3 溜撃女王
「出てきていいわよ、透明人げ…」
「助かったぁ〜」
俺は少女の言葉を待たずに、叫んでいた。
とりあえず身体を触って生きているか確かめよう。
中年中肉中背、ボサボサの髪、元気のない顔の皮膚、勃たないアソコ。
うん、間違えなく俺だ。俺は生きてる。
「いい加減、姿を現したら?」
「あぁ、はいはい、ここです」
俺が姿を現すと、周りの人間はざわめいた。
そして俺の足を掴んでいたゴリアスの手下は気づく間も無く逃げ去っていた。
「なぜ私を助けた?」
「なぜって言われても……酔ってたからかな」
俺は照れ隠しもあり半笑いで答えた。
「…一人でも勝てたのに…」
「ん? なんて?」
「……私一人でも勝てたと言ってるの!」
「まぁまぁ、お互い生きてて良かったじゃないか。これはお前がやったのか? すごいな。助かったよ」
「ふん……まぁ私も…少しは助かったわ…私の技は溜めるのに時間が要るから」
なんだ。高飛車な奴には変わらないが、意外と素直なところもあるじゃないか。
よく見ると、少しキツい顔をしているが、かなり美人。
乳はないがまだ幼いので成長に期待しよう。
「何ジロジロ見てんのよ」
「いやいや、すごい技だなと思って」
「そうよ。私の【溜・撃・斬】に敵はないんだから」
【溜・撃・斬】!?
どこかで聞いたことがあるな。
そうだ思い出した。
この前、最年少で単独冒険者報酬ランキングに入った少女がいると噂を聞いたんだった。
しかも、そいつは身長に似合わない大剣を持ち、強力なスキル【溜撃】を持っていると。
「もしかしてお前、あのストア・ハルストレムか?」
「そうよ。私こそ〈溜撃女王〉のストア・ハルストレムよ」
少女が誇らしげに答えると、周囲は異様などよめきに包まれ、次第に賞賛へと変わっていった。
まさかこんな少女が凄腕冒険者だったとは驚きだ。
確かにこの若さで報酬ランキングにも載るほどの実力者ともなれば、俺の手助けがなくとも楽勝だったかもしれないな。
「それはお見それしました」
少女の周りにはあっという間に取り巻きが群がり、取り残された俺は一人で元あったカウンター席の方まで戻った。
彼女と俺は生きている次元が違う。
俺は万年Fランクの雑用冒険者なのだから。
「テルーズちゃん。怪我はなかった?」
「私は大丈夫です。インビスさんこそ大丈夫ですか?」
「あぁ俺は大丈夫。ちょっと擦っちゃっただけ」
「大変。包帯持ってきますね」
「いやいや大袈裟だな。そんなことよりごめんね。お店壊しちゃって」
「インビスさんのせいじゃないですよ。それにゴリアスさんにはみんな迷惑してましたから」
俺とテルーズが木片などの片付けをしていると、後ろからさっきの少女の甲高い声がした。
「ちょっとアンタ! 私が名乗ったんだから自分も名乗りなさいよ」
「いやいや。俺なんて名乗るほどのものじゃないんで。すみません」
俺は恭しく答えた。
「あなた、透明になれるの?」
「まぁ一応」
「物を透明にすることは?」
「まぁ大きすぎなければ」
「自分以外の人間は透明にできるの?」
「まぁ触れていれば少しは」
まるで面接官のように質問を繰り広げた少女は少しの沈黙の後、大声で言った。
「あなた、私とパーティを組みなさい!」