43.坊主さん②
「か、か、かわい~っ!」
坊主さんの変わりぶりに、木の上で見ていた私とアロは、思わず木から落ちそうになる。
「キミは、どこから来たんでちゅか?ここらじゃ見ない顔でちゅね。」
坊主さんは、目の前にいるダウルに向かって、満面の笑みで“こっちにおいで”と手を差し出している。
“まさかの動物好き?!さっきまでの態度と全然違うじゃない!っていうか、ちょっと・・・ねぇ。”
“リディ様、私何だかおぞましい物を見ているような・・・。”
“リディ、コイツイヤだ。ぶっとばしてもイイか?”
“う~ん、本当は悪い人じゃないのかな?動物好きに悪い人はいないっていうし・・・。”
“ダウル、おいで。”
私はダウルを呼び、木の上から飛びおりる。降りた私の肩にダウルが登ってくる。
「お前っ!」
「坊主さん、僕に何かご用ですか?」
「坊主さんだと!」
さっきまでのデレ顔はどこへやら、坊主さんの顔はみるみるうちに怒りの形相になっていく。
「さっきはよくも俺に恥をかかせてくれたな!」
「いえ、僕は何もしていませんが・・・。」
「うるせぇっ!ガキだと思って大目に見てやってりゃあ、いい気になりやがって!」
坊主さんは、私に飛びかかってきた。
“アロ。”
ムチの姿になったアロを構え、後ろに飛び退きながら、ムチをふるう。
「な、腕輪がムチに?!」
私がふるったムチが、坊主さんの頭の上を通り過ぎる。
「へっ!どこを狙ってやがる!」
ムチは、頭上の太い木の枝を捉え、坊主さんへと向かっていく。
「一発なぐらせてくれたら気がすむからよ!」
「子ども相手に大人げないですよ。」
「なっ?!」
私のムチが坊主さんの腕と肩に絡みつき、坊主さんを木の枝へと吊り上げた。ムチに縛られた坊主さんはバタバタと足を動かすが、身動きがとれない。
「は、離せぇー!」
「何の罪もない子どもに暴力を振るおうとするなんて、しばらく反省していて下さい。」
私がそう言うと、木の枝がニョロニョロと動きだし、ムチでしばっていた坊主さんを木の枝が縛りあげる。
「なんだ?!こりゃ、どうなってんだ?!」
“アロ、戻っておいで。”
坊主さんを縛りあげている木の枝の隙間から、ムチの姿のままのアロが私の腕へと戻ってきて腕輪に変わった。私は木の幹に優しく触れ、“ありがとう。お願いね。”と木の精霊にお礼を言い、魔力を提供した。
「今日の分の依頼が終わったら、戻ってきますからね。ちゃんと反省していてくださいよ!」
私は坊主さんに背中を向け、歩き出した。
「お、おいっ!まて!降ろせーっ!」
「あっ!そうだ。アクアバロン」
「うわぁっ!なんだ?!」
「寒いからね。風邪ひくといけないし。この中にいたら寒さを感じないから。」
「み、水魔法・・・詠唱なしで精霊も呼ばずに?!」
坊主さんは驚いたような顔をしている。
「じゃ、行ってきまぁす!」
「あっ!おいっ!!」
坊主さんの呼ぶ声を振り切り、依頼主の家へと急ぐ。
「あっ!あれかな?」
小高い丘にポツンと小屋が建っていた。私はドアをノックする。
コンコンッ──。
「すみません!バウムさんいらっしゃいますか?」
返事がない。もう一度ノックをし、呼び掛けてみる。
「すみません!」
「なんじゃい!うるさいぞ!」
「あの、ギルドで依頼を請けて来ました!」
「ギルドの?入ってこい!」
男性の怒鳴るような声に、恐る恐るドアを開けて、中を覗く。
「失礼しまぁす。」
「寒い!早く入らんか!」
「はい!すみません!」
男性に怒鳴られ、急いで部屋の中に入る私。部屋の中では、手と足に包帯を巻いている白髪頭の男性が椅子に腰かけていた。




