ジャンケンの王者
『よし、じゃあジャンケンで決めようぜ。負けたヤツがぞうきんな』
「OK!」
『いいよな?中島』
「うん」
『じゃあいくぜ!ジャン・ケン・ポン!』
『中島なんかちょろいぜ』
「チョキしか出さないんだもんなぁ」
『なんでチョキしか出さないんだろうな』
「さあ?好きなんじゃない。チョキ」
『チョキなんか出すの面倒なのにな』
委員長を決めてください。
誰もやりたくないよねー。
絶対イヤだー。
仕方ないからジャンケンする?
えー、私ジャンケン弱いのに。
大丈夫だって。ね、先生、ジャンケンで決めていいですか?
勝った人が委員長ならね。
よし、じゃあやろうよ!
ゆみー。勝っちゃったらどうするのよー。
大丈夫だって!中島くんもいるんだから。
どういうこと?
とにかく、パーを出せばいいの。かなは私のこと信じて、パーを出して。私も絶対パー出すから。
うん、分かった。パーを出せばいいのね。
“ジャン・ケン・ポン!”
「なぁ、中島」
「なに?」
「ちょっと聴きたいことがあるんだけど…」
「うん」
「お前さ、ジャンケンのとき、決まってチョキ出すじゃん。あれ、何で?」
「理由?」
「ああ。だって、ジャンケンする度、チョキしか出さなかったら、みんなに分かるじゃん。みんなは勝ちたいときに勝って、負けたいときに負けれるじゃん。そんなのジャンケンの意味なくね?」
「そんなことないよ。ジャンケンだもん。誰が勝つかなんて誰も分からないよ」
「いや、だから、お前はチョキしか出さないだろってこと言ってんだよ」
「…分からないよ。ずっとチョキしか出さなかった僕が、ある日いきなりパーを出すかもしれない。グーを出すかもしれない。それは分からないよ、誰にも。だから、ジャンケンには意味がある」
「うーん。なんか、よく分かんねぇな」
「ふふ、理由、あるよ」
「え?」
「ジャンケンで僕がずっとチョキを出す理由」
「なんだよ」
「ジャンケンってさ、仕方なく何か決めるときに使われるでしょ。話し合いじゃ解決しない。だけど、時間がないから仕方なく決めるとき」
「まあ、大抵そうだな」
「それで、大抵の場合、ジャンケンに負けた人がその役目を担う。それって不公平じゃないかな?負けたのに、やりたくないことまでやる。結構、精神的にキツイと思うんだ。僕は」
「…、そうなのか?」
「うん。僕、ジャンケンすごく弱いんだ。勝ったことないんだよ。だから、どうせ負けるんなら、ずっと同じものを出し続けようと思って」
「なんでそこに行き着くのか、俺には良く分からん」
「僕も分からない。小さい頃に決めたことだから。だけど、出し続けてたら、何か愛着湧いちゃって」
「そんなもんなのか?」
「そういうものみたい。でも、そうしているうちに、僕がこうしている理由が後からついてきたんだ」
「…後から」
「最初は、可能性があるのに負けるのがイヤだからって理由だった。どうせ知っている負けなら、って。時々は自分から「やる」って言ったし…。だけど、いつからか絶対にジャンケンに参加するようになった」
「なんで?」
「人間って面白いんだよ」
「は?」
「だって、僕が今までチョキを出してきたことを知ってるから、決まってグーを出すんだ。僕がパーを出す可能性を恐れずに。でも、確かに僕はチョキしか出さない」
「それが?」
「だから、もし何かするのがイヤなら僕に押し付ければいい。ジャンケンしようって言えばいい。僕はジャンケンを拒まない。そしてジャンケンをしたなら確実にその出来事から逃げられる」
「…」
「人間のエゴだよ。他人(僕)は自分を守るための犠牲。だけど、僕はそれを悪いことだとは思わない」
「意味わかんねぇし」
「だから、選べるんだよ」
「選ぶ?」
「そう。人間には誰しも、選ぶ権利がある。そして、義務もある。ジャンケンだって、グーチョキパー以外を出したらいけないんだ。そういう義務なんだから」
「まあな」
「だから、僕はチョキを選んだ。他の人はグーを選んだ。それだけのことだよ。義務は果たしてる。だから、悪いことではない」
「でも、それで負けたんじゃ意味ないじゃねーか」
「ううん。これまで僕はずっとチョキを出してきて損をしたことはないよ。
だって、僕がチョキだと知っていてパーを出す子もいたもん」
「…」
「そして必ず僕にこう言う。
“なんでチョキしか出さないの?”って」
「…」
「僕はチョキを出し続けるよ。
君みたいな人と、たくさん出会いたいから」
「…馬鹿じゃねぇの?」
「そうかもね。でも、君はパーを選んだでしょ?」
「…う、うるせー」
ジャンケンの敗者は、そっぽを向いた。
それを見て、ジャンケンの王者は、静かに笑った。