3.仕事は迅速に確実に
近未来な世界観が広がる街の中、ひときわ大きなビルの下に二人の男女の姿があった。
「ついたぞ、奈津準備いいか?」
端末を開き豪が連絡する。
「おーけー、準備できてるよ」
「貢一と部下はビル30階の個人部屋にいるから、サクッとよろしくね」
豪と凛はスーツに着替えている。
奈津特製スーツで多数の便利機能を備えている。
「じゃぁ行きましょう」
凛と豪がスーツの袖に触れる。
スーツがホログラムのようになったかと思うと二人は清掃員の姿に変わっていた。
スーツの機能の一つ変装機能である、実際に触れることも可能であり奈津の自信作の一つだ。
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途中何回か変装を変えながらも二人はターゲットのいる部屋へとたどり着いた。
扉を三回ノックし開ける。
「失礼します」
豪が扉を開けて部屋に入る。
凛は外で待機している。
「この書類の件なんですが...」
豪がデスクに座っている貢一に近づく。
「なんだ?、こっちに...ぐっ!」
豪が書類を渡すと同時に拳銃で頭を撃ち抜く。
サプレッサー付きの小銃、ほぼ音がしないがさすがに部下が気づく。
「お前!なにを__っ!」
ドア付近にいた部下がとっさに銃を向けるがそれよりも早く凛が扉から入り首を切り落とした。
「とりあえず、完了しましたそっちの後処理お願いします」
奈津に任務完了の知らせを送り後処理を行う。
豪は貢一の処理を、凛は部下の処理を行う。
プシュー
スプレーを床と服にかけると血が完全に消える、血を分解し完全に消すものである。
「あ、そうだデスクの中に取ってほしい書類があるんだけど見てくれる?」
無線からの連絡を受けて凛がデスクの引き出しを開く。
「どのファイルですか?」
引き出しの中には多くのファイルが詰め込まれている。
「赤いファイルでタイトルに"NT-D123"って書かれたやつ」
「これですね」
情報通りのファイルを取り出す。
「他何かあります?」
「大丈夫特にないよ~」
「先輩、撤収です」
「あい、分かった」
二人は部屋をでる。
エレベーターで一回に降りそのまま止めていた車で撤収する。
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「まぁ、そんなもんだよね~」
支部に帰った二人を奈津が迎える。
「こんぐらい別にどうってことないか」
「まぁ難易度の高くないものでしたからね、うちの一般員でも行けると思いますよ」
「さて、まぁ簡単だっただろうしさっさと次の仕事与えちゃうね」
奈津はファイルを取り出してくると二人に配った。
「次は場合によってはすごく簡単な仕事だよ、ほぼ何もしなくていい」
「奈津さんの簡単は怖いんですよ、含みがあって」
「お前って簡単に嘘つくよな」
凛と豪の言葉が奈津に鋭く刺さる。
「なんか君たちだけ僕に対しての当たり強くない?」
二人からのの冷たい目に、えええ!?というような顔をする。
「こほん、まぁともかく次の仕事は要人の護衛だ」
「護衛ですか?」
「あぁ、とあるとことのお偉いさんが御用で移動するんだがその仕事柄狙われることもしばしばで、しかも今回はとある奴らから狙われているらしくてね、直々にお願いされたんだ」
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「......」
奈津専用のCRで一人奈津がパソコンを眺めている。
最先端技術が詰め込まれた部屋で中には奈津の発明したものある。
「うーん、どうしようかなぁやっぱりそうだよねぇ」
奈津は背もたれに倒れ考える姿勢をとる。
右手の人差し指を机の上にトントンと刻み、左の掌で目を覆う。
「不柚め.....」
凛に回収してもらったファイルデータにはとある研究についての情報が書かれていた。
詳細はこの時見た奈津しか知らない、そして今後この資料を見る機会は誰にもないだろう。
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ネオ東京(NT)は全部でセントラル+12区の計13区によって分けられている。
円形型に造られていてセントラルは読んで字のごとく中央にあり周りを囲うようにほかの地区が存在する。
奈津の支部は第七区で今では実質凛と豪の仮家状態となっている。
ちなみにあのアパートは一時的なもののためほとんどはこちらで過ごすことになる。
第八区は企業の支社などが多く立ち並び第九区は工場地帯である。
都市における居住区は十~十二区に集中しており、また飛んで五区にもある。
壱、弐、参区は重要地区や管理機関が存在する。
詳細や他はまたおいおいと.....
ちなみにNEO東京の名前には某超能力アニメをモデルに奈津が関わっているとかいないとか。
AM:8:00
天気:晴れ
状況:良好
バイタル:正常
「いやはやすまんねこんな仕事押し付けてしまって」
防護用防弾防爆仕様車両[BEPV-1122]その後部座席に座るのは茶色のスーツを着こなした齢74の男。
白髪に白い髭を携えた多少の皺に老獪な御老人、彼こそが今回護衛すべき対象『飯田 茂』その人である。
NTの市長にして飯田財閥当主でもあるが、実のところ市長とは名ばかりでNTの運営開発管理はすべてIVの管轄にあるため基本的に市長としての仕事は少ない。
「いいえ、問題はありません。そもそも上司直々の仕事ですので断れませんしね」
その老人の隣に座るのは打って変わって小柄な少女、一見すれば幼いただの少女だが実力は保証されている。
凛は鞘を座席に立てかけた状態で飯田の隣に座っている。
「はっはっは、確かにそうですなぁ、いやしかし俺も本来だったらVVIP御用達の護衛部隊SEUにでも頼むんだが今回は先客がいるみてぇでしてなぁ、しかも俺より優先順位が高いらしくて、それでIVの中でもとりわけ実力のあるあなた達...の上司に頼み込んだってわけさぁ」
好好爺とした風格の飯田は凛のほんの些細な上司に対する嫌味にそう応じる。
「そういや、相方さんはどこに?」
防護車の後部座席には茂と凛の二人、運転座席には茂専属の護衛が一人。
そう、豪の姿が見えないのだ。普段二人一組で行動しているためプレイべーと以外は基本豪といるのが常。
といっても基本組織外の人間は知らないはずなのだが、茂と顔を見合わせたときは凛と豪ともにいたためだろう。
「先輩は狙撃地点に移動してます。今回は私が現場担当で先輩が支援担当なので、安心してください先輩の狙撃の腕は組織でも右に出るものがいないほどです」
そう少し...いやかなり誇らしげに凛は先輩を語る。奈津が見ていたらこの不当なまでの先輩序列にさぞ苦言を呈することだろう。
「なるほど、いやしかしふつう心配するならあなたの実力でしょうが、まぁ杞憂でしょうなぁなんせIVでも折り紙付きの実力者って話ですしね」
公に知られることはもちろんだが一部それも上層部以外の大半の人はIVの内部情報などは明かされない。
奈津はIVの支部長であり都市建設及び技術革新に大きく関わった博士であり現在で第七支部長である。
豪は昔とある部隊に所属しており今は奈津直轄の特殊任務遂行機関の局長をしている。
凛は豪の部下兼相方でありIV有数の実力者である。
はたして豪が狙撃地点に着き、凛と茂が乗る防護車が移動を開始する。
傍に置いた鞘を撫でホルスターの特注の拳銃二丁(F&W)を確認した。背中にはアサルトライフル(AK503)を括り付けている。凛が持ってる標準配布装備以外のほとんどは奈津による特注品で特に刀と拳銃は凛の能力に合わせて作られている。
「にしても奈津のとこの御二方を呼べててよかったですわぁ今回はいつもと少し事情が違うて考えなしに俺の護衛で何とかなるかわからんからなぁ」
改めて今回の任務を確認しよう、『茂を目的地セントラルNT庁舎まで護衛する』これが今回の任務であり奈津より言い渡された二つ目の仕事である。
そしてもう一つ今回豪と凛が抜擢された理由それは...
「...とある勢力に狙われていると、お聞きしても?」
首だけを傾け茂に問いをかける。
ありとあらゆる任務において情報は実力に大きく影響を与える。知っておけるなら知っておいたほうがいい。
茂は手を顎に当てしばし思案すると、
「ディファイ――」
茂の呟きに凛は紅の目を見張る。
それには驚きの意と敵の想定戦力への修正を行う意がはらんでいた。
「アレに目をつけられてるんですか?」
「――俺から吹っ掛けたわけじゃないんで彼奴等からしたら俺が邪魔なんでしょうなぁ」
目をつぶって渋い相好をする茂、彼からしても煩わしい状況だろう。
ディファイ、それはNT内外存在する反都市武装組織の総称である。
平和安全管理局(P.S.A.B)では到底対応できない巨大組織でIVの軍部が現在排除しようとしている最中である。
平和安全管理局についてはまたいつか御説明しようと思うので今は割愛、いまの警察と同じものだと思っていただければ幸い。
他にも独立した集団は存在しており、こちらはフリーライファ―と呼ばれ良くも悪くも自由に生きる集団であり人助けを行う善良団体もいれば犯罪を起こしまくる集団もいる。
依然周囲に問題はない。豪ともNSTを通じて状況報告を逐次行っているので物理的に視認可能な範囲は安全が確保されている。
奈津も定期的に通話に入っている。
〈このまま第参区中央ゲートから入ればセントラルだね、セントラルにさえ入れば奇襲急襲の心配はしなくていいかなあそこでされるんだったら都市規模で大問題だからね〉
〈地上に敵影は確認できない、現状問題なしオーバー〉
〈こちら異常なしです〉
NSTは骨伝導式通信端末であり小型化されているため戦闘に最も適した形に造られている。
〈まぁもう問題はないと思うよ〉
〈奈津さんそういうのはフラグといってですね...〉
防護車は現在ゲートへ向かって第参区中央通りを準速度で走行中。
あと少しで到着安全圏へ到着といったところで奈津がフラグ発言をする。
この戦争が終わったら結婚するんだとか畑の様子を見に行くだとかこんな殺人鬼のいる部屋に居れるかだとか古来からそういったフラグは必ず履行される、つまるところ今の奈津の発言は....
「――ッ!?」
突如地響きが空気を震わせ轟音とともに凛の耳介に届く。
それとほぼ同時に眼前の道が隆起し防護車に迫る。
判断理解から行動までは刹那、意識外から突如として起こった想定外の状況に凛は運転席専用の脱出装置を作動させ車のドアを切り開け茂をつかみ車外へ飛び出る。
「うぐッ」
最速で逃がすための手加減なしの衝撃に茂が声を漏らす。
中空で身を翻して凛の背が地面に着くよう調節、初撃を背中に受けた後はできる限りダメージを減らすため水平方向に地面を転がる。
「くッ」
背中に衝撃を受け肺が圧迫され一度空気がすべて抜ける。
なんとか勢いを殺し道路上に倒れる。
その直後、防護車は真下を爆風に直撃され中空へ吹き飛ぶ。底面は衝撃に拉げ装甲は剥げ廃車へと変えられて凛達の真横に墜落する。運転手は少し遠くに飛ばされていたが無事だったようだ。
もし刹那でも判断行動が遅れていたらと思うとゾッとする、それこそ茂なんかは確実に死んでいただろう。
「飯田さん、大丈夫ですか!?」
傍らに倒れ伏した茂を起こし安否の確認を行うべく声をかける。
近場では防護車と並走していた車両一台が完全に破壊されごうごうと炎にまみれ鉄の焼ける臭いが鼻腔を刺激する。
どうやら他の車両2台は無事だったようだ。
「あぁマジで助かったぜ双葉さん、あなたに助けられんかったら無残に爆死しとりましたわぁ」
服は多少破れたりはしているが身体のほうには特に重大な負傷はないようでひとまず安心。
と、その安心は目の前の状況にかき消される。
爆発は道路を囲むように広がっており最初の一撃で道路中央は崩れ落ち空洞が作られていた。
道路と周辺の建物との間には瓦礫が積み上がっていた。
まさしく叫喚地獄といった惨状になっている。
「これは...ッ」
〈凛、爆破地点の地下に生命反応と兵器を感知した。直前まで感知されなかったからステルス機構を使っていたんだと思う。豪、中央の空洞が見える?〉
〈あぁバッチリとな、奴さん逃走経路を全部ふさいでやがるわ凛ならまだしも一般人は逃げられねぇな〉
〈飯田さんの生存は確認、一時的に安全を確保できている状況です〉
〈了解した、とりあえず今は現場からの撤退を優先して――〉
そう奈津が撤退の指示を出した時である。
〈すまん少々厄介なことになった。こっちにも敵影を確認、援護の妨害を行ってきた。とりあえずはこちらの対処を行う、数分で片づけられるだろうからそれまで耐えれるか?〉
〈はい...奈津さん敵の数は?〉
〈敵総数は大体20人くらいかな、しかも戦闘用外部装備が五体くらいはいるね――来るよ〉
空洞からくる敵に身構える。銃(AK503)の引き金に指を置き煙霞をまとった空洞に目を細める。
神経を集中させることによって時間が遅く感じる中一秒二秒と経ち...
「おいおい、ジャッキーまた調整ミスってんじゃねーのこれ?」
空洞からガスマスクをつけスクラップを取り付けたような見て呉れをした男が頭をボリボリと掻きながら出てきた。
男は手庇を作り周りをぐるっと見ながら、
「あーあ、綺麗な道路が台無しだわ。ってか車だけ壊せばいいんだからもっと弱めでいいだろやっぱ」
再度隣のもう一人の男に苦言を呈する。
「いやいやいやッ!、俺様たち初の大仕事、大作業、大報酬だぜ?、派手にドーンッ!っと爆発してこそ俺様たちの登場には相応しってもんよ。そ・れ・に~、目立って功績残しゃぁ他の連中にも俺様たち『爆弾兄弟』がどれだけ強いかわかってもらえるぜ!」
隣の男(ジャッキー)は服装はほぼ同じだが全身に爆弾やらを付けていて、身長は最初の男より低い。
爆発を喰らっていたのかわからないが髪の毛が少し焦げて黒くなっている。
「それで俺らが死んだら元も子もねぇんだよ!第一そのコンビ名みたいなのお前が勝手に決めたやつだからな!?知れ渡って他の連中に狙われでもしたらお陀仏直行便だって!...それより仕事だ依頼は市長の誘拐、無理なら殺すこと。で、これで死んでねぇってことはない気がするが――」
周りを確認していた男が茂の姿に気づくと「おっ」と声が漏れる。
「あれで生きてるってマ?、おいおい強すぎんかってのは冗談としてお前さんが助けたんだろうな」
視線は茂から凛に移り、軽薄口調から少し声が低くなり真剣味が増す。
次の瞬間、唐突に放たれた弾丸が茂の頬を掠める。幸い大きな傷は追わなかったが頬から血がつーっと流れた。
「あー、死にたくなけりゃそいつを渡しな...ってのは典型的か?」
しかしながらすぐに肩をすくめ軽忽とした態度をとって見せる。
ただ実際その気なのであろう男からは仄かに殺気が漂っている。しかし男もその隣のジャッキーはいまだ武器を持とうとしていない、それが意味することは――
「そこっ」
左手で即座にホルスターからデザートイーグル型拳銃(FOX)を取り出すし視線は目の前の二人に添えたまま左の瓦礫の隙間にまるで針に糸を通すような精密さで五発拳銃を撃つ。
薬室内で火薬が爆発、遊底から空薬莢が排出され弾頭が正確無比に瓦礫の向こうを捉える。
はたして着弾と同時にどすんと倒れる音が五つ聞こえた。
「自分で時間を稼いで奇襲...常套手段ですね。対処されたご感想は?」
アサルトライフルの銃口を男へ突き付けてそう言い放つ、男に言うつもりはないがこちらも時間稼ぎをしている現状である。豪が援護できる状況にさえなれば茂を安全に移動させることが可能だ。
「おいおいまじかよ」
「アニキそいつぁ典型的な雑魚キャラモブキャラ即死キャラだぜ!」
後ろにたたらを踏む男にジャッキーがそう捲し立てる。
「ディファイの雇われか、しかし俺を殺すってんなら運が悪いこったなぁなんたって今日はいつもの護衛部隊が出張ってんだからよぉ」
皺の張った顔に煤をつけた状態で茂が老獪に笑う。
「そいつはむしろ運がいいと思うんだがな、まぁ捕まえんのは無理そうだし死んでくれや」
「サヨナラばいばーい!」
そう最後通牒とばかりに雰囲気を変えると男は両手の指の間にグレネードを挟み計8個投げ込む。
同時にジャッキーも高らかに嗤いながら擲弾発射器を構え一気に爆弾を飛ばしてくる。
「あとは頼んだぜ凛さんよ!」
茂は凛の背面側つまりは男たちから反対側に全力疾走で逃げる。
敵前逃亡、臆病だとか情けないだとかそういう評価の付きがちな逃げだが時と場合によって逃げることによって戦場を有利に進めることがある。今がまさにその状況であり茂の行動は実は今とれる何よりも最善の判断であった。
それを予測してか男たちが投げた爆弾の軌道は茂の進行方向に――
「させないよ」
銃口を上に向け飛んでいる爆弾を一つ二つと素早く撃ち抜く、撃ち抜かれた爆弾はその質量に見合わないほどの轟音を放ち中空で爆発する。
「じゃぁとりあえずお前さんから殺らせてもらうよ」
その撃ち落とす一瞬の隙を狙って男がライフル銃で凛を狙い撃つ。
弾頭は凛がいた土を穿ち、瞬間爆発する。弾の中に衝撃発火性火薬を詰め込むことによって付近の壁や地面に当たっても対象にダメージを与えるこの男の初見殺し武器だが凛は地面を左へ強く蹴り爆発の範囲外へ避けれていた。
中空で銃を構えジャッキーと男に撃つ。
男は足にジャッキーは腕に命中呻き声と共に二人が瓦礫の向こう側に隠れる。
銃弾の一つがジャッキーの爆弾付き弾帯にあたりその場に落ちた。
凛はそのまま中空から地面へ手を着け一時倒立の形になりすぐに足を着き体制を整える。
と、着地地点にいた敵数名が凛に銃を向け発砲しようとするが一人目は姿勢を低く屈ませ銃身を敵の腕と腕の間に擦りこませ斜めに倒すことによって一時的に銃から手を離させる。
同時に二人目の頭目掛けて射撃、一人目の腹を発砲を戸惑う三人目に蹴り飛ばす。
三人目に一人目が覆い被さった時拳銃(FOX)で二人をまとめて貫通させ始末。
四人目が発砲と同時に避け手を銃先に重ね反対に払う。
すぐさま肉薄し顎から脳天へ銃弾を通す。
その間僅か7秒。
瓦礫には物言わぬ骸が四体。
「あとはあの二人を...」
アサルトライフル、拳銃共に弾倉の再装填を行う。
空の弾倉は地面に落ち乾いた音を鳴らす。
拳銃の弾倉からはは残った弾を回収しておく。
一呼吸ついた後男たちが隠れたほうへ走る。
「これで...終わり」
瓦礫後ろへ弾倉内の弾丸をすべて撃ち放つ。
ジャッキー、男と二人とも全身に風穴を開ける――はずだった。
「――ッ!」
刹那の判断のもとアサルトライフルを盾として腹側に斜めに構える。
「ぐっ」
瞬間、衝撃とともに凛の矮躯が後ろへ吹き飛ぶ。
吹き飛んだ先の壁に両足を合わせ衝撃を和らげ、拡散させる。
ただ衝撃が強すぎたようでアサルトライフルは半ばで罅割れ銃身が折れ曲がっていた。
「これは本格的に潰す気ですね」
噴煙から姿を姿を現したのは高さ約10mの機械、これは外部装備といって所謂パワードスーツの進化系のようなものという解釈で問題ない。
ただ全身を覆うように出来ていたり重火器から機関銃まで備えるタイプもあったりと某ロボットアニメだったり某エイリアンVSロボットの海外映画だったり鎧に核のゲームだったりとそういった機械を彷彿とさせる。
「正直言ってここまでになるとは思ってなくてさ、まさかこれ使うとは予想してなかったわけよ。護衛はいないらしいしすぐ終わらせられるってね。本当今日はついてねぇや」
「アニキ!今こそ失われた名誉を取り戻すべくあいつをまさしく粉砕玉砕大喝采するぜ!」
機体に取り付けられた拡声器からあの二人の声が発せられる。
「もう一度になるが、さっさと死んでくれ!」
機体の左腕が大きく振りあがり凛に叩きつけられる瞬間と同時に横へ退避。
すぐさま鞘から刀を抜き三分の一を地面に埋めた巨大な左腕に斬りつける。
凛が気に入っているこの奈津特製の刀は俗に言う高周波ブレードなるものであり、超振動することによって対象を簡単に切断することができる代物だ。
それに斬りつけられ機体の左腕は切り落とされそのまま機体ごと粉々に...とはならないのが世の常だ。
多少の傷こそついたが両断とまではいかなかったのだ。
「対振装甲、まるで私がいるのを分かっていたような武装」
次段にきたガトリング、アームによる殴りを身を捻り瓦礫を盾にし、時に刀で受け流し名がら攻撃を避けきる。
自分特攻の装備に凛は目を細めた。
轟音に続く轟音、衝撃に続く衝撃、銃声と爆発と瓦礫の砕け散る音が道路だった場所に響き渡る。
「ヒャヒャヒャ!愉快爽快大破壊!、俺様たちのためにさっさと肉塊になってくれぇ!!」
機体の動きがさらに激しくなり破壊の余波が周辺建築物まで進行。
「そろそろかな...」
凛は遠目に茂が道路から脱出したことを確認。
最後の攻撃を避け敵の目の前数十メートルの位置に立つ。
敵の機体と凛との間にはジャッキーが落とした爆弾付き弾帯、名をつけるなら爆帯が落ちている。
「すみませんがもう時間は十分に稼いだので終りにさせていただきますね」
巨大な戦闘用外部装備の搭乗部分に目を向けそう言い放つ。
「そうかい?それは助かるよ俺としてもさっさと終わらせないと逃げる時間が無くなると思っていたところだ」
機体の銃器が凛を見据え射撃の準備を始める。
まともに浴びれば人の形を保てないだろう攻撃が始まる合図。
それを前に凛は...
「『血の権限』開放、『ブラッドゼーレ流血闘操術』――」
凛の瞳の紅がより鮮やかに煌めきその光を増す。空まで届きそうな紅い光は一瞬にして小さく淡い光へと変化する。
右側のホルスターに収められていたリボルバー型拳銃(WOLF)を取り出し右手で敵の機体中央を狙う。
リボルバーの撃鉄を親指で倒し人差し指を引金に掛け銃全体を強く握った。
敵機体は避ける気配はなく攻撃の構えだ。
凛の紅い眼は真っ直ぐと敵を見つめている。
はたしてリボルバーの回転弾倉と銃口が紅く光ったと同時に引金を引く。
「――血弾」
紅い弾丸が銃口より射出され直線の軌道をなぞり敵機体中央に着弾する。
「...いったいどんな攻撃かと思ったが、それだけ?マージ?」
「アニキ!余裕だぜ!」
機体に当たった紅い弾は装甲に数ミリの深さで埋まっているだけで貫通すらしていなかった。
避けこそするつもりはなかったがそれなりの攻撃である予想はしていたのだからある意味で度肝を抜かれたのだろう。
しかしその光景に対して凛は動揺の様子もないむしろ何もなかったかのように刀を正面に構える。
それもそのはず、なにせあの弾を攻撃として使うつもりなどなかったのだから。
「ちょッなんだこれ!?」
「アニキ!やべぇぜこれ!」
敵機が凛へ攻撃しようとした瞬間先ほどの銃弾の着弾点を中心に赤い亀裂が装甲上を奔る。
直後亀裂がさらに罅割れ機体の動きが鈍くなる。
「これで終わりです」
地面を蹴り最速で凛が機体に接近する。
途中爆帯を拾い上げついに目の前まで迫る。
「『紅血華流血刀術』弧斬り」
紅く深い色を纏った刀が罅の入った装甲をいともたやすく切断した。
袈裟斬りされ斜めに断たれた装甲から搭乗部が丸出しになる。
「「なっ!?」」
丸出しの搭乗部にいる金髪の二人がその光景に驚愕し目を見開く。
『道路爆発テロ事件!』時のガスマスクは外し素顔が見えている二人はどちらも金髪に青目のギザッ歯兄弟で相変わらず小さいほうは髪の毛が少し焦げているというかもはやこれは燃えている。
推定兄ことアニキこと男の方は細長い体に賢そうな目と顔である。推定弟はバカな顔。
そんなどうでもいい感慨はさておき状況は刹那に進む。
「どうぞ手土産です」
凛は斬れた隙間へ先ほど拾った爆帯を冥途への手土産よろしく投げ込む。
爆弾の一つのピンを抜き他も連鎖するようにしてある。この狭さだったら確実に二人とも仕留めることができるだろう。
「「なっ!!??」」
先程と全く同じセリフをさらなる驚愕と絶望を込め金髪の二人が言い放つ。
直後凛が機体を蹴り離れるのと同時に爆弾が大爆発を起こす。
内部からの爆発は機体の上半部を綺麗に吹き飛ばした。
「他は...」
微かに煌めく瞳のまま刀を肩に担ぎ周りを見渡すと辺り一面に先程の外部装備までとはいかないが小型の機体が十数体と他数十名の武装した敵達が凛を囲っていた。
そのうちの七名が凛を狙い撃とうとした瞬間のことである、七名全員が頭を撃ち抜かれ倒れ伏したのだ。
それを行った凄腕の狙撃手は...
〈凛、こっちの奴らは片付いた怪我はないか?大丈夫か?〉
〈過保護か!?、じゃなくこっちの一番厄介そうな敵は対処しました。飯田さんの離脱も確認、残存敵の処理のため本来豪さんの仕事である援護を要請します〉
〈後で色々奢るからから許してくれぇ、それと了解した援護狙撃を開始する〉
NSTの通信を確認し最後の片付けと凛は刀を正面に縦に構える。
「『紅血華流血刀術』殲滅式宵桜」
どこかで聞いたようなフレーズとともに超速で敵に肉薄し凛がさらに紅く煌めく刀を振るう。
機体すらも両断する白刃ならぬ紅刃と遠距離の精密狙撃に敵は次々と倒れついには全滅となる。