6 初クエスト
「パーティ名はお決まりですか?」
受付嬢のテルーズが問う。
パーティを組むとなれば登録名が必要となるのだが、長年パーティを組んでいなかったせいですっかり忘れていた。
「ハルは決めてるのか?」
「名前なんてどうでもいいわ。アンタが適当に決めていいわよ」
早くクエストに行かせろ言わんばかりの仏頂面のハルが答えた。
適当に決めていいと言われたが、どうしたものか。仮に最強のパーティを目指すなのだとしたら、カッコいい名前がいいに決まっている。
かと言って40歳のオッサンなので相応の名前を付けなくては恥をかくことになりそうだ。
「ねぇ。早くして」
「ちょっと待ってくれ。というかお前はアイデアはないのかよ」
「うーん。じゃあストア&インビスでいいんじゃない」
「お前それ本気で言っている?」
「何よ。二人の名前が入ってるんだからいいじゃない。逆に何が不満なのよ」
「ひねりがなさすぎるだろ。もっとカッコいいのにしないと。さっきの【銀騎士兄弟】とか有名な【ジュール・ゲート】とか」
「だからアンタが決めていいって言ったでしょ」
俺とハルが口論しているとテルーズが気まずそうに話しかけきた。
「あの〜。パーティ名は後にも変更できますので、とりあえずは【ストア&インビス】で登録しますか?」
「まぁテルーズちゃんがそう言うなら」
「私の提案なんだけど」
「ではFランクのクエストを紹介していきますね」
そう言うとテルーズは次々とクエスト内容や報酬の詳細を語り始めた。
「最後は【毒飛虫の駆除】です。依頼者はオーケー牧場の主人ワイアットさんです。内容は牧場付近の毒飛虫及び巣の駆除、報酬は500デルと採れたてミルクです」
「はぁ。見事に雑用ばっかりね」
そう言うとハルが溜息を漏らす。
「何だよ。どれもいいクエストばっかりじゃねぇか。人の役に立てて金までもらえるなんて最高じゃねぇか」
「じゃあアンタが決めていいわよ。どうせ数をこなさなきゃ昇級もできないだろうし」
「お、いいのか。じゃあ最後の毒飛虫だな。こいつなら前に駆除したこともあるし、オーケー牧場のミルクって言ったら美味しくて有名だからな」
「よりにもよって虫退治か。まぁいいわ。早く支度をして行くわよ」
「へいへい。Fランクは俺にお任せあれ」
「ではクエストを受注します。頑張ってくださいね。ハルストレムさん。インビスさん」
「ありがとうテルーズちゃん。行ってくるよ〜」
項垂れるハルをよそに俺は虫退治の準備を進めた。
毒飛虫の針に含んだ毒は人を殺すレベルではないが、急性の神経毒で身体の不自由を引き起こす場合がある。だから針を通さない厚手の服と解毒薬が必須となる。
「アンタ暑そうね」
「お前こそそんな薄着で大丈夫か。刺されるとイテェぞ」
「刺される前に一掃すればいいんでしょ」
「頼もしいねぇ」
「お話はいいからさっさと行くわよ」
俺とハルは依頼の場所であるオーケー牧場まで歩いて行くこととなった。さいわいオーケー牧場は集会所〈ティガーホール〉から近いバーバレラの北西に位置しているため、徒歩でも2時間あれば到着できる。
「ところでハル。なんでわざわざ付いてきたんだ」
「は?クエストを受けたんだから当たり前じゃない」
「まぁそうなんだけどよ。実際俺が一人でやったとしても、クエストはこなした事になるだろ。だったら俺一人でこなせないような昇級クエストが受注できるようになるまで、お前は休んでたっていいわけだ」
「これは【ストア&インビス】で受けたクエストなのよ。二人でこなすのが当たり前だし、二人いないと依頼主も納得しないでしょ」
「意外と律儀なんだな」
「意外とは何よ」
「すまんすまん。おっそろそろだな」
小さな丘を越えると、そこには緑豊かな牧場が広がっていた。大きな牧場にはホリウシだけでなく、カサウマ、ヤツヒツジたちも放牧されているようだ。
「すみませーん」
俺が牧場の母家らしき建物に声をかけると、中からオーバーオールを着た、初老の男が現れた。男は白い髭を生やしているが、まだまだ働き盛りといった体格の良さをしている。
「毒飛虫を駆除してくれる冒険者ってのはお前らかい?」
「そうよ」
ハルがいち早く答えると、男は訝しげにジロジロと眺め始めた。
「本当にお前らで大丈夫かぁ」
「何よ。文句あるの」
「まぁまぁワイアープさん。俺たちに任せてくださいよ。見た目はオッサンと少女だけど、やるときゃやりますから」
ハルと男が喧嘩になる前に俺は割って入った。雑用に近いFランクでは依頼主との円滑なコミュニケーションが大事なのだ。これが万年Fランクの俺の処世術だ。
「うーん。ギルドが寄越したってことなら仕方ねぇ。毒飛虫が巣を作ってるのは牧場の近くの森だ。近くまで案内しよう」
俺たちは牧場主のワイアープに連れられて牧場の外れまでやってきた。
「毒飛虫が巣を作ってるのは、おそらくこの先だ。ヤツらに俺の大事なホリウシたちが被害にあってんだ。頼んだぜ」
毒飛虫がホリウシを襲うとは聞いたことがないが、ともかく行ってみるしかないだろう。
「任せて下さい。美味しいミルク待ってますよ」
そう言って俺たちは森へと入って行った。