53.初めての狩り
シーンと静まり返った中、カサカサッと音がする。私はゴクンと唾を飲み込む。
“来たっ!”
現れたのは、ウサギのような長い耳と狸のようなふわふわのしっぽを持ったカンガルーのような動物だった。一応、鑑定をしてみる。
【オガール:魔物】
おとなしそうに見えるが、耳の先がナイフのように鋭く、刺されると大怪我を負う可能性があるので注意。首と胴体の間に核がある。また、オガールの肉は食用で、焼くとベーコンのような味がする。
「魔物・・・。実際に見るとちょっと変わった動物みたい。」
核の場所と食用であることを確認し、狙いを定める。魔物は心臓の代わりに核と呼ばれるものが体内にあり、核を壊せば死に至る。核を打つべく、狙いを定め、弓を持つ手に力が入る。
“大丈夫、落ち着くのよ。”
初めて生きている魔物に弓を向ける緊張からか、手に汗が滲む。
“今だ!”
引いていた矢を離す。矢はオガールに向かって一直線に飛んでいく。
ズシュッ!!!
オガールはその場に倒れた。どうやら核を打ち抜き、致命傷になったらしい。
木から降り、倒れたオガールの側へと走っていく。生きた魔物の命を奪ったという、何とも言えない感情がわいてくる。
「リディ。」
ダウルが私の手に鼻をくっつける。
「リディ様。」
アロも蛇の姿に戻り、私の頬にすり寄ってくる。
「ありがとう。私は大丈夫よ。魔物といえど、命をいただくんだもの。感謝して大切にいただくわ。」
オガールの命を無駄にしないためにも、そしてお肉を美味しくいただくためにも、鮮度を保つため血抜きをする。血抜きをする前に冷やした方がいいらしいが、この寒さだから今の時期は冷やさなくても大丈夫だろう。獲物の血抜きとさばき方も、ジィジの『リディちゃん、獲物はこう捌くんだよスペシャルキッド』で、たくさん練習したから完璧だ。問題はどうやって持ち帰るかだ。オガールは思ったより大きく、10才の私の力じゃ、引きずらないと持ち帰るのが難しい。引きずってしまうと、せっかくの獲物が傷だらけになってしまう。
「そうだ!」
うふふ。いいこと思いついちゃった!
☆☆☆────────────────☆☆☆
「ただいま戻りました!」
「おかえり、リド。昼に戻って来なかったけど、昼飯は食べたのかい?」
「はい!森で食べました。」
「森で?!」
「はい!森の中は、美味しいものがたくさんあって、とってもいいところですね!」
「ばかだね!危ないだろう!なんで帰って来て食べなかった!」
「すみません!考えてませんでした!」
「まぁ、いいさ。あんたの昼飯もちゃんと用意してるからね。明日は帰って食べな。」
「はい、ありがとうございます。」
そっか、お昼ご飯用意してくれてたんだ。申し訳ないことしちゃったな。
「それで、初めての依頼はどうだった?」
「はい!掃除に洗濯、料理をしてきました。楽しかったですよ。あっ!ナタラさん、これ、お土産です!」
布で包んだ果物をテーブルの上に広げる。
「ありがとう・・・って、これどうするんだい?」
「?」
なぜかハテナマークのナタラさん。
「果物ですよ。」
「クダモノ?」
「えっと、フルーツ?」
「これがフルーツ?」
「えっ?この国の人はフルーツを食べないんですか?」
「?」
ナタラさんは、レプリ、ロベ、リンジ、ロアンなどを持ち帰った私を不思議そうに見ながら、何を言っているのか分からないような顔をしている。
「フルーツといやぁ、ナーバやカースだろう?」
「これらは食べないんですか?」
「食べるやつなんていないよ。」
「えぇっ?!美味しいのに。」
「美味しいって、あんた食べたのかい?!」
「はい、美味しかったですよ。それと、これも。」
私は外套を脱ぎ、背中と外套の間に入れていたオガールをナタラさんの前にだす。(風魔法で浮かせて、背中と外套の間に入れて持ち帰った(笑))
「オガール?!」
ナタラさんは、目を見開いた。らどうやら、オガールを持ち帰ったことや、オガールが浮いていることにナタラさんは驚いたようだ。




