始まりの島ノトス
緑で生い茂ったこの森の中に、整備された道はないようで、アロは私の肩に、私はダウルの背中に乗せてもらい、道なき道を進んでいく。
「ダウル、疲れたら言ってね。無理しないで」
「ダイジョウブ」
「ありがとう」
私はダウルの首を優しく撫でながら、回りを見渡す。出会う生き物は大人しげな生物ばかり。ウサギのような長い耳に馬のような体の動物や、カメのような甲羅を背負ったかえるのような生き物など、どの生物も地球では見たことのないような生き物ばかりだ。
ダウルがかなりの距離を歩いてくれ、どこか休める場所はないかと探していると、小川を発見し、そのほとりで休むことにした。
「ダウル疲れたでしょう」
私はダウルから降り、ダウルの足をさする。
「ちょっと待ってて!」
「リディ、離れたらアブナイ。オレも行く」
「大丈夫!アロがいるから!」
「そうですよ、リディ様は私に任せて下さい」
私はアロを肩に乗せたまま、走りだす。たくさん歩いてくれたダウルに食べ物を調達するために。エテル姉様の加護がある私は、普通の人よりもそういうものを発見しやすいと思う。あっ!ほら、早速見つけた!
「黄色い実?」
見つけたのは、実の部分がキウイぐらいあるさくらんぼが3つまとまっているような感じの黄色い実をつけた木の実だった。木の実の周りでは精霊たちが“美味しいよ。”と囁きながら飛んでいる。精霊の美味しいと人間の美味しいは違うこともあるから、一応、鑑定で確認してみる私。
【グレーチェ】
皮は剥いて食べる。中の果実はとても甘くて美味しく、果汁が多いため水分補給もできる。皮をすりつぶし、煮て飲むと眠気覚ましになる。
「甘くて美味しいんだって!精霊さん、少し分けてね。」
精霊たちは“いいよ。”と囁く。私とアロは食べる分だけグレーチェを取り、お礼にほんの少しの魔力を提供する。地上の、名前を持たない精霊は、最も下級の精霊とされ、提供する魔力も少しでいい。あまり魔力を提供しすぎると、与えられた魔力量に体が耐えられず消えてしまうのだ。本来なら魔法を使った訳ではないので、魔力を提供しなくていいのだが、そこは人としてギブ&テイクの心だ。私たちはもう一度、精霊たちにお礼を言い、ダウルのところへ戻る。
「ダウル!」
「リディ!ダイジョウブだったか?」
「大丈夫だよ、ダウルは心配性なんだから!見て!グレーチェっていう実なんだって。皮を剥くから待っててね。アロ!」
「はい、お任せください」
アロが私の肩から腕をつたって手の中へ収まり、ナイフへと変化した。私はアロナイフを使い、グレーチェの実を剥く。
「よし、全部剥けた。アロ、ありがとう」
広げた布の上に剥いたグレーチェを置き、もう一枚の布でアロのナイフを拭くと、アロはナイフから元の姿に戻った。布で拭かなくても、クリーン機能がついているらしく、自然と汚れなどが落ちる仕組みになっている。アロさん、凄すぎです。
アロは地面に降り、ダウルも小さくなり、私の横に座る。
「さぁ、食べよう!いただきます!」
グレーチェの実を口にはこぶ。
「美味しいっ!桃みたい!」
小さくなったダウルもアロも、小さな口でカジカジとかじっている。えっ?アロは道具なのに食べるのかって?それはさすがファンタジーの世界だよね。発動状態のアロは普通に食べたり飲んだりが可能なの。ちゃんと味覚もあるらしいよ。今さらながらファンタジーの世界って不思議がいっぱいだよね。
「あー美味しかった!ごちそうさまでした!」
食べ終えた私は、ゆっくりとあたりを見渡す。
「それにしても静かでいいところだね。」
地球にいた頃は、周りは建物ばかりで、緑なんてほとんどなかったし、車の騒音や工事の音、お店の音楽や人の話し声ですごくザワザワしていた気がする。対照的にノトスはすごく静かだ。緑に囲まれ、川の水はとても澄んでいる。静かな森の中には、水の流れる音、魚が跳ねる音、動物が鳴く声、鳥が囀ずる声、作られた音ではなく、ありのままの自然の音が響いていた。
「よし!そろそろ出発しようか。」
「リディ」
ダウルが元の大きさに戻り、体制を低くして、私が乗りやすいようにしてくれるが私は首を降る。
「ありがとう、ダウル。でも、私も歩くよ?」
「まだ、かなりキョリある。リディ、マダ体小さいカラ」
「う~ん、そうね。早く大きくならないかしら。申し訳ないんだけどダウル、また乗せてもらってもいい?」
「アタリマエ。リディならズット乗っていてもイイ」
「ありがとう。アロ、おいで」
アロが地面を這って、私の足からグルグルと登って行き、首に巻きついた。
「アロ、首にマキツクナ!手首にモドレ!」
ダウルがアロを口でつつく。
「ダウルったら!アロいいのよ」
「リディ様~」
アロが私の頬に顔を寄せる。
「さぁ、行きましょう!ダウル、お願いね」
こうして、一人と二匹は少しの休憩を挟み、島を出るべく再び歩み始めた。




