62.旅立ちをつげる
「そうかい・・・。」
「惜しい人材なんだがなぁ。」
家に戻った私はナタラさんと、たまたま来ていたルイズさんにそろそろ旅に出ようかと思っていることを伝えた。
「まぁ、あれだけ依頼をこなしていれば、お金はすぐに貯まると思っていたが、こんなに早いとはね。それで、いつ出発するんだい?」
「3日後にはと考えています。」
「3日後か・・・。旅に必要な物をしっかり準備するんだよ!」
「はい!」
「3日後・・・出発の日を1日早めるなら、マーレニアまで馬車で乗せていってやれるぞ?」
「マーレニアって、シーマーレン王国の首都の?」
「そうだ。実橙の日にギルドの会合があるからな。2日後出発する予定だ。」
「ありがとうございます!歩いていこうと思っていましたから、助かります!ナタラさん、出発が1日早まっちゃいましたけど、あと1日と少し、よろしくお願いします!」
「ふん!」
「なんだ?母さん、寂しいのか?」
「バカなこと言ってんじゃないよ!早く仕事に戻りな!」
「いてて!分かったから叩くなよ。」
ナタラさんにバシバシ叩かれながら、ニヤニヤした顔で家を出ていくルイズさん。
「僕も買い物に出てきますね!」
私もルイズさんの後について、家を出て行く。
「気をつけていくんだよ!」
「はい!行ってきます!」
旅の準備をするために商店街へと行く私は、途中までの道をルイズさんと一緒に歩く。路地裏では、数週間前には見られなかったタワシを使っている人たちの姿がちらほら目に映る。あれから、ナタラさんの行動は早かった。ギルドでレシピ譲渡の手続きをした後、すぐにタワシを製造し始めたのだ。強力な魔法の使い手がいないため、乾燥には時間がかかるが、それでも3日ほどで販売し始めたのには驚いた。売り出し始めは、“何だコレ”という人が多かったが、私の提案で、実演販売をしてみると飛ぶように売れ出した。わずか数週間で、今では国外からも売ってくれという注文が入っているという。なぜ、今までなかったのかが不思議なくらいだ。
「なぁ、お前って結局、何属性の魔法が使えるんだ?」
ルイズさんがぼそぼそっと呟いた。
「ナタラさんに聞いたんですか?」
「いや、母さんは口が固いからな。例え息子でも喋らねぇよ。」
「なら、どうしてその質問を?」
「ランク決めの時、スピードをあげるために僅かだが風を纏っただろう?」
「?!よく、気づきましたね。」
「バカにすんじゃねえよ。これでもギルマスだぜ。まぁ、そこらの冒険者じゃ気づかないように上手く隠していたけどな。お前の底なしの力を感じ取ってから、ずっと気になっていたんだよな。」
「・・・全属性・・・。」
「?!今何て言った?!」
前を見て喋っていたルイズさんが、驚いて私の方をみる。私はルイズさんの目を真っ直ぐに見て答える。
「全属性です。」
「マジかぁ・・・お前よく答えたなぁ。」
私はニコッと笑う。
「最初、この街に来た時は、あまり目立ちたくなくて自分の持っている力を隠そうとしましたが、今は違います。僕が持っている力で誰かの役に立つなら・・・大切な人たちを守れるなら僕は惜しむことなくこの力を使いますよ。」
ダウルとアロが私の顔にすり寄る。
「まぁ、最年少記録を更新して目立っちゃいましたし、もともと隠すことが苦手な性分もあるんですけどね。」
「そうか。変な奴等に目をつけられる可能性もあるが、お前の実力だと大丈夫だろうしな。お前はお前らしく前に進んで行けば、いつか家族に会えるだろうよ。」
「はい!」
「じゃあ、2日後の5の時間にギルド前に集合な。少し早いが遅れるんじゃないぞ。」
「はい、よろしくお願いします!」
ルイズさんと別れ、商店街の方向へ歩いていく。