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7 巨竜虫

「毒飛虫が家畜を襲うなんて聞いたことがないわね」

「ハルも気づいてたか」


 毒飛虫は毒こそ持ってはいるが、家畜を襲うほど獰猛ではない。だから俺はてっきり牧場の蔵に巣を作っているレベルだと思っていたが、森から来るとなれば話は別だ。もしかすると被害は他の何かのせいかもしれない。


「警戒はしておこう」

「当たり前でしょ。森に入ったからにはモンスターが出る可能性もあるんだから」

「さすがはSランク冒険者様だ」

「馬鹿にしないで」


 俺が減らず口を叩こうとするとハルが手をあげて制した。


「静かに。羽音がする」


 確かに耳をすませば、かなり遠くから虫の羽音らしきものが聞こえる。


「かなり大きそうだな」


 俺が小声でハルに言うとハルは静かに頷いた。


「たぶんこの音は毒飛虫(ギブド)じゃない。恐らく巨竜虫(ガドラド)。数もそれなりにいそうね」


 巨竜虫だと。巨竜虫といえば飛虫の中では最大で、冒険者討伐の特定モンスターにも入っている厄介な虫だ。


 しかも討伐となればCランク、女王を含んだ巣の駆除となるとBランクになるモンスターだ。俺には到底敵う相手ではない。


「どうする。一度帰ってギルドに報告するか?」


「冗談じゃないわ。面倒だしやっちゃうわよ」


「本当か?俺はどうしたらいい」


 急に胸の動悸が早くなってきた。簡単な虫退治だと思っていたら、命の危機があるクエストへと変わってしまった。


「巨竜虫の生態は知ってる?」

「全長50cmほどで性格は極めて獰猛。鋭い大顎で肉を食いちぎる。女王がいる土巣は5mにも及ぶ。図鑑でしか見たことはないが」

「まぁ上出来ね。気づかれないようにゆっくり行くわよ」

 

 俺は自信なく頷いた。虫が苦手な火魔法は使い物にならない。俺ができるのは剣を振ること、そして透明になることだけだ。


 ハルはへっぴり腰の俺の前を音を立てないように歩き始めた。羽音と共に俺の心音も少しずつ大きくなる。もう透明になった方がいいのだろうか。


「鼻息荒い」


 ハルが小声で言うと、俺は生唾を飲んでゆっくり頷いた。

 

「見えた」


 ハルは立ち止まると、視線で俺に合図した。

 

 木の陰から見えるのは十数匹ほどの群れをなす巨竜虫と、その奥に位置する巨大な土巣であった。どうやら集団で鳥を捕食しているようだ。


 50cmもの大きさを誇る飛虫が大顎に血を付けながら肉を食らう様は、気持ち悪いというより圧巻で、弱肉強食の世界をまざまざと感じさせるものだった。


「どうする?」


 と俺が問う前にハルは一本指を口にあてて制し、そのまま背負った大剣の柄に手をかけた。


 まさかここから攻撃を放つつもりか。かなり近寄ったがそれでも10m以上は離れてる。


 そんな心配をよそにハルは大剣を両手で握り独特の構えをとっている。腰を深く落とし、背丈ほどある大剣をまるで肩から担ぐかのように大きくそり返らせ、上半身で捻りを加えている。


 それはおおよそ俺の知っている剣の構えとは違い、防御を一切排した渾身の一撃だけに全てを賭けている構えと言っていいだろう。


 俺が唖然とその異様な構えを見ていると、ハルの身体から白いオーラのようなものが溢れ始めた。これが超レアスキル【溜撃】の力というわけか。


 オーラはハルの身体からどんどん溢れ出すように大きくなり、気のせいか空気が振動しているような気がする。


 いや、気のせいではない。ハルの周りの木々はざわめき始め、近くにいる俺は肌がピリピリと痺れ出すのを感じた。


 もちろん異様な振動に気づいたのは俺だけではなかった。巨竜虫の群れはまるで命令されたかのように、一斉にこちらの方を向き、恐ろしい羽音をさらに大きくさせて急接近してきた。


 かなりヤバい。ハルのことを見ていたせいで透明になるのも忘れていた。

 

「離れて」


 ハルはそう言うと、さらに腰を深く落とし、オーラも一気に二倍ほどの大きさに吹き出しはじめた。


 俺は咄嗟に後退りをした。

 巨竜虫もヤバいが、こいつの近くにいるのはもっとヤバい。俺の直感がそう告げている。 


「【溜・撃(アキュムレイト)・斬(スラッシュ)】」


 耳をつんざく爆音、身体が浮いてしまうほどの風圧。覚えているのはそれぐらいだ。


 いつの間にか地面に倒れていた俺が上体をあげると、そこにはまるで巨大な砲丸が地面をこそぎながら進んだような、異様な跡地が残っていた。


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