57.アララギタワシ
ナタラさんと食事を終えたあと、大きなお鍋を借りてタワシ作りにとりかかった。まず、お鍋に水を入れ沸かす。沸かしている間に、買ってきたアララギを適当な大きさにカットしておく。お鍋の水が沸騰したら、適当な大きさにカットしたアララギを、お鍋に入れて煮込む。
「アララギを茹でて食べるのかい?」
「いいえ、これはタワシにするんです。」
「タワシ?」
「えっと、お掃除の時に使う道具です。」
「掃除の道具?!」
ナタラさんは不思議そうに、私がすることを見ている。お鍋の中でグツグツとゆがかれているアララギ。浮いてくるアララギをスプーンで沈めながら茹でること30分ほど。
「もういいかな?」
茹でたら皮を剥くのだが、茹でたては熱く、火傷するといけないので、一旦冷たい水に浸す。水に浸したアララギの皮を剥くとツルンと剥けた。本当のヘチマは種があるが、アララギは種がないので、随分楽だ。皮を剥いたアララギを魔法で乾燥させる。魔法でアララギを持ち上げ、球状の熱風の渦を作り出し、その中にアララギをいれる。地球でいうところの乾燥機の中にアララギを入れた状態を作りあげたら、高速乾燥。
「風と火?!同時に?!」
ナタラさんが風魔法と火魔法の使用に驚いている。
“そうだった!全属性使えることも、同時に使えることも隠したままだったのよね。”
「リド、あんた・・・。」
「内緒にしててごめんなさい。」
フッとナタラさんは呆れたように笑う。
「本当にすごい子だね。」
私もニコッと笑い返す。
「さぁ、できましたよ。」
乾燥させたアララギをテーブルの上に置く。
「なんだい、こりゃ!アララギがカチカチじゃないか。こんなもので掃除をするのかい?」
「いまはカチカチですが、水を含むと丁度いい柔らかさになるんです。見ててください。」
私はアララギタワシを持って、焦げ付きが残った鍋を手にとった。
「鍋をどうするんだい?」
「こうするんです。」
水を流しながら、アララギタワシで鍋をこすると、焦げ付きがどんどん取れていった。
「焦げが!なんだい、これは!!」
「鍋だけじゃなくて、床などのお掃除にも使えますし、体をこするとお肌の汚れも取ってくれますよ。」
「アララギでこんなものが作れるなんて!これは売れるよ!リド!この商品をうちで取り扱わせてもらえないかい!」
「売るんですか?」
「あぁ!もちろんあんたにお金も払う!お願いだよ!」
「売るのは構いませんよ。お世話になってるんですから、お金もいりません!」
「いいや、お金は払う。こういうことはキッチリしないとね。今から、商業ギルドに・・・いや、子どもを連れ歩くには遅いね。明日時間はあるかい?」
「はい、朝早くか、昼からでしたら大丈夫ですよ。」
「よし!なら、朝一番に商業ギルドに行こう!」
「商業ギルドですか?」
「あぁ、商業ギルドであんたとあたしの間で契約を交わすんだよ。」
「そんなことしなくても、タワシは自由に売ってもらっても構いませんよ。」
「別にあんたを信用していない訳じゃないさ。ただ、いくら信頼のおける相手でも、あたしら商売人は、こういう手続きはきちんとしておくもんなんだよ。商業ギルドに登録してある正規の商品だと公言できるからね。それに、商業ギルドで契約をかわせばうちだけの商品として登録ができる。よそが真似することのできない商品になるんだよ。」
“特許みたいなものなのかな?”
「だから、付き合わせて悪いけど、一緒に商業ギルドに来てくれるかい?」
私が快く承諾すると、ナタラさんは“ありがとう”と私の手を握りお礼を言った。




