表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天界で育った少女の物語  作者: 斗瑚
8/64

天国

あ~、なんだかふわふわする。


「ん…」


私はゆっくりと、何度かまばたきしながら目をあける。


「ここは…」


「やぁ、やぁ、目が覚めたかい?」


突然声をかけられ驚く。


「きゃっ!!」


びっくりして急に起き上がる。声の主を探そうとキョロキョロと周りを見るが誰もいない。そして気づいた。ここが私の知っている場所ではないことを。


「え?ここどこ?私、体育倉庫にいたはずよね?」


体育倉庫にいたはずの私がいたのは、石造りのすごく大きな部屋のベッドの上だ。窓も大きく、白に統一されたカーテンが、窓から入る光に照らされて、キラキラ輝いて見える。


「すごく綺麗…」


「そうかい?」


「誰っ?!」


私は声のする方へと、慌てて顔を向ける。


「やぁ、ご機嫌はいかがかな?」


声の主は、えらく顔の整った金髪の若い男だった。


「あなたは…?あの!ここはどこですか?私、体育倉庫にいたはずなんです…。あっ!千紗は?!私と同じくらいの女の子を知りませんか?!」


「千紗?あぁ、キミの友達の女の子?」


「そうです!あの子、きっと今頃泣いてるわ」


「…キミを騙した友達を心配するの?」


「確かに騙したかもしれないけど、何か理由があったんだと思います。絶対にあの子の本心じゃないもの」


私は、目の前の金髪男性の目を見ながら、ハッキリと言いきった。


「キミはいい子だね」


極上のスマイルで、私に向ける謎の男性。


「まぁ、知りたいことはたくさんあるだろうから、あっちでお茶でもしながら、ゆっくり話そう」


男は、“おいで”と私の手を握り、私をどこかへと連れていこうとする。


「あの手を離して下さい!」


急に手を握られ、顔が赤くなった私を見て、クスッと笑う男。


だって、仕方ないじゃない。小、中、高と女子高で、男の子に免疫がないし、それにこんなに綺麗な男の人なんて、中々いないもの。


なんてことを思っていると、


「ありがとう」


と、男がニコッと笑って私に言う。


「えっ?」


またまた、呆気にとられる私を見てニコリと微笑む男。


「僕のことを綺麗って言ってくれたから」


赤くなっていた顔が、更に赤くなる私。


「私、口にだして言ってました?」


「いいや、言ってないよ」


「じゃあ、なんで?…まさか、心が読めるとか?…なんてこと、あるわけないですよね!もう、やっぱり口に出してたんですね。口に出しちゃうなんて恥ずかしいです」


自分の言ったことを、自分で否定する私。そんな私を見て、男がまた笑う。


「そのまさかだよ」


「えっ?」


「ほら、ここに座って」


色とりどりの花が咲いた庭に、白いテーブルと椅子が置かれていた。花の周りをキラキラと輝く光が飛んでいる。


「わぁ、綺麗!ホタル?」


どう考えても、こんな明るい場所で光ったホタルが見れる訳がないが、そこは日本人の雪乃のことだ。光って飛ぶ=ホタルなのだ。


「ん?ホタルじゃない?」


よく見ると手や足があり、目も口も鼻もある。


「ふふ、やっぱりキミはキミだね」


目を細めて優しく笑った男が指をそっと前にだすと、光が指に飛んできて、座った。


…座った!?


「人間っ?!」


「クスクスッ。人間じゃないわ。精霊よ」


「精霊っ?!」


「ここの花の蜜は美味しいからね。精霊王様にお届けするために、たまに取りにくるのよ。アトラス様は精霊王様のご友人だしね」


「精霊ってほんとにいるんですね。こんにちは!」


「あら、あなたそんなに驚かないのね。私たちの存在をすんなり受け止めるなんて、珍しい人間だこと。…あら?あなた…。大変!精霊王様に報告しなくちゃ!」


そういうと精霊は、アトラス様の指から飛び立った。


「え?私何か失礼なことしましたか?」


「クスッ。さぁ、座って」


テーブルの上には、いつの間にか用意された紅茶とお菓子が並べられていた。私は言われた通り、椅子に腰かける。

アトラスさんは、紅茶を一口飲んで思い出したように話だした。


「自己紹介がまだだったね。僕は生命を司る神、アトラス。ここは天界の中の“魂”の神殿だ。まぁ、簡単に言うと僕の家かな」


「私は氷川雪乃です。天界で神様…?」


「そっ!神様だよ」


「天界っていうことはここは天国ですか?本当に?それとも、夢?」


「天国と言えば天国かな。キミは夢を見てるんじゃなくて、死んじゃったんだよ」


「死ん…だ?」


「そう。キミは覚えているはずだよ。思い出してごら」


アトラス様は、私の目の前で指をパチンッと鳴らした。すると、私の最後の記憶が頭の中に流れ込んでくる。


「あぁ、そうか…私、バランスを崩したんだ。その時に、頭に強い痛みがして…頭を打って死んだんですね…」


「そう、正確には、頭を打ってから3日後に病院で亡くなったんだけどね」


「病院で?私は体育倉庫にいたはずです。誰かが連れて行ってくれたんですか?」


「知りたいかい?」


アトラス様が手の平を上に向けた。すると、手の平の上にユラユラと水が出てきて、何かが映しだされている。


「これは、キミが望むものを映しだしてくれる。キミには辛い出来事かもしれないが、それでも見るかい?」


アトラス様が私の目をジッと見つめる。私もアトラス様の目を真っ直ぐに見つめ返し、「お願いします!」と、頭を下げる。


アトラス様は、ニコリと微笑み、手の平の上で揺れている水を私の目の前に持ってくる。


「覗いてごらん。そうすればキミの知りたいことが知れるよ。」


私はアトラス様に言われた通りに、目の前の水を覗きこむ。私に起こった出来事を知るために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ