01.ちやほやされたい隠キャな私
世界は隠キャに優しくない。
学校の机に突っ伏しながら私はそんな事を考えていた。
私の名前は七海 一華15歳の高校1年生。
楽しい楽しい学校生活……なんてものとは縁もない寂しい寂しい学校生活を送っている一般隠キャである。
趣味はゲームと匿名掲示板漁りにたまの軽い運動……どうしてこうなってしまったのか。
口下手だったけど小学生の頃は足も早かったし運動も得意だったから遊ぶ友達もそれなりに居た筈なのに、中学に上がり学区の影響で友達と離れ、さらに中学3年生の頃追い討ちのような両親の転勤で都会の方に強制連行。
自己紹介でテンパりまくりまともに話せなかった私が既存グループに入れる訳もなく友達もいないまま高校入学をし今に至る……。
あぁ……懐かしき小学生時代、多分あそこが私の最盛期だ。
だけどそんな悲しい自分とはもうおさらばしたい、本音を言えばちやほやされたいし承認欲求を満たしたい!……でも面と向かって人とは話したくない。
でもこの前見つけてしまったんだ……そんな私のわがままを叶えられそうなゲームを!
《Freedom World Online》通称《F W O》
フルダイブ型VRMMOでリリースは1週間前、完全投影を売りにしていて何より私が注目しているのは動画配信機能。プレイ映像をAIが一番映えると判断したカメラワークでリアルタイム配信するというとんでもないシロモノなのだ。
リリース1週間だがβテスト期間もあり、注目ゲームのためもう人気配信者なるものも存在しその再生回数は多いもので100万を超えている。
そこまでは望んでいないが50人くらいにコメントもらいながら承認欲求を満たしたいと思うそんな私の理想のゲーム。
フルダイブ故に馬鹿でかい椅子型のハードを購入しなければならないので両親に頼み込み10年分のお年玉を使い少し遅れたが今日ようやくプレイできるという訳なのだ。
そんなものだから早く学校終わらないかなぁと机に突っ伏しながら考えていると予鈴が鳴り響く。
……さてあと半日の辛抱だ。
終業のチャイムと共に私は学校を出た。普段の学校での私からは考えられないほどの俊敏な動きだし何人かのクラスメイトは何事かとこっちを見ていたかもしれない……誰の名前もわからないけど。
「ただいまー!」
家のドアをものすごい勢いで開けて一目散に自分の部屋へと向かう。
「ちゃんと手を洗いなさいよー!」
母の声が聴こえてくる……逆らうと怖いので洗面所に向かおう。
「そういえば一華が頼んでたゲーム届いたけどあれすごい大きいもんだからお母さんびっくりしちゃったわ。」
「そんな大きかったんだ。私もカタログしか見てないからそんなにイメージできてなかったんだよね。それはそうと受け取りありがとねお母さん。」
「休みだったから気にしないでいいのよ」
そんな会話をしながら私は自分の部屋へ向かう。
扉を開けるとそこにはマッサージチェアを3倍ゴツくしたような物体があった。
「これがFOW……さ、早速始めましょ!」
興奮を抑えられないまま私は本体の中に座った。
そのままVRゴーグルのようなものを下げて手元のスイッチを入れる。
瞬間目の前には真っ白な空間が広がり優しい女性の声が聞こえてきた。
「この度はFreedom World Onlineをご購入いただき誠にありがとうございます。これよりキャラクターメイキングを開始いたします。」
そんな声が聞こえてくると目の前に人の体が生成されていく。
私の体だ。自分で言うのもなんだけど私は世間一般的に見れば美少女にカテゴライズされると思う、それもとびきりの美少女だ。
サラサラのロングヘアー、前髪で目は隠れているが大きな優しい目、綺麗な鼻筋、ぷっくりとした唇、それでいて巨乳。身長は156と小さいけどそれを補って余りあるほどの可愛い系の顔だと思う。
まぁコミュニケーション能力で全てが台無しなんですけど。
「ベースとなる外見はPodから読み込まれたものを使用いたします。大幅な変更はできないのでご了承ください。」
あの本体はPodという名前らしい。そして外見は現実とそこまで変えられないとの事……これはまずい……。
配信者としてちやほやされたい私としてはリアバレなんてもってのほか!どうにか逃げ道は無いものか……。
そんなこんなで操作をしていると身長はプラスマイナス5cm、目は吊り目、垂れ目程度の変更、髪型はある程度自由、胸のサイズは変更可ということがわかった。
「ってなるとまず身長は夢の160cmでしょ……髪型は色は黒のままがいいからそのままで肩くらいの長さにして……前髪は眉毛にかかるくらいまで短くして……目は私垂れ目気味だから吊り目に変えて。胸は重くて肩凝るから程よい膨らみくらいにしておきましょう。」
ぶつぶつと独り言を呟きながらキャラメイクを進めていく。
「こんなものかしら!」
30分くらい格闘して出来上がった私の身体。
髪の毛は軽くウェーブがかかった肩までの黒髪、少し釣り上がっている強気そうな目そして現実では重くて億劫だった胸もこの通りぺったんこ。
全体的に見るとメスガ……生意気そうな子供って感じだ。面影は残っているがかなり現実との印象は違う。
「こんくらい違えばリアバレしないでしょ。」
あまり別人すぎても愛着湧かないだろうからここまでにして決定ボタンを押す。
「続きまして種族をお選びください。」
種族も選べるのか。種族によって特徴が違うみたいだけどどうしようかしら。
かなり悩んだ……正直外見より悩んだ。数が多すぎる、なんだよ植物族って……しかし色々見てみたけど一周回って最初に戻るようにできてるのか私が選んだのは
【人間】平均的に能力値が上がる。DEXに補正あり。
そう【人間】である。決して選ぶのが面倒になったとかではない……断じてない。
決定ボタンを押すと私の意識はその身体に移された。
「うわーすごい!本当に身体があるような感覚だ!」
肩をぐるぐる動かしたりジャンプしてみたりした。ちゃんと感覚があるってすごいなぁさすが最新ゲーム!
ほっぺたを触っているとアナウンスの声が聞こえてきた。
「続いて体力測定をします。こちら初期能力値を決める大事なものになりますので全力で挑んでください。」
体力測定?そんな事を考えていると目の前にSAS●KEのようなステージが現れた。
「こちらアスレチックになっております。進んだ先にゴールがありますのでそこを目指してください。」
その声と共に視界の端に何やらタイマーらしきものが現れる。
「いきなりすぎるわ!」
急いで駆け出し飛び石みたいなものやそり立ってる壁みたいなのを超えていった。
「昔に比べて体力がある上に胸の重りも取れてるから凄く動けてる気がするわ!」
私は早くも胸が無い恩恵を受けていた。聞く人が聞いたら怒るかもだけど大きくても邪魔なだけだと私は思う、走ると揺れて痛いし……。
「っていうか……ほんとすごいわこのゲーム!」
私は高揚感に包まれたままゴールへと駆け抜けていった。その後もサンドバッグを殴ったり反復横跳びなど色々やった結果……。
「こちらが初期ステータスとなります。ボーナスポイントを付与しますのでそちらの振り分けをお願いいたします。」
【STR】2
【VIT】15
【INT】10
【MND】0
【DEX】0 種族補正+15
【AGI】20
ボーナスPt60
……我ながらそこそこ良いのでは?多分だけどボーナスが60なところを見ると平均能力値は10なのだろう。【MND】と【DEX】は体力測定で測れないから0、【INT】は最低限の知識はあるという基準で10、あとは測定結果に応じてステータスを決めるから好きなようにボーナスでビルドしてねという事なのかな?
というよりこれアスリートとかめっちゃ有利なんじゃないかな……たかだかゲームと言われればそれまでなんだけどそういうところも含めてリアリティということなのか。
とりあえずポイントを振り分けてっと……。
【STR】2
【VIT】15
【INT】20
【MND】20
【DEX】30 種族補正+15
【AGI】20
ボーナスPt0
できた!低すぎる【STR】には笑ってしまうがこれが私のステータス!
「続きまして職業の選択をお願いいたします。メイン職業とサブ職業の2つをお選びください、転職には特別なアイテムが必要となりますので慎重にお選びいただきますようお願いいたします。」
きた!事前情報をあまり入れないようにしてきた私が入れたほぼ唯一といっていい事前情報!
匿名掲示板で不遇、選ぶ奴はドM、カス職業と言われていたため逆張り魂が燃えに燃えて絶対に選んでやろうと思っていた職業……【見習い錬金術師】!
リアルを売りにしてるゲームならではの調合の難易度、それを乗り越えて出来た物も店売りに毛が生えたような性能……最高じゃない!
こんな職業で配信なんかしようものなら良い晒し者かもしれないけどマニアックな方がみんな優しくしてくれそうだし、基本は戦闘配信や雑談配信ばっかりだから物珍しさで見てくれるかもしれない!
ちやほやされたいという私の承認欲求を満たすのにこれ以上の職業は無いってことなの!
ということでメイン職業は【見習い錬金術師】!続いてサブ職業だけどこっちはもうなんでもいいかなって思ってる。戦闘配信は基本しないつもりだし採取の時に自衛できる程度でいいから【見習い拳闘士】とかで良いかな。
メイン職業【見習い錬金術師】
サブ職業【見習い拳闘士】
「これでけってーい!」
「それでは最後にあなたのお名前を教えてください。」
そういえばまだ名前を決めてなかった。最後に名前をつけてこの世界に生み落とされるって感じなのかな?まぁそこはいいとして名前は前から決めてたのです!
「苗字の最後と名前の最初を取って……ミィ!」
名前欄にミィと入力して決定ボタンを押す。
「ミィ……それがあなたの名前なのですね。それではこれよりあなたの旅路に幸多からんことを……」
瞬間目の前がホワイトアウトした……。