61.依頼完了
「う、うまいっ!」
「ほんと、すごく美味しいわ!」
バウムさんの家に戻った私は、すぐにフレンチトースト作りに取りかかり、早速、イルムさん夫婦とバウムさんに食べてもらっている。お二人にも、なかなか好評のようだ。
「リドくん、ミルクスープも実際に作っているところを見せてもらいたいんだけど、作ってもらっていいかな?材料は昨日のうちに揃えてあるから。」
「分かりました。」
リクエストに応え、ミルクスープも作る。イルムさんとミジャさんは、レシピ片手に、分からないところは質問し、メモを取っている。
「信じられないよ!ガリドルの骨から、こんなに美味しい味がでるなんて!」
「本当にね。今まで見向きもしなかったものね。」
「リドくんは、親父の怪我が治るまで来てくれるんだったよね?」
「はい。」
「悪いけど、その間、僕の料理を見てくれないかな?」
「料理を…ですか?」
「うん。しばらくここに滞在することにしたから、家のことはミジャに任せて、リドくんには僕の先生になってもらいたいんだ。」
私はバウムさんの方を見る。
「誰に似たのか、言い出したら聞きやせん。ワシからも頼む。」
そう言うとバウムさんは、私に向かって頭をさげた。
「頭をあげて下さい!僕でお力になれるのでしたら「いいのかい!?ありがとう!」」
イルムさんは私の手を握り、嬉しそうな笑顔で笑った。
翌日、イルムさんにはレシピの通りにミルクスープとフレンチトーストを作ってもらうことにした。ただ、この世界には分量を量るという概念がないため、目分量となり、何とも言えない味のものが出来上がった。それからは、細かい指摘を繰り返しながら、大体の分量を覚えてもらうため、ひたすらミルクスープとフレンチトースト作りに励んでもらった。
料理の練習をはじめて2週間ほどたっただろうか。バウムさんの怪我もほとんど回復し、イルムさんが作るミルクスープとフレンチトーストも最初の頃とは比べ物にならないほどおいしくなった。
「リドくん、ありがとう!本当にありがとう!キミに教えてもらった料理があれば、宿を建て直すことができるよ!」
イルムさんに、両手で手を握られ、お礼を言われる。それから、ミジャさんに向き合うと、ミジャさんは、私をギュッと抱き締め、感謝を伝えた。
「リドくん、本当にありがとうね。」
お母さんってこんな感じなのかな・・・。
「リドくん、サリジア王国に行く時は、うちの宿で休んで行ってね。あなたなら、大歓迎よ。」
「はい!ありがとうございます。」
「小僧、わしも息子夫婦を手伝うために、一緒にいくことにしたわい。しばらくの間じゃがな。」
「そうですか。」
「これは、今回の依頼完了のサインとワシからの礼じゃ。」
「大銀貨・・・?もらえません!」
「お前さんには世話になったからの。受け取ってくれ。」
「でも・・・。」
「リドくん、人の好意は素直に受けとるものよ。」
ミジャさんが、優しく私の手を握る。
「あ、ありがとうございます!」
バウムさんたちと別れの挨拶を終えて、依頼完了報告をするためにギルドへと向かう。
“お金も貯まったし、そろそろこの街をでようか。”
バウムさんの依頼を午前中に終わらせると、午後からは時間があいたから、薬草採取や、魔物討伐の依頼をコツコツとしていた私。ヘチマタワシや料理のレシピのお金もあるし、気づいたらわりと小金持ちになっていた。ダウルとアロは“リディ(様)が行くのなら”と、私の考えに賛同してくれた。
ギルドに着き、依頼完了報告をする。
「報酬の中銀貨5枚です。お疲れさまでした。」
テラさんが、笑顔で労を労ってくれる。
「テラさん、聞きたいことがあるんですが。」
「何かしら?」
「この街以外のギルドで依頼を受ける時は、手続きとかは同じでしょうか?」
「?!」
テラさんが、カウンターから身を乗り出してきた。
「リドくん!他の街へ行っちゃうの?!」
「はい、お金も貯まったし、そろそろこの街をでようかと。」
「お金が貯まったから?そういえばお金を貯めたいって言ってたわね。でも、この街で暮らすためじゃなかったの!?」
「い、いえ、僕は旅に出たいんです。」
テラさんの勢いに圧倒される私。
「・・・そうだったのね・・・あれだけの依頼をこなしてたら、すぐに貯まるわよね。旅に出るためだったのね。あぁ!そうと知ってたら、もっと居てもらうために、手続きなんてしなかったのに!」
なぜか、テラさんが悔しがっている。
「悔しいわ!あなたほどの実力者を手放さないといけないなんて。いい、リドくん!いくら旅に出たとしても、あなたはこのギルドで冒険者登録をしたんだから、どこのギルドに行っても、ノエリア支部のリドくんなんだからね!そこのとこ、よぉく覚えておいてよ!」
テラさんの迫力に圧倒されながら、逃げるようにギルドを後にした。




