63.誘拐事件
ルイズさんと別れ、少し歩くと商店街の大通りが見えて来た。
“旅に必要な物・・・荷物が少し増えたからたくさん入る鞄が欲しいわね。それに、野宿をすることもあると思うから、お鍋とかテントとか?・・・そんなに持てないわね。”
大通りの道へ出る寸前、反対側の路地裏に私の視線は釘付けとなった。
「誘…拐?」
大きな男が小さな女の子を片手に抱いているのだ。それだけでは誘拐とは思わない。女の子を抱いている手は女の子の口をふさいでおり、男のもう片方の手にはナイフが握られていた。よく見ると女の子は男の手にしがみつき足をバタバタと動かしている。男は後ろを振り返り、何かを言うと、走りだし私の視界から見えなくなった。男が見えなくなるとすぐに別の男がやってきて、今度はグタッとしている男の子を肩に抱えていた。そしてその男もすぐに私の視界から見えなくなった。
「今のって誘拐よね?!大変っ!」
私は、彼らが走って行った方へと走り出す。
“リディ、キヲツケロ。”
“うん。”
“アロお願い!”
“お任せください!”
反対側の路地裏に入って行ったが、男たちの姿はすでになく、アロに広範囲の探知をしてもらう。
“リディ様、あちらに反応が。”
“ありがとう!そのまま、案内して!”
アロに案内してもらい進んでいくと、海に面した人気のない場所にでた。そこには大きな倉庫のような建物が並んでおり、その中に男たちが入っていったようだ。中の様子をアロに探知してもらうと、2人の男以外にも数人の人の気配がするそうだ。中の様子を探るため、2階の窓から入ることにした。風を纏って浮かびあがり、窓を開けようとするが開かない。
“鍵が閉まってる。”
“リディ様、私をあそこまで連れて行って下さい。”
アロが示したのは、小さな通気口のような穴がある場所だ。私がその場所へとアロを連れていくと、アロは穴へとスルスルっと入って行った。
“窓の鍵を開けますので、待っていて下さい。”
“分かったわ。ありがとう!”
穴から室内へと侵入し、窓の鍵を開けてくれたアロ。音を立てないように静かに侵入すると、下から怒鳴り声が聞こえてきた。アロに下の様子を見てきてもらう。アロの契約者でもある私はアロが見たものをリアルタイムで共有できるのだ。
一人、二人、三人…全部で6人の男の人が見える。その内一人は少し身なりのいい感じの若い男だ。子どもたちは縄で縛られ、男たちの足元に座らされていた。
「いい加減タワシのレシピを教えやがれ!」
「お前らみたいな奴等に誰が喋るかよ!」
「このクソガキがっ!痛めつけられたいのか!」
「ロッド、手荒なまねはよせ。」
「しかし、旦那…。」
「おい、小僧。レシピを教えてくれたら、お前に金貨5枚を渡そう。」
「そんなものいらねぇよ!」
「ならば、金貨10枚でどうだ?さらに、今後のお前の生活も保証しようじゃないか。」
「黙れ!お前ら何かに誰が喋るかよ!俺は絶対ナタラのばあちゃんを裏切らねぇ!」
“タワシ?ナタラのばあちゃん?・・・ナタラさんのこと?”
「ほぉ、ならば仕方ない。手荒いまねはしたくはないのだがな。」
旦那と呼ばれた男は、部下であろう男に目で合図を送る。部下であろう男は、すぐ足元にいた小さな女の子の襟首を掴み持ち上げた。
「いやぁぁぁ!」
女の子は恐怖のあまり泣き出してしまう。
「ネリーを離せっ!」
男の子は女の子を持ち上げている男に体ごとぶつかっていくが、あっけなくかわされてしまった。
「マイク!」
ネリーと呼ばれた女の子が男の子の名前を呼ぶ。
「さぁ、どうする?」
「くそ!くそぉっ!!」
悔しがるマイクを男はニヤニヤと見下ろす。
“もう許せないわ!”
私は子どもたちを助けるために、一階へ向かった。