませんし奥までは行かないと思うので大丈夫だとは思いますが心配なので追いかけてきますわ。教えてくれてありがとう。」
軽く会釈して彼女を追いかける。
「もしさっきの勢いのまま外に出たとしたら……不味いわよね?」
嫌な予感がしたのでエルフのスキル【森渡り】を発動し木の上を進む。
この状況は不用意に声をかけた自分のせいだ。
あそこまで逃げられるとは思ってもいなかったがそれでも発端は自分なので軽い嫌悪感に襲われる。
探す事数分狼型のモンスターに襲われている彼女を発見した。
「やっぱり!」
すぐさま弓を構えて狙いを狼に向ける……。
「いや……動いてよ!あいつが来ちゃう!……このっ!」
恐怖で足が立たないのだろう、目に涙が溜め座ったまま後ずさる彼女を見て私は手を止めてしまった。
恐怖に歪んだ顔は酷く美しく見え、気付けば私はスクショを撮っていた。
「誰か助けてっ!」
彼女が上げた叫びが私を現実に戻す。
「マズいっ!」
すぐさま弓を引き狼の頭を射抜く。
間一髪だった。もう少し遅ければ襲われていただろう。
このゲームのリアルさを考えるとトラウマになってやめてしまう可能性もある。それだけは避けなければならない。
「大丈夫?」
木から降りて声をかける。
先程の劣情と罪悪感で胸が痛む。
「さっきは急に走って行っちゃったから見つけるの苦労したよー。でも危ないところだったみたいだからタイミング的にはバッチリだったかな?」
我ながら白々しいセリフを並べて手を差し伸べる。
「ありがとうございます。……ほんと助かりました」
彼女が手を取り可愛らしい声でお礼を言ってきた。
すごく手が柔らかかった。
「街の周辺は大丈夫なんだけどちょっと離れるとモンスターが出てくるから気をつけたほうがいいわよ。」
さっきNPCに教えてもらった事をさぞ自分の知識として教える。
「あの……ありがとうございます。あの、さっきも逃げたのに……た、助けてくれて。」
ダメだ……少し話してわかった。多分この子は悪い子じゃない。
「気にしなくていいのよ。さっきは急に話しかけた私が悪かったし。」
邪な感情は出さぬようあくまでスマートなお姉さんとして振る舞う。
「いや……でも私もすごく失礼な態度だったし……。」
チクリ……チクリと胸が痛む。
「私が気にしなくていいって言ってるんだから、気にしないの!」
冷静に……冷静に……。
「まぁ、お礼がしたいって言うなら今度は逃げずに仲良くしてちょうだいね。」
最低だ。こんなんじゃ弱味につけ込んでるのと何も変わらない。
「あの……私でよければ、よろしくお願いします。」
嫌そうな素振りなど何も見せず彼女は微笑んだ。
これじゃ偶像のように愛する事なんてできない。
「あはは!ありがとね。自己紹介遅れちゃったけど、私の名前はアリナ。種族はエルフです。よろしくね!」
私の一目惚れは確実な恋心となってしまった。
「私はミィ……。種族は人間で、あの、知ってると思うけど錬金術師やってます。」
どうか悟られませんように。
どうか嫌われませんように。
そして許されるのなら……この恋が実りますように。
これで一旦アリナ視点は終わりです。
次の更新は2日ほど空けさせていただきます。
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