体育倉庫
昼休みが終わり、千紗が教室に戻ってきた。何だか顔色が悪い。何かあったのか聞きたかったけど、すぐに授業が始まってしまったから、何も聞けなかった。授業が終わってから、私はすぐに千紗のところに行く。
「千紗、教室に戻ってきた時に、何だか顔色が悪かったけど大丈夫?」
「雪乃ちゃん・・・」
「どうしたの?やっぱり何かあった?」
「雪乃ちゃん、あの・・・あのね」
千紗が何か言いかけた時、「氷川」と先生から声を掛けられ振り向いた。
「お前、今日日直だったよな?次の授業、プリントがたくさんあるから、取りに来て配っておいてくれ」
「はーいっ!ごめん、千紗!あとでまた話しよう!」
私は千紗に断りを入れて、プリントを取りに行こうとした。だけど、千紗の何か言いたげな表情が忘れられずに、振り返ったが、千紗は絵梨花に声を掛けられたようで、反対を向いて話していた。絵梨花が千紗に話しかけるなんて珍しいなと思いながら、教室を出ていく。
それから、授業が終わり、再び千紗の元へ行く私。
「千紗、さっきはごめんね。何か話があったんでしょ?」
「雪乃ちゃん…」
「千紗、何か困ったことがあるなら相談してほしいな。私は千紗に何かあったら絶対に助けるって決めてるんだから」
千紗に微笑みながら、千紗の手を握る。
「雪乃ちゃん・・・ごめんね」
「ん?何で謝るの?」
「うぅん、あのね、今日の放課後時間ある?」
「放課後?うん、大丈夫だよ」
何かあるのだろうか、詳しいことは聞けないまま放課後を待つことになった。
───放課後───
私は千紗に連れられて体育倉庫にやってきた。
「なんで、体育倉庫?」
「じ、実はね、昨日体育の片付けの時に大事にしてたボールペンを落としちゃったみたいで、一緒に探してほしいの」
「なぁ~んだ。それなら早く言えばいいのに。あの千紗が大事にしてたキラキラの奴だよね?」
「うん」
「よし!探そう!」
私と千紗はボールペンを探しだした。
「どこか端っこに転がってるかもしれないね」
私は隅っこを探しだす。
「雪乃ちゃん・・・ごめんなさい!」
突然、千紗が私に謝り、体育倉庫を出ていってしまった。
「えっ?千紗っ?!」
千紗が出ていった方をボー然と見つめていると、絵梨花が入ってきた。
「絵梨花、なんでここに?」
「ふっ。あんたばか?千紗に騙されたのよ」
「なんで千紗が私を騙すのよ」
「あんたのことが嫌いだって。他に理由がある?」
絵梨花は勝ち誇った笑みを浮かべながら、体育倉庫の扉を閉めた。一瞬のことで反応が遅れた私。急いで扉に近づき扉を叩く。
「ちょっと!開けなさいよ!」
「今日からあんたの家はここよ。あんたにお似合いだわ」
絵梨花が扉から離れていく足音がする。
「待って!ここを開けて!!」
私は思いっきり叫ぶが、返事はかえってこなかった。
「千紗、なんで…」
私は座り込んで、膝に顔を埋める。千紗が私を騙すなんてあり得ない。何か理由があるんだ。朝から様子がおかしかった。やっぱり何かあったんだろう。
「千紗…」
こうしてはいられない。どうにかしてここから出なければ。私は体育倉庫の中を見回す。扉は鍵が閉まってある。天井近くに何とか出られそうな窓があるあそこから出るしかない。足場になるものを探さないと。
「隣の倉庫だったら跳び箱があったのに。平均台じゃたわないし、ボールのかご…これなら高さがあるな。でも、淵に立てるかな?」
やるしかない!と、心に決めて行動に移す。ボールのかごは高さがあるので平均台を足場にしてかごのふちに立つことにした。2台あるうちの1台を引きずって窓際まで持っていく。その横にボールのかごを移動し、準備ができた。
「このかご動くなぁ。うぅ、ちょっと怖い」
ボールのかごは下にキャスターがついているのでかごに立つには不安定なのだ。
「絶対出てやるんだから!」
平均台に登り、バランスを取りながらかごのふちに立つ。窓の鍵を開け、かろうじて見える外の様子を覗くが誰もいない。
「誰かいませんかー??おぉい!誰か~??」
一応、誰かを呼んでみる。案の定、反応はない。
「窓から出るしかないか。うぅ、揺れる…ふぅ、よしっ!せーのっ!」
掛け声とともにジャンプをするが、ジャンプ力があまり出ず、窓枠にしがみついた状態になってしまった。
「ダメかぁ~」
もう一度もとの体勢に戻ろうとするが、かごが動くため、なかなか降りることができない。何とか爪先を伸ばし、降りやすいようにかごを足元に持ってくる。
「うぅ、もう限界…」
手の力が限界になり、手を離す。何とかかごのふちに立てたと思ったが、バランスを崩し落ちる。
「うわっ!」
ガシャン!
ボールのかごが動いて壁にあたる音がした。
ドシンッ!ゴンッ!!
「うっ!」
大きな音がした後、体育倉庫の中からは何も音が聞こえなくなった。