35.ノエリア
「さっむ~い!!」
時が動きだし温度を感じると、露出している肌にひしひしと寒さを感じる。
「そっか、今って雪の月だったんだ。ノトスが暖かかったから忘れてた。」
ノトスは温暖な気候だったし、水の中はバブルに包まれてたし、時を止めたら温度は関係ないしで、ようやく今の気候に気づいた私。あまりに寒くて外套のフードをすっぽりとかぶり、前もしっかりとめる。そして、アロは腕輪になり、ダウルはさらに小さくなって外套の首のあたりへ隠れる。
「よし、行こう!」
私達は建物の裏手から、人の声がする方へと歩いていった。
「うわぁ!」
そこは活気のある市場のような店がずらりと並んでいた。
「おい!あっちの樽を持ってこい!」
「さぁ!今日はエリフィレが安いよ!」
「コラッ!サボってんじゃないよ!」
あちらこちらから、色々な声が聞こえてきて、とても賑やかだ。旅をするには、まずは聞き込みをしなければ。ただ私、この世界のお金持ってないのよね・・・情報提供の代わりにお金を要求されたらどうしよう・・・お金も稼がなきゃ。子どもでも稼げるのかしら?よくよく考えると不安が山ほど込み上げてくる。そんな私を心配したのか、ダウルが首筋にすり寄り、アロは腕に顔をくっつける。“大丈夫だよ”と言わんばかりに。“2人ともありがとう”。ゴクリとつばをのみ、1歩を踏み出す。なるべく優しそうな人を探そう。
「あ、あの!すみません!」
私は、子ども連れの優しそうな女の人に声をかけた。
「?」
女の人が振り向く。
「どうしたの?」
「あ、あの、この街はなんていう街ですか?」
「ここはノエリアっていう街よ。街の名前なんて・・・あなた一人なの?もしかして迷子かしら?どこから来たの?困ったわねぇ、あなた一緒に行きましょう。リア隊の所まで連れて行ってあげる。」
「え?!あの、その、結構です!」
「あっ!待って!」
私は女の人から逃げるように走り去った。
「ふぅ、危なかった。」
“リディ(様)、ダイジョウブか(ですか)?”
心配したダウルとアロが念話で声をかけてくる。
“大丈夫よ。落ち着かないとね。これじゃあ、いくつ心臓があってももたないわ。”
私は深く深呼吸をする。リアタイって何だろう?迷子を連れて行くってことは、お巡りさんみたいなものかな?気をつけないと。私は走って来た方と反対側に歩きだす。しばらく歩いて建物を曲がった時だった。
ドンッ───!
「きゃっ!」
何かにぶつかり、私は尻餅をつく。
「いたたたた。」
声のする方をみると、少し恰幅のいいお婆さんが私と同じように尻餅をついていた。
「ごめんなさい!大丈夫ですか?」
「どこ見て歩いてんだい!」
私はお婆さんに駆け寄り、立ち上がろとするお婆さんに手を貸す。
「まったく!怪我でもしたら・・・っ?!」
お婆さんの動きが止まった。
「どうしたんですか??」
「腰をやっちまったようだよ。」
私は一応鑑定を発動する。人に使うのは初めてで、物にする鑑定とは違い、色々な表示が出ていたため、思わず声をあげてしまった。
「あっ!」
「なんだい?」
「あっ、いえ何も。」
困ったような表情の表示、そのマークのまわりにはオーラのようなもの。それに体の不調な部分とその病名が表示されていた。どうやら、お婆さんはぎっくり腰のようだ。
「あの、大丈夫ですか?」
「大丈夫な訳あるかい!まったく、どうしてくれんだい!こんな体じゃ、歩くことさえ、できやしない!」
「僕、治しますから。」
「へっ?」
私はお婆さんの腰に手をあて、ペインヒールをかける。
「何をしてるんだい!手をあてたぐらいじゃ・・・?!な、治ってる!全然痛くない!」
お婆さんは、バッと私の方を振り向き、私の肩を掴む。
「あんた!今何をしたんだい?!」
「えっ?あの、回復魔法を・・・。」
「っ?!おいでっ!」
お婆さんは、片方の手で落ちていた杖を拾い、もう片方の手で私の手を握って、急ぎ足で歩いて行く。どうやら回復魔法が思ったより効いたみたいで、お婆さんの背筋は真っ直ぐ伸びていた。お婆さんに連れて行かれるがままに辿り着いた場所は、路地裏の一角にある家だった。
「入りな!」
お婆さんは勢いよくドアを開けて、私を中へ押しやる。そして、お婆さんも家の中に入り、ドアの外をキョロキョロと見渡してドアを閉めた。突然のことで、色々なことが頭を駆け巡る私。そんな私にお婆さんが視線を向けた───。




