39.ギルドマスター
周りの視線に耐えながら、呼ばれるのを待っていると、シャツにチノパンのようなズボンをはいたラフな格好の一人の男性が近づいて来た。少し伸びた髪は後ろで束ねてあり、疲れた顔には無精髭が生えている。
「母さん。」
「なんだい、あんたかい。」
“母さん?”
「リド、こいつは私の3番目の息子でね。このギルドのマスターをしてるんだよ。」
“マスター?偉い人?!”
「僕、リドっていいます。よろしくお願いします。」
私は頭を深く下げた。
「ハッハッハ!いや、そんなにかしこまらなくてもいいよ。俺はルイズっていうんだ。一応ここのギルマスだよ。よろしくな!」
ルイズさんは、大きな手を私の頭の上にのせて、ぐしゃぐしゃと私の頭を撫でる。
“あぁ~、そんなにしたらターバンがとれちゃう!”
ルイズさんが手をのけると、すかさずズレかけたターバンを元に戻す。
“危なかったぁ。”
「それで?あんたはなんでここに出てきたんだい?」
「いや、テラから、母さんが子どもを連れて来たって聞いたんで、気になってな。」
「ふん!仕事中なのにいいご身分だね。」
「これも仕事のうちさ。」
ニヤリと笑うルイズさん。
「よし!お前の力量は俺が直々に測ってやろう!ついてこい。」
「はい。」
私がルイズさんの後について行くと、その後ろからナタラさんもついて来た。
「なんで母さんまで来るんだよ。」
「あんたがこの子を苛めないか心配でね。」
「苛めるわけないだろっ!」
「さぁ、どうだかねぇ。ふんっ!」
仕方ないと頭をグシャッとかくルイズさん。ルイズさんに連れて行かれたのは、とても広い訓練場のような場所だった。
「お前、得意な武器は剣だってな。」
「はい。」
「持ってるか?」
コクンと頷くと、外套の中でアロを短剣に変え、取り出した。
「なるほど、短剣か。1本だけか?」
「はい。」
「そこに的があるだろ?この位置から狙えるか?」
「はい。」
「よし、投げてみろ。」
私は的の方に体を向け、間を置かずに短剣を的へ投げた。
ドシュッ───!
見事、的のど真ん中に命中。
“やった!”と、顔には出さず心の中で喜んでいると、ルイズさんとナタラさんが驚いた顔で、剣が刺さった的を見ていた。
「狙いも定めず、ど真ん中だと?!お、おい、もう一回投げてみろ!」
「はい。」
私は剣を呼びよせ、もう一度的に剣を投げる。
ドシュッ───!
なぜか、的に向かって歩いていこうとしていたルイズさんの横を剣が通りすぎ、的のど真ん中に剣が突き刺さる。
「はっ?」
何が起こったか分からないようなルイズさん。私は、なぜルイズさんが驚いているのかが分からない。
「あ、あの・・・。」
ルイズさんは、的から私の顔へと視線を移す。
「はっ?」
と、言われ私も分からず、
「はっ?」
と、返す。
「はっ?」
もう一度「はっ?」と言うルイズさんの頭に平手が飛んできた。
バシッ───!
ナタラさんだ。
「お前は“はっ?”しか言えないのかい!」
ナタラさんに厳しい突っ込みを入れられて我に返るルイズさん。
「いや、だって・・・。」
もう一度、ナタラさんの突っ込みが入る。
「ゴホンッ!お前、何をした?」
「えっ?」
「えっ?じゃねぇよ!俺は的に刺さった剣を取りに行こうとしたんだ!そしたら、お前はもう投げてるじゃねぇか!どういうことだ?もう1本隠し持ってたのか?俺は1本だけか?と聞くと、お前は1本だと言った。隠し持ってたのなら、お前は俺に嘘をついた事になる。」
ルイズさんが私を睨む。さすがギルマス、迫力がすごい。
「ち、違います!」
私は慌てて両手を降り、否定する。
「だよな!的には1本しか剣が刺さってないからな。さぁ、説明してもらおうか。」
“う~、いつもの癖でつい・・・。”
「あの、あそこに刺さっているように剣は1本です。」
「で?」
私はナタラさんの方を見る。
「リド、怖がることはない。身内贔屓じゃないけどね、この男は信用できるよ。口も固い。」
ナタラさんは私の瞳をじっと見つめる。なぜだか、全部を見透かされている気分だ。
“もうっ!隠すのって大変ね!話しちゃっても大丈夫かな?あんまり目立ちたくなかったんだけどな。”
私は一応、鑑定で2人を見ながら確認する。
「今から見ることは、内緒にしてもらえますか?」
「あぁ。もちろんだ!」
「私の口が軽いように見えるかい?」
鑑定で見ても2人の心に変化はない。
“ダウル、アロ、いいよね?”
“このオトコ、悪いニオイしない。ナタラもイイ人。”
“私も大丈夫と思います。”
まず私は外套を脱ぐ。
「見ての通り、僕は剣を隠し持ってなんかいません。」
「だったらなぜ、的に刺さったはずの剣がお前の手元にあった?」
「それは・・・アロ!おいで。」
私はアロを呼び寄せる。すると、的に刺さっていた剣が消え、私の手元に剣が現れた。
「なっ?!剣が現れた?!」
「アロ?アロって言ったかい?!」
「はい、ナタラさん。僕の友達のアロです。」
私は剣の姿のアロを蛇に戻す。これには、2人ともかなり驚いていた。
「へ、へ、蛇だと?!」
「はい。」
「一体どうなっているんだい?!」
「あ、アニマレーゼ・・・。」
「さすがギルマスさんです。ご存知でしたか。」
「あぁ、聞いたことがある。その昔、世界が混乱に陥った時に突然現れ、人々に力を与えた道具があったと。その道具こそアニマレーゼ。魔力を通すと生き物の姿になり、まるで生きているようだと。だが、時とともに失われたと聞いていたが、まさか、その蛇がそうだと言うのか?本当に実在していたのか?」
私はアロを撫でながら、話し始めた───。




