大精霊
エル様の神殿は、私が天界で見たどの神殿よりも自然に溢れており、石造りのドームのような神殿を木々が覆っていた。大広間の王の椅子の後ろには滝のような水が流れていて、壁際には王を護るように大きな精霊の像が6体並んでいる。
「うぁ~!おーい!」
(うわぁ!すごーい!)
私の声が響き渡る。神殿の天井がガラスのように透き通っており、そこだけ木々がなく、オーロラのような光のカーテンが降り注いでいるのに感動したのだ。まさに神秘的な光景だった。
「リディ、紹介しておこう。」
エル様は、私を抱いたまま椅子に腰かけた。
「来い。」
「「「「「「ここに!」」」」」」
エル様が静かに誰かを呼ぶと、声がすると同時に王座の下に赤・青・緑・橙・黄・紫の6色の光が現れた。
「炎のフェイディルマ」
「水のティルナンディ」
「風のシェルミナ」
「土のノムラスティ」
「光のウィルドルジュ」
「闇のシェイドルジュ」
「「「「「「我ら常に王と共に!」」」」」」
「リディ、精霊の中でも位があるのは先ほど話したな。」
「あい。」
(はい。)
「これらは上位精霊の中でも各属性に一柱しかおらぬ特に力の強い者たち、大精霊だ。」
「あーえーい?…あ!えーょー?」
(大精霊?…あ!石像の?)
大精霊と呼ばれた彼らは、それぞれの光の衣を身に纏い、片膝をついて頭を下げている。
“大精霊…エル様より強そう…王というより姫?”
「コホンッ!リディ…聞こえておるぞ。」
あっ!またやってしまったと思い、見ると大精霊様たちもクスクス笑っている。
“あれ?私の声聞こえてる?”
「主ら、何を笑っている。」
エル様が目を細めて、大精霊様たちを睨み付ける。
「「「「「「っ?!」」」」」」
大精霊様たちの体が一瞬固まる。
「リディ様、私がご説明致しましょう。」
立ち上がったのは、赤い衣を纏った赤い髪の男の人だ。
「私は炎の大精霊フェイディルマ。以後お見知りおきを。」
フェイディルマ様は一礼する。
「驚かれたでしょうが、お察しの通り、我ら6名はリディ様のお心の声が聞こえます。これはリディ様の波長に合わせることが出来るからです。我ら以外にも上位の中には器用なやつがおります故、何名かはお心の声が聞こえるかと。リディ様、我らの心は常に王と共に。故に、エルフィート様が大切に想われておりますリディ様。あなた様は我らにとっても大切なお方。」
フェイディルマ様はまた片膝をつく。
「どうか我らをお役立てください!」
フェイディルマ様がそう言うと同時に全員で頭をもう一度下げる。
「え…あ…」
(えっ…あの…)
どうしたらいいか分からない私にエル様は囁く。
「リディ、精霊たちの心を受け取ってやれ。家族を探すんだろう?きっとお前の役に立つ。」
私はエル様の方を向いて視線を合わせ、コクンと頷き、彼らの気持ちに応えた。家族を探すために…彼らの気持ちが嬉しく、心から感謝した。
「あーえーいーま。あーとーしゅ。」
(大精霊様、ありがとうございます。)
途端に私の胸から熱いものが光となって現れる。空中で回転したかと思うと6つの属性の色に別れて、それぞれの大精霊の中へ消えて行った。
「これは…?!魔力コントロールもできぬというのに…無意識か。」
エル様が私の髪を撫でる。
「な、なんという…?!」
「我ら大精霊、一柱と契約するにも大量の魔力と良質な魔力の質が問われるというのに全属性の六柱すべてと?!」
「流石でございます、リディ様。」
「人間からの魔力…数千年ぶりか。」
「「こんな魔力もらっちゃったら、もうリディ様から離れられないね!」」
何だか大精霊様たちが驚いてる?
「リディ、お前は今何をしたと思う?」
「?」
「精霊と契約したんだよ。しかも精霊の中でも特に力の強い大精霊六柱全員とな。」
「?!」
何のことだか分からない私。
「分からぬか?普通の人間ならば、魔力が多い者でも上位の精霊二柱が限界だな。それをお前は全属性の大精霊との契約をやり遂げた。見事だ。さすが私のリディ。」
エル様は私を高く抱き上げる。
「おぉ、そうだ。リディは精霊の国をもう少し見たいと言っておったな!シェルミナ。」
「はい。ここに。」
「空からリディを案内してやれ。」
「ありがたき。リディ様のことは私にお任せ下さい。」
シェルミナと呼ばれた緑の衣に、緑色の髪をした女の人が私の前に来る。
「リディ様、風の大精霊シェルミナと申します。私が精霊の国をご案内致しましょう──。」




