1 勃たない朝
はぁ、はぁ、嫌な夢を見た。
40歳の誕生日をむかえた俺は、加齢臭が気になり始めた枕から飛び起きた。
30年も昔の事を未だに思い出すなんて、まだまだ子供だな。
アソコも子供のままなら良かったのに。
今日も今日とて朝勃ちとは無縁の一物を憂い、重い身体を起こす。
それにしても嫌な夢だった。
もちろんこの夢は実際に経験した過去の出来事で、夢の続きも悲惨だったことにはかわりない。
だがともかく、今の俺は名家の暮らしほどではないが、それなりに充実した暮らしをしている、、と思う。
カビ臭いベットと小さな机しかない安アパートの一室から窓の外をみる。
何も変わらない日だ。
さて、朝の習慣でもするかな。
と思っていると、備え付けの悪い扉から元気のいい獣人娘が部屋に転がり込んできた。
「入るわよ〜インビス」
「もう入ってるじゃねぇか。もし俺が一人で致していたらどうするつもりだったんだ」
「何言ってんの。どうせアンタは勃たないでしょ」
痛いことを言うこいつはキツネの獣人で名前はルナール。
獣人の中でもかなりの美形でスタイルも抜群だが、デリカシーが足りていない。
勃たない男に勃たないというなんて失礼にも程がある。
「相変わらず、カビ臭い部屋ね」
ルナールは鼻をピクピク動かしながら言った。
「うるせぇな。何しにきたんだよ」
「何しにきたとは失礼ね。アンタが誕生日だって言うから祝いにきてやったんじゃない」
まさかこいつが俺の誕生日を覚えていたなんて驚きだ。
しかし、心遣いは嬉しいが、40歳にもなると祝いという気分でもない。
むしろとうとう40という大台に乗ってしまった自分が悲しいのだ。
まだ若いルナールにはオッサンの気持ちがわからないだろうな。
「何ボケッとしてんのよ。はい」
若さを羨んでいると、ルナールは奇妙な形をした紫色の野菜らしきものを渡してきた。
「なんだこれ?」
俺は恐る恐るその紫色の植物を掴む。
「これはキツネ族に伝わる伝統の秘薬、紫麗人参よ。かなり貴重なものなんだからね」
ルナールは自信満々に言った。
「お、おう。ありがと」
俺はそっけなく言った。
思春期だからではない。ただ謎の植物への反応に困っただけだ。
「何よ。反応悪いわね」
「これは何に効くんだ?」
「それはあの、アレよ。あの、、ぼ、ぼ、勃起不全よ」
ルナールは顔を赤くして、俯き気味にボソボソと言った。
なぜそこで急に恥ずかしがる。
今まで散々、俺の不能ををいじってきたじゃないか。
俺が物珍しそうに紫麗人参とやらを眺めていると、ルナールは扉の方へ踵を返す。
「じゃあ。いつもの集会所で待ってるわよ。効果が出たら教えなさいよ」
「あぁ。ありがとうな、ルナール」
「おめでと、インビス」
ルナールは両耳をピンと伸ばして反応すると、部屋を出て行った。
ありがたい。
これは後で試させてもらおう。
俺は紫麗人参を机に置くと、そのまま机の上の剣を手に持った。
「【透過】」
力を込めると俺の握った剣は徐々に色を失い、やがて後ろのボロ臭い木壁を透かすようになった。
「よし。今日も頑張ろう」
俺は透明の剣を腰に携えて、カビ臭い部屋を出た。
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