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天界で育った少女の物語  作者: 斗瑚
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氷華祭(前編)

「なぁ、ルーナ知らない?」


氷華祭当日、朝からルーナミアを探しているのはシュテファンだ。昨日、プレゼントを完成させ、ルーナミアに渡しに行ったのだか、ルーナミアは母のオリビアと氷華の儀の準備に同行し、時間の都合が合わずに渡せなかったのだ。しかも、あの後、魔法の授業をサボったことがバレ、お説教と魔法の授業を時間延長でみっちり受けさせられたからだ。


「そうだ!メイソンに聞こう!」


おっ?いたいた!と言いながら、大きく手を振り、メイソンの名前を呼ぶシュテファン。その声に気づくとメイソンはシュテファンに近づいてくる。シュテファンの前で立ち止まったメイソンは、一礼し、シュテファンに声を掛ける。


「シュテファン様、どうかなさいましたか?」

「ルーナ知らない?」

「ルーナミア様は、すでに出発なさいました」

「もうっ?!予定より早くないか??」

「氷華の儀の前にエラメール公爵家の方々とお会いになるようです」


プレゼントを渡すタイミングをまたしても失ったシュテファン、こうなったら意地でも氷華の儀の前に渡してやると意気込むのであった。


氷華の儀の前に渡すのであれば、こうはしていられないと思い、走って自分の部屋へ戻る。部屋へ戻るなり、大急ぎで身支度を整え、誰にも見つからないように秘密の抜け道から街へと向かう。


「うっわぁ~!!」


シュテファンの目に映ったのは、祭の真っ只中の、いつもとは全く違う街の賑やかな姿だった。街の南を向けば、従えた魔物を樽の上に乗させて拍手をもらっている曲芸師や、力比べをしている人達。街の北を向けば露店で買ったであろう串を食べながら歩いている人や、珍しい物を買って見せ合っている人達。好奇心旺盛なシュテファンにとってはすべてに興味があるが、ルーナミア愛がそれを阻止する。


「今はルーナが先だ!確かこっちの道だったよな」


普段は一人で出歩くことがないシュテファンは自分の記憶を頼りにルーナミアがいるであろう場所に向かって歩き出す。色々な誘惑を断ち切りながら、急ぎ足で進む。そろそろ体力の限界が近づいてきた頃、祭場がある氷華湖が見えてきた。


「やっと着いたぁ~!」


あとは子どもたちが集まっている場所へ行くだけなのだが、見渡す限り人・人・人だらけなのだ。ギューギューに押し合っている人の中をすり抜けていかなければならず、体力の限界が近く、子どものシュテファンにはかなりの重労働だ。


「ルーナっ!待ってろよぉ!兄ちゃんが今行くからなぁ!!」


ルーナミア愛を燃やしながら、人の壁を掻き分けて進んで行くと


「いた!」


たくさんの付添人と、子どもたちが待機している場所へと到着し、すぐにルーナミアを見つけたのだ。皆同じ白のローブを着ており、頭もフードを被っているのにさすが兄バカのシュテファン。


「ルーナ~!」


名前を呼ばれたルーナミアはキョロキョロと辺りを見回し、シュテファンの姿を見つけるとにっこりと微笑み「あーい!」と返事をする。可愛い過ぎるルーナミアに興奮するシュテファン。ルーナミアに抱きつこうと近寄るが前に進まない。頭を押さえられているのだ。押さえている主を見ると、長男のリチャードであった。


「兄上!離してくれよ!」

「テファ。お前ここで何をしている。確か今日は外出禁止のはずだったが?まさか、お前一人ではあるまいな?」


兄の目がスーッと細くなり、声も低くなる。


「あ、兄上!これには訳が!」

「話は帰ってから聞こう!」

「兄上!お願いだよ!ルーナに贈り物を渡したかっただけなんだ!」


弟の必死な眼差しにハァッとため息をつき、頭に手をやるリチャード。


「ガイルを呼んでくる。その間ルーナを見ていてくれ。目を離すなよ」

「兄上!ありがとう!!」


リチャードにお礼を言うと、早速ルーナの目線に合わせて膝をつくシュテファン。


「ルーナ、これ、にーちゃんからの贈り物だ。首に掛けてやるからな」

「あーい!」


シュテファンは、昨日一生懸命作った革袋をルーナミアのフードを取らないように慎重に首に掛けてやり、革袋をローブの下に入れてやった。


「ルーナ、嬉しいか?」

「あーい!」


にっこりと笑うルーナミアを抱きしめるシュテファン。こんなに可愛い妹がいて俺は幸せだ!と、ルーナミアの可愛さを満喫していたところにリチャードが戻ってきた。


「テファ、お前はガイルと共に戻れ」

「えぇっ?!もうすぐルーナの番だろ?兄上!お願い!」

「ハァッ、仕方のない奴だなぁ。どのみち帰ったら説教だしなっ」


そう言うとリチャードは、ニヤッと笑い、シュテファンの頭をグシャッと撫でた。


「そんなぁ~」


ガイルに助けてと視線を送るシュテファン。ガイルは目を合わせないようにしている。諦めてため息をつくシュテファン。


「なぁ、ガイル?」

「何でしょうか?シュテファン様」

「今回、精霊の贈り物(ギフト)をもらった子どもは何人いるんだ?」

「そうですね、今の時点で180人ほど終わっていますが、精霊の贈り物(ギフト)をもらえたのは2人ですね」

「能力は?」

「身体強化と体術だそうです」

「ふぅん、いいなぁ」

「何をおっしゃいますか。シュテファン様の剣術も素晴らしいではないですか。祝福を受けて能力に目覚めると言っても、ご本人の努力がないと力は向上しませんし、その点においてはシュテファン様はかなりの努力をされておいでです。なかなか出来ることではありません」

「まだ兄上に勝てないけど」

「5歳も歳の離れたブライアン様とあれだけ戦えるのですから十分かと思いますが」


そんな話をしていると、いよいよルーナミアの順番となった。


「おっ?ルーナの番だぞ!」


兄リチャードがルーナミアの手をひいて壇上の司祭の元まで階段を登り連れて行く。両親は主賓の席に座っているので、シュテファンの時もリチャードが付添人をしてくれたのだ。


ルーナミアを司祭に渡し、リチャードは階段下で待機する。司祭はルーナミアを抱き上げ、祈りを捧げ始めた───。



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