シェルミナ
「うーあー!」
(うわぁ!)
私は今、風の大精霊シェルミナ様に抱かれ、空を飛んでいる。
「おーあとーんーて!」
(空を飛べる日が来るなんて!)
「喜んで頂けて光栄ですわ。」
空から見る精霊の国は、ハッキリと六つの区域に別れているのが分かる。炎の区域は所々に火があがり、岩で家が建てられていて、風の区域は、ふわふわの雲のようなものが家だそうだ。水の区域は、とても澄んだ水が流れており、泡のようなもので出来た家がフワフワと浮いていた。土の区域は上から見るとたくさんの木や花で溢れており、光の区域はキラキラと輝く中に金平糖のような形の家がある。そして闇の区域は真っ暗な中に、青白いテントのような形が浮かびあがっており、イルミネーションみたいでとても綺麗だ。
「えぅーあーま?」
(シェルミナ様?)
「ミナとお呼び下さい、リディ様。」
「い、あ?」
(ミナ?)
「はい!何でしょう!」
シェルミナは嬉しそうに返事をする。
「いーあいーわ、しゅーあ?」
(下に降りることはできますか?)
「丁寧な言葉も不要ですよ、リディ様。」
シェルミナはウィンクしながらニコリと笑う。何だか従わないといけないような微笑みだった。うん、エフィと同じタイプだね。
「下に…ですか?そうですね。精霊王様より“空から”と仰せつかっておりますので、下に降りて歩いて頂くことはできませんが、もう少し近くで見て頂くことでしたら可能ですよ。」
「うぅーん!あーと!」
(じゅうぶん!ありがとう!)
「リディ様、可愛らしすぎます!早速、参りましょう!」
シェルミナは私を抱いたまま下に降りていく。
「どこからご覧になりたいですか?」
「んー、いあこー。」
(うーん、ミナのとこ。)
「かしこまりました!」
シェルミナと私は風の区域へと入っていった。まだまだ高さがあるのに、他の区域との境界がハッキリとわかった。風の区域の中は、緩やかな風の流れが感じられ、雲の家がフワフワと流れにのって動いている。
「いあ。」
(ミナ。)
「何でしょう?」
「うーおーいーめーあ?」
(雲の家に触ったらダメかな?)
「クスッ。それでしたら、私の雲へご案内致しましょう。」
「あーうーお?」
(雲?)
「はい。精霊区“風”では、雲のような形の家を雲と呼ぶんですよ。あちらが私の雲です。早速、参りましょう!」
私が余程嬉しそうな顔をしたのか、シェルミナがクスクス笑っている。だって雲だよ!雲に乗ってみたいって、人間なら一度は思ったことがあるばず!それが叶うなんて!
シェルミナが向かった先には、一際大きなエメラルドグリーンの雲があった。
「さぁ、リディ様。」
シェルミナは風の力を使って、そっと私を雲に降ろす。
「うーぁー!」
(うわぁー。)
雲に足が沈みそうになって、ドキドキする。
「クスクス。本来であれば、雲を通り抜けてしまいますが、風の力でリディ様を包んでおりますので、ご安心を。とても薄い風の膜ですので、雲の感触もお分かり頂けると思いますよ。」
私は雲に降り立つ。雲についた足からふんわりとした感触が伝わってくる。
「うーあーあ!」
(ふわふわだぁ!)
想像していたよりもふわふわで、念願の雲に乗った感動を噛み締める私。
「リディ様、いかがですか?」
「あーおーお!」
(最高よっ!)
「クスクス。それはようございました。中にも入って見ますか?」
「いーお?」
(いいの?)
「えぇ、どうぞ。」
シェルミナが滑らかな動きで手を下から上にあげると、雲の一部がモコモコと動き出し、盛り上がっていった。
「さぁ、こちらが入り口になります。」
シェルミナに促され、雲の入り口をくぐる。雲の中は外観からは想像も出来ないような広さになっており、床や壁もしっかりとした造りになっていた。
「うーいーね。」
(不思議ね。)
「床や壁は固さを変えられるんですよ。」
シェルミナがそう言うと、私の足元がふわふわになった。
「うーおーい!いあ、えーえーいーい?」
(すごい!ミナ、寝てみてもいい?)
「もちろんです。」
シェルミナは私が寝れるようにふわふわの部分を広げ、一部を盛り上げてベッドのようにしてくれた。私はそれにそっと腰かけ、ゴロンと体を倒した。
「うーあーあー!」
(ふわふわだぁ!)
思った以上に気持ちよく、横になっていると、なんだか眠くなってしまいウトウトしだす私。眠らないように必死に目をこするが、睡魔は容赦なく襲ってくる。
「リディ様、ご無理をしてはなりません。そのままお休みください。」
シェルミナは私の体にそっとふわふわのお布団を掛けてくれた。ふわふわのベッドは、とても気持ちよく、小さな体の私を眠りに誘うのには十分だったようだ───。




