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天界で育った少女の物語  作者: 斗瑚
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59.息子夫婦の問題

商業ギルドを出て、急ぎ足でようやくバウムさんの家へと辿りついた。


“間に合ったかな?”


時計を持っていない私は時間が分からず、かなり不便だ。


コンコンッ──。


私がドアをノックすると、勢いよく扉が開き、知らない人がでてきた。


“あれ?!間違えた?!”


バウムさんの家を間違えたのかと思うが、まわりに家はなくバウムさんの家で間違いないはずだ。


「やぁ、キミがリドくんだね!待ってたんだよ!」


男の人はニッコリと笑うと、両手で私の両手を握りブンブンと握手をしてきた。


“あわわ!激しいから!”


「あなた!リドくんが驚いてますよ!」


男の人の後ろから、今度は女の人が出てきた。


「あぁ、すまない!さぁ、外は寒いから入って、入って!」


「あの、ここはバウムさんのお宅ですよね?」


家の中に入っていこうとする男の人に声をかける。


「ん?そうだよ。」


「もしかして、息子さんですか?」


「あぁ、自己紹介をしてなかったね。僕はバウムの息子でイルムっていうんだ。こっちは妻のミジャ。」


「僕はリドって言います。よろしくお願いします。」


「そんなにかしこまらないで。それによろしくと言いたいのは僕らの方なんだ。」


「え?」


「親父の世話をしてくれるのもよろしくだし、なんと言ってもあのスープ!」


「スープ?」


「リドくん、キミはこの街に来たばかりと聞いたけれど、あのスープはどこかのお店で教えてもらったのかい?」


「お店で?いえ、お店で教えてもらった訳ではありません。」


「それじゃあ、リドくんのオリジナルだね!スープのレシピを誰かに売ったりしたかい?」


「オリジナルかは分かりませんが、スープのレシピは売ったことはありません。」


私の様子を伺うように見ていたイルムさんが、私の言葉を聞いた途端、輝くような笑顔になり、またまた私の両手をがっしりと握ってきた。


「よかった!リドくん!あのスープのレシピを僕に譲ってくれないかい!?」


あまりの勢いに圧倒されて、びっくりしている私を見かねたミジャさんとバウムさんが助け船をだしてくれた。


「あなた、落ち着いて下さい。リドくんが困ってますよ。」


「す、すまない!気が急いてしまってね。」


私の顔を見ると、頭をクシャっと掻きながら謝るイルムさん。


「イルム!さっきから見ておったが、物を頼む相手に飲み物も出さず、立たせたまま話を進めるとは!小僧、すまんな。とりあえず座ってもらえるか?」


バウムさんが椅子に座るようにすすめてくれる。皆が席につくと、バウムさんが事の成り行きを話してくれた。


「昨晩、息子夫婦と食事をしていた時にな、お前さんが作ってくれたスープをだしたんじゃ。ワシもあまりの美味さに驚いたが、息子夫婦も感動してな、あのスープはどうしたのか聞かれたから、お前さんの事を話したら、ぜひ会いたいと言って、今朝早くに帰るはずが、こうしてお前さんを待っていたというわけじゃよ。」


「あぁ、あのスープは本当に素晴らしかった!今まであんな美味しいスープは食べたことがないよ!」


「もう、あなた!」


身をのりだして、感動をあらわにするイルムさんをミジャさんが嗜める。


「ごめんなさいね。私たち夫婦はシーマーレン王国とサリジア王国の国境付近で宿屋を営んでいるんだけどね、最近、サリジア王国側の国境付近に新しい宿屋が建ったのよ。建物が新しくて、価格も安いからって、みんなそっちに行ってしまって。私たちの努力が足りないなら、学ばせてもらおうと思って私たちも足を運んだんだけど、建物が新しくて価格が安いだけだったのよ。」


「?」


「お客さんに対する態度はあまり誉められたものではないし、ごはんも美味しいとはいえないし・・・。だからお客さんは真新しさと、価格にひかれて行ってるんだと思うんだけど。うちはこれ以上価格を下げるわけにはいかないから、何かお客さんがひかれるような物をと考えてたんだけど。」


「それで、スープのレシピですか?」


「そうなの。だけど、無理にとはいわないわ。」


「いえ、レシピをお譲りするのは構いませんよ。」


「本当かい?!」


ミジャさんに発言を任せていたイルムさんが、またまた身を乗り出してきた。


「だから、リドくんが驚きますよ!」


ミジャさんがイルムさんに座るように、再度嗜める。


「あはは、すまない。だけど、本当にいいのかい?」


「はい。」


「ありがとう!本当にありがとう!」


イルムさんとミジャさんが私に向かって頭を下げる。頭を下げられるほどのことではないので、私は頭をあげて下さいと、慌ててしまうのだった。




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