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天界で育った少女の物語  作者: 斗瑚
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最後の別れ

──ガラガラッ──


体育倉庫のドアが開く。


「雪乃ちゃん!ごめんなさい!!」


千紗が体育倉庫の扉をあけ、入ってすぐにお辞儀をしながら謝る。しかし、私からの返事はない。


「雪乃ちゃん?」


私からの返事がないため、お辞儀していた体を起こし、私の姿を探す。


「雪乃ちゃん!!」


倒れている私を見つけ、急いで駆け寄る千紗。何度も私を呼ぶが何も反応がなく、意識を失っている私。私の頭の下に手を入れ、私を起こそうとする。すると、千紗の手にドロッとした生温かい感触が…


「なに?…血っ?!」


私の頭から流れる血が、千紗の手や服を赤く染める。


「いやっ!!なんでっ?!そんな…雪乃ちゃん!ねぇ、雪乃ちゃん!起きて!やだっ!いやー!!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」


千紗は、何故、私が倒れているのか、何故、血を流しているのか、訳が分からずに何度も何度も泣きながら謝っている。


そこへ、戸締まりのチェックをしに来た教師が、体育倉庫の中から聞こえる異様な声に気づき声をかける。


「どうしたっ?!」


体育倉庫の中を急いで覗くと、そこには泣きながら、横たわっている人を抱きしめる女生徒の姿があった。


「おい!どうしたんだっ?!」


生徒に近寄り、覗き込むと、頭から血を流し、意識を失っているであろう女生徒の姿があった。


「大丈夫かっ?!きゅ、救急車!待ってろ!救急車をよんでくるからな!」


なるほど、それで病院に運ばれたのね。病院に運ばれたはいいけど、手術を受けても意識が戻らないで、3日後には息を引き取ったという訳か。


あと少し待っていれば、千紗が戻ってきてくれたのに、そうすれば死なずにすんだのに、我ながら情けない。自分が死んでしまったことは、後悔しても、生き返ることはできないのだから仕方がない。しかし、千紗のことは気になる。ずーっと泣いていたから。


「あの、アトラス様?千紗と話をしたりとかできないですよね?」


思ったよりショックもなく自分が死んだことを受け止め、目の前にいる人が本当に神様なのだとあっさり納得した私。


「できるよ」


「本当ですか??」


「あぁ、直接ではないけどね」


「じゃあどうやって…?」


「夢枕に立つんだよ」


「夢枕?」


「そう、彼女が寝ている間だけ、彼女の意識と会話ができるってことさ。ただ、夢だと思うか、現実だと思うかは彼女次第だけどね」


「それでもいいです!ぜひ、お願いします!」


私は身をのりだしながら、アトラス様にお願いする。


「ただし、条件があるんだ」


「条件?」


「そっ!僕からの頼みをキミが聞いてくれるなら、キミのお願いを叶えてあげる」


「アトラス様からの頼み?それってどんなことですか?」


「それは、まだ教えられない。さぁ、どうする?」


「分かりました!それでいいのでお願いします!」


考える間もなく、即座に決断した私を、アトラス様は驚いた顔で見る。


「僕がどんな頼みをするかも分からないのに、そんなに簡単に決めてしまっていいの?」


「確かにどんな頼みかは不安があります。だけど、アトラス様は私が困るような頼みはしないはず。だって、神様ですもん」


私はニコッと笑う。


「それに、千紗と話をしなくちゃいけないから…」


「やっぱりキミは変わらない」


「さっきも言ってましたけど、何の事ですか?」


「それはまたあとでね!さて、まずは夢枕に立たなきゃね!」


手をポンッと叩いて、嬉しそうに言うアトラス様。


「さぁ、僕の手にキミの手を重ねてごらん」


私はドキドキしながら、アトラス様の手に自分の手を重ねる。


「目を閉じて、彼女のことを思い浮かべながら、意識を集中させるんだ」


目を閉じ、千紗の事を思い浮かべながら、意識を集中させる。


「いいかい、よく聞いて。彼女と話せる時間には限りがあるからね。キミの体が輝き出したら、お別れの時間だよ。悔いのないように話しておいで」


アトラス様と重ねた手が温かくなり、何かが流れ込んで来る感じがする。そして、だんだんと、意識がどこかにとばされるような感覚になり、目を閉じているのに眩しい光に覆われる─。


光が収まり、目を開けると、目の前にうずくまって泣いている千紗の姿があった。


「千紗…」


私が声をかけると、ハッとして振り向く千紗。


「雪乃…ちゃん?」


千紗は、私の姿を確認するとボロボロと涙を流しながら、私に抱きついてきた。


「雪乃ちゃん!雪乃ちゃん!雪乃ちゃん!雪乃ちゃん!」


私の胸で泣きじゃくる千紗。私はそっと千紗を抱きしめる。


「ばかね…そんなに後悔するんだったら、最初からあんなことしなければよかったのに…」


わたしの言葉に泣きながらハッとする千紗。


「ごめんなさい!本当にごめんなさい!!私…優秀な兄たちと比べられて、だんだん家にいるのが苦しくなって…雪乃ちゃんも大変なのに私の事で心配かけたくなくて…だから、誰にも相談できなくて…つい、万引きを…それを、絵梨花ちゃんに…」


「そういう事だったのね…」


千紗は絵梨花に脅されていたのだ。


「まさか、あんなことになるなんて!本当に、本当にごめんなさい!!」


千紗は私から離れて、頭を深くさげる。


「謝っても許してもらえるなんて思ってないけど、雪乃ちゃんが、生きててくれてよかった!」


涙を拭いながら、私に笑いかける千紗。

私はゆっくりと首を横に振る。


「千紗、よく聞いて。私はもうこの世にいない「嘘よ!嘘!聞きたくないっ!」」


私の言葉を遮って、耳を塞ぐ千紗。私は、耳を塞いでいる千紗の手を握り、耳から手を離す。そして、そのまま千紗を抱きしめる。


「私はあなたを恨んでなんかないわ。私は、優しいあなたが心を痛めている事が辛いの」


「雪乃ちゃん…」


「千紗、あなたに会うまで毎日が辛かったし、寂しかった。でも、あなたに会えて、あなたが私の親友でいてくれて、あなたに会える時間は楽しかったし、1人じゃないと思えたのよ。あなたといる時間は本当に幸せだった」


千紗を抱きしめる腕に力が入る。


「私に幸せをくれてありがとう」


そして、ニコリと微笑む。


「そんな…私は雪乃ちゃんを裏切って…」


「千紗、あなたは何も悪くない。私が死んだのは、私の不注意であって私の責任よ。だから、自分を責めないで」


私は千紗の目からこぼれる涙を指で優しく拭う。


「千紗」


話そうとする私の体がだんだんと輝きだす。


「雪乃ちゃん…?」


私は微笑む。


「千紗、あなたはとても優しくて強い子よ」


「私が強い…?」


「あら?自分じゃ気づいてなかったの?普段はおどおどしてるのに、ここぞって時は絶対に意見を変えないじゃない」


私の体の光が少しずつ強くなる。


「雪乃ちゃん!」


「だから、千紗なら大丈夫!私なんかって、自分で自分の価値を決めないで。周りの悪意に負けないで。千紗ならそれが出来るから!私の保証つきよ!」


胸をドンッと叩いて、ウィンクする私。私の体の輝きが一段と強くなる。


「いやっ!雪乃ちゃん!」


「だから、自信を持って」


「ダメッ!ダメよッ!雪乃ちゃんっ!行かないでっ!!」


「千紗……大好きよ!」


私は思いっきりの笑顔で千紗に笑いかける。それと同時に強い光が私を包み込み、光が消えると同時に私の姿も千紗の前から消えていた。


「雪…乃ちゃん…?…雪乃ちゃーんっ!!」

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