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4 40歳の決断

「あなた、私とパーティを組みなさい!」


「はぁ?!」


 報酬ランキング入りの期待のホープと、底辺オッサンがパーティを組むだと。

 

「いや、何かの間違えじゃ」


「本気よ。あなたの力と私のスキルを組み合わせれば最強のパーティになれるわ」


 確かに、こいつの【溜撃(アキュムレイト)】と俺の【透過(トランスパーレント)】の相性がいい事はなんとなく分かる。

 攻撃を溜めている間、透明になることができれば、相手に近づき強力な一撃が確実にヒットさせることができるだろう。


 だが、それにしても俺なんかと未来明るいエリートは不釣り合いすぎる。

 俺は全魔法F適性で基本的な魔法する儘ならない落ちこぼれなのだ。


 そもそも【透過】スキルも物を一瞬透かす程度と言われるハズレ扱いのスキルだ。

 魔法適性が全滅で、【透過】だけがA適性だったから、極めたものの、それにすら30年もかかってしまった。

 そんな【透過】しか才のない俺が今更、パーティを組んで、しかも最強を目指すなんて。

 

 確かに昔は冒険者に憧れてはいたが、もう基礎体力すら危うい年だ。

 今の俺は女湯を覗くこともできるし、ギリギリ生活はできている。

 これからも存在感を消してコソコソと透明人間のように生きる。

 それが俺の人生なのだ。


「答えは?」


 少女が答えを急かす。

 ちょっと待ってくれ。

 オッサンは変化に弱いんだ。

 断るにしても確固たる言い訳が欲しい。


「早くして。無理なら諦めるわ」


 なんてせっかちなんだ。

 名前も知らないオッサンとパーティを組むのに躊躇はないのか。

 だが、この決断力こそが強さの理由なのか。でも、やっぱり俺なんて…


「分かったわ。初めてパーティを組みたいと思った相手なのに、残念ね」


 少女は返事に困っている俺をジトっとした目で一瞥すると、後ろを向いた。

 大剣を背負った小さな後ろ姿が遠ざっていく。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 気がつけば俺は叫んでいた。


「本当に俺でいいのか?透明になることしか取り柄のないオッサンだぞ」

「いいわよ」

「もう40歳だし、体力もないし、腕力もないし、魔法も使えないぞ」

「いいわよ」

「加齢臭もするし、すぐに休みも欲しがるし、時々女湯を覗こうとするぞ」 

「最後のはやめて欲しいわね」


「こんな落ちこぼれでもいいのか?」


「うん。名前は?」


「インビス。インビス・アーレントだ」


「よろしくインビス。私のことはハルって呼んで」


「あぁ。よろしくハル」


 俺たちは散らかった酒場の片隅で固く握手をした。

 ハルの手は小さいのに驚くほど力強かった。


「じゃあ早速、クエストに行きましょう」

 

 そう言うとハルはクエスト依頼が並べられる掲示板の方へと向いた。


「ちょちょ、ちょっと待ってくれ。まずは自己紹介とか色々あるだろ」

「私はハルでスキルは【溜撃】、あなたはインビスでスキルは【透過】。コレで十分でしょ」

「そんな訳あるか。せっかくパーティを組むんだから親睦を深めようじゃないか。好きな食べ物とか、趣味とかさ」

「そんなのクエストに必要ある?」


 ハルは表情一つ変えずにそう言い放った。

 俺はこんな冷血少女とパーティを組んでしまったのか。


「まぁ必要はないかもしれないけど、今日じゃなくてもいいんじゃないか? もう疲れたし……俺の誕生日だし」

「あら、誕生日だったの。おめでとう」

「お、おう。ありがとう」


 そんなの関係ない、とでも言いそうだったが時々素直な部分があって調子が狂う。 

 

「分かったわ。じゃあ今日は休んで明日からクエストよ。朝10時にここ集合ね」


 ハルは淀みなくそう言うと、野次馬をかき分けてツカツカと出口の方へと向かっていった。


「分かった。ちなみにハルは何歳なんだ?」


「16よ」


 振り返ることなくハルが答えた。


 16歳だと。俺の2分の1にも満たないじゃないか。

 16歳であの態度を取れるなんて、将来は大物だな。まぁ今でも大物か。

 

  俺がため息をつくとテルーズが話しかけてきた。  


「なんだか、あっという間でしたね」

「本当に。大丈夫かな俺?」

「インビスさんなら大丈夫ですよ」

「けど俺にできることなんて透明になることぐらいなんだけど」

「そんな事ないです。今回だってそうです。インビスさんが誰より勇敢な事、私は知ってますから。はいどうぞ」


 そう言ってテルーズは発泡酒を注ぎなおしてくれた。


 この世に天使がいるなら、間違いなくこの子だ。


「テルーズちゃ〜ん」


 俺がテルーズちゃんに抱きつこうと歩み寄ると、半身で華麗に躱された。


「何やってんのよ? てか何これ?」 


 ようやくトイレから帰ってきたルナールが酒場の惨状を見て言った。 


「長かったな。大物か」

「それがレディに言うことかしら」

「レディねぇ」

「なによ文句ある。てか本当にどうしたのこれ?」


 そこから俺は一連の出来事を説明した。

 どうやらテルーズは酔い覚ましの最中に友人に引き止められ、ゴリアスとの騒動は全く気が付かなかったらしい。


「それでインビスは本当にその子とパーティを組むの?」

「まぁ。とりあえずな」

「ふーん」


 俺がハルとパーティを組むと聞いてから、テルーズは明らかに不機嫌になり、俺の顔を不審そうに見てくる。


「なんだよ?」

「まぁ別に。いいんじゃない」


 そう言うとテルーズは手元の発泡酒を一気に飲み干した。


「おい、それ俺の」

「うるさい。飲ませろ」


 ルナールが荒れている。

 激しく動く尻尾がそれを表している。

 

「じゃあ。そろそろ私帰るわ」

「もう帰るのか?」

「悪酔いしちゃったみたい」

「そうか。ところで俺を呼び出したのってなんだったんだ?」

「別なにも。ただ誕生日ぐらい寂しいオッサンと一緒に飲んであげようかなって」

「寂しいは余計だ。オッサンも。けど、ありがとな」

「うん…今日はだけ特別にシャワーを覗きに来てもいいわよ」


 ルナールは悪戯な笑みを浮かべる。


 ルナールに対して覗きはしたことがない。女として見れないのもあるが、キツネの獣人は鼻が良く、透明になったとしても直ぐにニオイでバレてしまうだろうからだ。


「なんだよ。急に」


「冗談よ…」


 ルナールはそう言い残して去っていった。


 さっきまでの混乱からすっかり元の賑わいに戻った集会所の中で、俺はルナールの後ろ姿を見ていた。

 歩調に合わせて揺れる尻尾がなぜか寂しそうに見える。


 今日は色々あった。

 今はそれがいい方向なのかは分からないが、何かが動き出したことだけはハッキリと分かる。


お読みいただきありがとうございました。


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