56.初めての買い物
ナタラさんのお言葉に甘えて、食事までの時間を自由に過ごすため、外へ出てきた私たち。何をしようか考えた結果、今日の依頼で、掃除のでき具合に納得のいかなかった私は、たわしの代わりになるようなものを見つけることにした。
「アララギっていう植物がヘチマのようなものなのね。アララギはどこに・・・あら、キースではよく食べるのね。普通にお店に並んでるわ。買いにいきましょう。」
検索でヘチマの代用品となる植物を見つけた私たちは、野菜や果物を置いてあるお店にやってきた。
「アララギはどこかな?」
「アララギを探してるのかい?」
「はい。」
「こっちだよ。」
親切な店主さんらしき人が声をかけてくれた。
「ここだよ。坊や見ない顔だね?」
「僕はリドって言います。最近この街に来ました。ナタラさんの家でお世話になってます。」
「ナタラばあさんとこの子かい?いつもの子たちはどうしたんだい?」
「いつもの子たち?」
「あぁ、ナタラばあさんのとこの子どもたちと一緒に暮らしているんじゃないのかい?」
「?」
一体なんのことだろう?そういえば、身寄りのない子の世話をしてるって・・・詳しいことがわからない私は、店主に話を聞いてみた。ナタラさんは、親のいない子ども達に仕事を与え、面倒を見ており、その子どもたちが、週に一度買い物に来るのだそうだ。
「坊やは、子どもたちと一緒に暮らしてるんじゃないのかい?」
「いいえ、僕はナタラさんの家で生活をさせてもらってます。」
「そんなことは初めて聞いたな。」
「あの、アララギはおいくらですか?」
「ん?あぁ、3つで銅貨2枚だよ。」
「いえ、この切っているのではなく、そっちの1本の分を。」
「まるごと買うのかい?!」
「はい、ダメですか?」
「いや、ダメではないが珍しいね。1本だと小銀貨2枚だよ。」
「あの、これからお願いします。」
私は、中銀貨1枚を店主さんに渡す。
「ちょっと待ってな。」
店主さんは一度奥に引っ込んで、お釣りを持ってきた。
「ありがとよ。」
アララギとお釣りを受け取り、この世界での初めての買い物が無事にすんだことにホッとしながら、次の店へ向かう。
“リディ、これタベルのか?”
“タワシにするの。”
“タワシ?”
“そう、タワシ!汚れが取れるわよ!う~ん、楽しみ!”
次に私が立ち寄ったのは、日用品を扱っているお店、そうナタラさんのお店だ。
「すみませ~ん!」
「はい、はい、いらっしゃい!ん?キミはさっき母さんと一緒にいた・・・リドくんだっけ?」
「はい!」
「アララギを1本持ってどうしたの?」
私の背丈ほどもあるアララギを抱えている私をみて、驚くノリスさん。
「あの、大きなお鍋ありますか?」
「鍋?鍋なら母さんに言えば貸してくれると思うよ?」
「いえ、いいんです。お鍋はおいくらですか?」
「う~ん、そうかい?」
ノリスさんは、鍋が置いてある場所へと連れていってくれた。
「どの大きさがいいの?」
並んでいるお鍋の中でも、少し大きめの鍋を手に取った。
「これをお願いします。」
鍋を買い、不思議そうなノリスさんに別れをつげ、家に戻った。
「あぁ、おかえり!ん?何を持ってんだい?」
「ちょっと試してみたいことがあって。」
「まさか、鍋を買ったのかい?!」
「はい。」
「鍋ぐらい貸してやるのに、何て勿体ないことを!」
「すみません!」
「どこで買ったんだい!」
「ノリスさんのところで。」
「なら、これは私が返しといてやるから、家にある鍋を使いな。」
「でも「でもじゃないよ!遠慮する気持ちも分かるが、あるものを買うなんて勿体ない。あんたはお金を貯めて、家族を探すんだろう?お金を無駄にしちゃいけないよ。次からはちゃんと聞くんだよ。」」
「・・・はい、ありがとうございます。」
ナタラさんの遠慮するなという気持ちがありがたかった。少しでも早く家族に会えるように考えてくれている気持ちが嬉しかった。最初の街でこんないい人に出会えるなんて、ヴィーナ姉様の加護のおかげね。ありがとう、ヴィーナ姉様。




