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8 採れたてミルク

「なんだこれ」


 俺は異様な光景を目の前にただ口を開けるしかできなかった。森全体を襲ったであろう衝撃波によって鳥たちが甲高いいななきをあげている。


「終わったわよ」


 いつの間にハルは大剣を背負い踵を返していた。

 確かに、巨竜虫の巣は跡形もなく消え去っており、目的は達成されたといえるだろう。


 それにしてもエゲツない破壊力だ。木々はなぎ倒れ、地面はエグれ、まるで巨大な竜巻が通った後のようだ。


 これがSランク冒険者【溜撃(アキュムレイト)女王(クイーン)】の実力というわけか。俺はとんでもないやつとパーティを組んでしまったようだ。


「何よ。早く帰るわよ」

「あ、あぁ」


 俺は引き攣った顔のままハルの後ろを付いていく。まだ足が震えていることにハルに気付かれないようにしながら。


「おー。お前ら大丈夫だったか?地震があったみてぇだが」


 森を抜け、牧場に着くや否や、依頼主のワイアープが心配そうに話しかけてきた。おそらくハルの【溜・撃・斬】の衝撃波を地震と勘違いしたのだろう。


「大丈夫よ。そんなことよりアンタ、原因は毒飛虫じゃなかったわよ」

 

 ハルは依頼主のワイアープに対して不満げに言った。


「そら本当か? 俺はでけぇ虫がホリウシを襲っているのを見えたんだが」


「それが毒飛虫じゃないって言ってんの。毒飛虫は大きくても10cm程度、アンタのホリウシを襲ってたのは巨竜虫よ」


「巨竜虫?」


 ワイアープは何を言っているのか分からないようで、俺に救いを求めるかのような目線を送っている。


「詳しくは私が話します」


 ハルとワイアープに任せているといずれ喧嘩になりそうだと踏んだ俺は、牧場の母家に戻ってから事の顛末をワイアープに説明した。


「なるほどな。俺がデケェ毒飛虫だと思ってたのが、巨竜虫っていう違うモンスターだった訳だな」

「そうです」

「それはすまねぇ事をした」

「まぁ冒険者でもなければモンスターの事に詳しくないのは当たり前です」

「ところで、そんなモンスターの巣をよく二人で駆除できたな」

「まぁ俺は何もしてないんですが」


 俺は事実を述べた。


「じゃあ、この小せぇ嬢ちゃんがやったってのか?」


 ワイアープは驚いた顔でハルの方を眺め見た。 


「そうよ。何か文句あんの」


 椅子に座ってちびちびとミルクを飲んでいたハルが不機嫌そうに言った。


「いや〜。すまねぇすまねぇ」


 ワイアープが笑いながら謝罪すると、続け様に切り出した。


「ところで報酬なんだが、500デルだと少ねぇよな」


 ワイアープの言うことは正しかった。ギルドも毒飛虫の駆除として500デルの報酬でクエストを引き受けたのだろうが、巨竜虫となれば話は変わってくる。


 巨竜虫の駆除となると恐らく10倍の5000デル、巣の駆除ともなれば10000デルにもなるクエストだろう。


「だがあいにく俺は今、金を持ってねぇんだ。そこで提案なんだが、このオーケー牧場の採れたてミルクを一生飲み放題って報酬はどうだ?」


 ワイアープは自信満々な様子で提案をしてきた。相当ミルクの味に自信があるのだろう。


 さて俺は、全く仕事をしていないのだから決定権はハルにある。


 俺はハルの方を見た。

 

 ハルはコップに口をつけたままコクリと頷いた。


 どうやらハルも俺と同様ここのミルクが気に入ったらしい。


 初クエストが順調に終わったことと、ようやくハルの子供らしい部分が見えた気がして俺はほっと溜息をついた。 


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