42.坊主さん
私に振り下ろされた男の腕をルイズさんが掴んでいた。
「ったく、こんな子どもに拳を握るなんて、お前血の気が多すぎるぞ。」
「ギ、ギルドマスター!」
「いいか!ここは依頼を請ける場所であって喧嘩をする場所じゃない。ましてやコイツは同じギルドの仲間だ。なぜ、喧嘩をする必要がある?こいつのランクにケチをつけるならその判断を下した俺に文句を言え!」
「チッ!」
男は掴まれた腕を振りほどき、ギルドを出ていった。男の出ていく姿を見ながら、ルイズさんは頭をかいていた。
「お前なぁ、ギルドに登録してすぐに騒動を起こすなんて流石だな。」
「僕は何もしていません。」
ルイズさんは、私の耳元に顔を寄せ小声で囁いた。
「俺が止めなきゃ、あいつを吹っ飛ばしていただろう?」
「?!」
「ハハ。なにも怒りゃしねぇよ。お前も案外短気なんだな。」
「すみません。」
「リド。」
「ナタラさん。」
「私は行くところがあるからもう行くが、あんたはどうする?」
「僕は依頼を請けてみようかと。」
「そうかい。気をつけるんだよ。帰り道は分かるかい?」
「はい、大丈夫です。ナタラさん、ありがとうございました!」
ナタラさんは、笑みを浮かべ、ギルドを出ていった。
「お前、どの依頼を請けるつもりだ?」
「そうですね・・・とりあえずこのあたりを請けようかと。」
そう言って私は依頼のナンバープレートを取った。
「水魔法系の依頼か。水汲み、掃除、洗濯・・・バウムじいさんか。」
「お知り合いですか?」
「街外れに一人で住んでるじいさんなんだがな、2日前、森で魔物に襲われて怪我を負ったんだ。」
「だからなんですね。」
「あぁ、ちと頑固だが、悪い人じゃねぇ。だが、期間が怪我が治るまで、だぞ?毎日通うことになるがいいのか?」
「はい、初めての依頼なのでここでの生活が分かるものをと思いまして。」
「なるほどな。まぁ、頑張れよ。」
「はい!」
それから、受付で依頼を請ける手続きをし、地図を描いてもらった。
「依頼を完了したら、このカードに完了のサインをもらってきて。依頼主本人しかサインできないようになってるから、必ず本人にサインをもらうのよ。」
「はい。ありがとうございます。」
「頑張ってね!」
ギルドを出て、依頼主のバウムさんの家へ地図を頼りに歩いて行く。賑やかな街中を抜けていくと、徐々に人気がなくなってきた。
“街外れっていってたけど、本当に何もないんだね。”
“リディ様。”
アロに呼ばれ、周囲に意識を集中させると、少し離れた所に何者かの気配を感じた。
“誰かついてきてる?”
“えぇ、さきほどより。”
“この気配って・・・もしかしてさっきの坊主さん?”
“流石です、リディ様。”
“だから目立ちたくなかったのに!ルイズさんのばか!”
“リディ様、距離が近づいています。”
“う~ん、しょうがないなぁ。”
私はしばらくの間、気づかないふりをして歩き、周りに坊主さん以外誰もいないことを確認してから急に小道にそれた。
「?!」
私が道をそれたことに気づき、走ってくる坊主さん。坊主さんも小道に入り、私の姿を探すようにキョロキョロと辺りを見回す。
「野郎!どこに行きやがった!」
ポトッ───。
「痛っ!」
坊主さんは、頭の上に落ちてきた何かを慌てて払い落とす。
「痛っ!!」
払い落とした手にも、何かのトゲのようなものが刺さり、痛そうに呻く。坊主さんは自分が払い落としたものをギョロギョロと探し、それを見つけると表情が一変した───。




