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天界で育った少女の物語  作者: 斗瑚
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氷川雪乃

キーンコーンカーンコーン


学校のチャイムが鳴る。


「ゆ、雪乃ちゃん!」

「ん?」


名前を呼ばれた私は振り向く。


「千紗!おはよう!ギリギリだね。どうしたの?」

「えっ?!」

「何かあった?急にメールで先に行ってだなんて」

「な、何もないよ」

「ほんとに??」

「う、うん!ほんとに!」

「千紗は優しいから、また何か頼まれたんじゃないの?」

「ほんとに違うよ」

「違うならいいけど、何か困ったことがあったら言ってね」


そう言ってにこりと微笑むと、肩まで伸びた黒髪がサラリと頬をくすぐる。私は氷川雪乃17歳。そして、もう一人の少しおっとりしてそうな優しげな女の子が二階堂千紗18歳。私の親友だ。


「雪乃ちゃん、髪の毛伸びてきたね」

「うん。千紗、またお願いしてもいい?」

「もちろん!いつでも切るよ」


お金がない私は、いつも千紗に髪の毛を切ってもらっている。両親がいない私は叔父の家で面倒を見てもらっているのだ。亡くなった両親が残してくれた遺産もあるが生活に必要なお金以外は、私が大学生になって、一人暮らしするようになってからのお金に充てなさいと言って、叔父が使わずに管理してくれている。


叔父はとても優しい人で、私の事を気に入らない叔母からいつも私を守ってくれる。叔父は、遺産を遣わずに私を養ってくれようとしたそうだが、叔母が猛反発し、生活費は遺産から払うことになったらしい。これは、叔父の妹、私にとっては実の叔母にあたる人が教えてくれた。お金の亡者の叔母らしいと笑っていた。


私に万が一があった時は、遺産は叔父のものとなる。遺産が極力減るのを嫌がった叔母が必要最低限のお金以外は出さないと決めたため、お小遣いと言うものはない。だから、叔父が内緒だぞと、自分のお金をお小遣いだと言って渡してくれるが、そのお金は何かあった時のために極力使わないように貯めているのだ。


「あら、雪乃ったら、美容室に行くお金もないの?かわいそうに」


でた!嫌みな女!氷川絵梨花とそのとりまき。この氷川絵梨花、叔父夫婦の娘で私を虐める母親を見ながら育ったものだから、叔母と言動がそっくりなのだ。


「私がかわいそうなら、私はかわいそうな家の子なのね。絵梨花、自分で言うほどあなたの家ってかわいそうなの?」


そう、私がかわいそうなら、私が暮らしている家はかわいそうな家なのであって、絵梨花の家はかわいそうということなのだ。


「なっ?!」


キッ!


絵梨花がすごい目つきで私を睨む。絵梨花の家はそこそこの会社を経営している。だからといって、余裕があったから私を引き取ったのではなく、17年前、経営難に陥った時、お金があと少し足りず、私を引き取る際に養育費として払われたお金で難を凌いだようだ。


この話は、前に叔父が酔っぱらっている時に泣きながら教えてくれた。だから私には感謝していると、あのお金がなかったら路頭に迷っていた、だが、お金の話がなくても私のことを引き取った、姪の私のことは本当に可愛いんだと、お前が産まれたときは本当に嬉しかったし、今では本当の娘のようと。


・・・嬉しかった。本心じゃないかも知れない、だけど叔父の言葉は本当に嬉しかったのだ。両親のいない私にとって、叔父の言葉は唯一、家族としての愛を伝えてくれた言葉だったから。その言葉を聞いた夜は、嬉しくて涙がとまらなかった。だから、叔母や絵梨花にどんなに虐められようとも、叔父に迷惑がかかることだけはやめよう、いつか叔父に恩返しをしようと心に決めたのだ。


あの日を境に、叔母や絵梨花に何を言われてもあまり気にしなくなった。


「あんたはうちの子なんかじゃないわ!私の家に居候してるくせに、口答えするなんて、許せない!あんたの親があんたを残して死んだせいで私はすごく迷惑だわ!子どもを残して自分たちだけ死ぬなんてバカみたい!うちから出ていってよ!」


18歳にもなって、子どものようにわめきちらす。頭の中が幼いんだろうと、普段なら適当に流すのだが、両親をばかにするようなこの言葉にはさすがに頭に来た。写真でしかしらない両親だけど、写真ではあんなに幸せそうな顔をしているのだから、私を愛してくれていたはずだ。両親をばかにされ、頭に来た私はついつい言い過ぎなほど言い返してしまった。


「居候はしてるけど、生活費は払ってるわよ?それに、あの家は叔父さんが建てたものであって、あなたが建てた訳じゃないじゃない。何よりあなたが養ってくれてる訳でもないし。叔父さんにはお世話になってるけど、あなたに偉そうにされる筋合いはないわ。むしろ、私に感謝してほしいぐらいだわ。一人じゃ何もできないあなたのお世話をしてあげてるんだから」


私の反論を聞いて、絵梨花が顔を真っ赤にしている。


「授業が始まるわ。千紗、行こう」

「う、うん」


私は言うだけ言って、移動教室のために教室を出ていく。心の中では、やってしまったと思いながら。




☆☆☆




昼休み、早々にお弁当を食べた千紗が私に話しかける。


「雪乃ちゃん、ごめんね、ゆっくり食べてて」

「どうしたの?」

「えっ?あの、えっと、部活の用事!」

「そっか。いってらっしゃい」

「うん。またあとでね」


そう言って、千紗は足早に教室を出ていく。今朝から何だか様子がおかしい気がする。教室の窓から見える空を見上げながら、今朝からの千紗の様子を思い返す。もしかしたら、明日の私の誕生日に何か作ってくれているのかもしれない。


毎年、私の誕生日には、千紗が手作りの物をプレゼントしてくれる。一番最初はマスコットをもらった。私の鞄につけているこの子。そして去年は蝶の刺繍が入った可愛いポーチだった。今年は何だろう?私の誕生日を、叔母さんと絵梨花がお祝いしてくれる訳もなく、いつも寂しい誕生日を過ごしていた。2人が寝静まった頃、叔父さんが、「おめでとう」と申し訳なさそうな顔をしながら、こっそりとケーキを差し入れてくれる。それが中学生になって、千紗と出会ってからは、千紗が手作りのプレゼントをくれるようになった。千紗からもらったプレゼントは全部私の宝物だ。今年は何かな?楽しみな反面、なぜだろう…どうも胸騒ぎがする。どうか、思い過ごしでありますように。

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