46.便利な魔法
バウムさんと裏口へ行くと、汚れた洗濯物が山になっていた。
「バ、バウムさん?」
「ハッハッハッ!洗濯は嫌いでな!」
“これ絶対、怪我する前から溜め込んでるよね?”
「洗濯物って普段は手洗いですか?」
「手で洗わなくて何で洗うんだ?」
「ですよね。」
私は洗濯物の山を水のポヨンとした塊で包み込み、水中で渦を起こす。
「魔法で洗濯物を?!水と風の魔法を同時にだと?!お前のような子どもがありえん!」
洗濯機の要領で、渦の向きを右回転にしたり、左回転にしたりして、洗濯物を洗う。2、3度水を替え、水が汚れなくなったら風を熱風にし、洗濯物を乾燥させる。
「な、なんと火と風を同時に!信じられん!小僧、お前一体いくつの魔法を使えるんだ?!」
バウムさんは、驚きのあまり若干震えている。
「できれば、他の人には黙ってて頂けるとありがたいのですが。」
そう言ってニコリと笑う私。
「これだけの使い手がなぜ、こんな依頼を?ギルドも黙っておらんだろう?」
「えぇっと、ギルドには水魔法だけ登録してますから。」
困ったように笑う私に、バウムさんが問いかける。
「なぜだ?こんな貴重な人材を国が放っておくわけがない。国に雇われれば、ある程度の地位が与えられ、生活には困らんだろう?こんな低ランクの依頼なんぞ請けずとも・・・。」
「それじゃあ困るんです。」
「なんだと?」
「確かに生活には困らないかもしれません。ですが、自由ではなくなるし、国から離れる事ができなくなる。それでは家族が探せません。」
「家族?そういえば、お前さん、ここいらじゃ見らん顔だの。」
「はい。僕は家族を探して旅をしています。訳あってこの街にたどり着き、今はナタラさんという女性の家でお世話になっています。旅の資金を稼ぐために、ギルドに登録して依頼を請けました。だから、地位や安定した暮らしが欲しい訳ではないんです。」
「ナタラばあさんの?・・・そうか、訳ありか。安心せい!ワシは口が固いからな。ハッハッハッ!小僧!いや、リドと言ったかの!お前に依頼を頼みたい!請けてくれるか?」
鑑定で見るバウムさんの表示はムスッとした顔から笑顔となり、オーラはオレンジ色のままだ。
「はい!もちろんです!よろしくお願いします!」
そんな会話をしている間に服の乾燥が終わった。
「こんな短時間で乾くのか?!はっ!こりゃあいい!」
「次は何をしましょうか?」
「食事の用意を頼む。料理はできるか?」
「はい、できます。」
私たちは台所のある部屋へと移動した。
「そこに材料がある。お前さんの作れるものを作ってくれ。」
「分かりました。」
「出来たら呼んでくれ。ワシは向こうの部屋で待っとくからの。」
「はい。」
“わぁ、見たことない材料ばっかり!”
目の前には、でこぼこした紫色の果物のようなものや、鮮やかなピンク色の人参のような形をしたものなど見たことのない材料がたくさん置かれていた。材料の名前も分からない私は、とにかく片っ端から鑑定と検索をしていく。
「──い。おいっ!」
「は、はいっ!」
「何をぼーっとしておる!」
「い、いえ!どうしましたか?」
「食事の用意がすんだら、片付けて、今日は帰っていいからの。」
「はい。分かりました。」
“鑑定と検索をしてたら、意識がそっちに集中しちゃうから難点よね。”
「よし、頑張りますか!」




