50.坊主さんの後悔②
「か、か、かわい~っ!」
こう見えて、可愛いものが大好きな俺は、一目見た瞬間、頭上から落ちてきたであろう動物に心を奪われたのだ。
「キミは、どこから来たんでちゅか?ここらじゃ見ない顔でちゅね。」
俺は満面の笑みを浮かべながら、“こっちにおいで”と手を差し出した。つぶらな瞳で俺を見つめる小さな動物は、見たこともない姿をしていた。俺は小さな動物を見つめ返す。すると、突然小さな動物が走り出した!と思ったら、木の上から何かが落ちてきた。
「お前っ!」
小さな動物は、綺麗な顔立ちの少年の肩に登っている。
「坊主さん、僕に何かご用ですか?」
そう、俺が探していたあの少年だ。
「坊主さんだと!」
俺をバカにしているのか!小さな動物で癒されていたのに、静まりそうだった怒りの気持ちがよみがえってくる。
「さっきはよくも俺に恥をかかせてくれたな!」
「いえ、僕は何もしていませんが・・・。」
「うるせぇっ!ガキだと思って大目に見てやってりゃあ、いい気になりやがって!」
俺は怒りを抑えきることができず、少年に飛びかかっていった。すると、少年の腕輪がムチへと変化した。
「な、腕輪がムチに?!」
少年がふるったムチが、俺の頭の上を通り過ぎる。ふぅ!危なかったぜ!
「へっ!どこを狙ってやがる!」
ギリギリ避けたのに、強気な台詞をはく俺。
「一発なぐらせてくれたら気がすむからよ!」
「子ども相手に大人げないですよ。」
確かに大人げないが、軽く殴らせてくれたら気がすむからよ!と、心の中で叫んでいると…
「なっ?!」
少年が放ったムチが俺の腕と肩に絡みつき、木の枝へと俺を吊り上げた。ムチに縛られた俺はバタバタと足を動かすが、身動きがとれない。
「は、離せぇー!」
「何の罪もない子どもに暴力を振るおうとするなんて、しばらく反省していて下さい。」
少年がそう言うと、木の枝が動きだし、ムチでしばっていた俺を木の枝が縛りあげる。
「なんだ?!こりゃ、どうなってんだ?!」
俺を縛りあげている木の枝の隙間から、ムチがニョロニョロと少年の方へと動く。そして、少年の腕へと絡み付き、腕輪へと変わった。俺は夢でも見てるのか!?自分が見たものが信じられず、目をパチパチさせる。
「今日の分の依頼が終わったら、戻ってきますからね。ちゃんと反省していてくださいよ!」
少年はそう言うと俺に背中を向け、歩き出した。
「お、おいっ!まて!降ろせーっ!」
「あっ!そうだ。アクアバロン」
「うわぁっ!なんだ?!」
少年が何かを呟くと、俺の回りに水の膜ができた。
「寒いからね。風邪ひくといけないし。この中にいたら寒さを感じないから。」
「み、水魔法・・・詠唱なしで精霊も呼ばずに?!」
信じられないことばかりが起きる。アイツは一体何者なんだ!
「じゃ、行ってきまぁす!」
「あっ!おいっ!!」
少年は、“行ってきます”と言うと、とっとと行ってしまった。
「嘘だろ・・・。」
何とか抜け出そうと、もがいてみるが、木の枝はびくともしない。
「誰かーっ!誰かいないか!!」
助けを呼ぶが、街はずれの道からそれた場所だ。当たり前だが返事がない。
「おーい!誰かぁ、助けてくれー!」
シーンと静まり返る森の中。
俺の何がいけなかったんだ…怒りで一杯だった俺の心が沈んでいく。俺はただ、Cランクの奴の顔が、名前が知りたかっただけ・・・話がしたかっただけなんだ。仲良くなって、Dランクから抜け出せない俺にアドバイスしてほしかっただけなんだ。
「八つ当たりもいいとこだよな・・・あんな子どもを殴ろうとするなんて。」
しかし、あの少年は一体何者なんだ。見たこともない武器に、一瞬の魔法。この目で見たことが信じられない。
「あの子可愛かったなぁ。」
頭に浮かぶのはつぶらな瞳の小さな動物。あの子も見たことのない姿だった。せめて、撫でたかったなぁ。
「はぁ~、俺何やってんだろう・・・。」
ぼけーっと、景色を眺める俺。水の膜の中は暖かく、身動きが取れないことを除けば快適だった。何もすることがない俺を、だんだんと睡魔が襲ってくる。夢を見ながら少年の帰りを待つのもいいだろう・・・。俺は夢の世界に出かけた。
───あれから、どれくらいたっただろうか。少年はまだ戻ってきてないのか。
「うっ・・・。」
俺の体がブルッと震える。とうとう奴がやってきた。そう便意を覚えた俺の下半身。少年はまだか!足をモジモジさせながら辺りを見回す。
「俺が悪かったよ!」
少年よ!早く…早く戻ってきてくれ!




