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天界で育った少女の物語  作者: 斗瑚
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僅かな記憶

今後の話をするために、私たちは神殿の奥の部屋へと向かった。私が住まわせてもらうこの神殿は、“氷の神殿”と呼ばれているそうだ。氷というからには、冷たそうなイメージだけど、実際は可愛らしい感じの雰囲気に、手入れの行き届いたお庭は色とりどりの花が咲いていた。


“すごく綺麗…”


「この花はね、花の精霊たちからの贈り物だよ。」


“花の精霊さん?”


「そう。よく見てごらん。」


私は花が咲いている方をじっと見る。


“あっ!”


確かによく見ると、花びらの間や葉っぱの横から小さな顔を覗かせている子たちがいる。


“ありがとう。”


お礼を言って微笑む。すると、妖精さんたちがキラキラと輝いた。


「みんな嬉しそうだね。」


アトラス様は私を抱いたまま、一番奥の部屋へと案内してくれた。


「ここがキミの部屋だよ。」


“うわぁ~!すっごく素敵!”


案内された部屋は、とても広く、真っ白な石の床に真っ白な壁、淡いピンクのカーテンがドレープになっており、差し色になっていてとても可愛らしい。奥の真ん中辺りに、とても大きなベッドが置いてあり、白とピンクのレースの天蓋付である。ベッドが置いてある壁側の、反対側の壁際には、ロココ調のプリンセステーブルセットのような、白とピンクの可愛らしい色合いのテーブルと椅子が置いてある。


“お姫様みたい!”


「気に入ってもらえたかな?」


“はい!とっても!”


「よかった。では、こちらで話をしようか。」


アトラス様は椅子に腰かけた。私が座ろうとすると、エフィさんが私用に少し高さがある椅子を持ってきてくれた。私はエフィさんに手を借りて椅子に座った。


「話をするのに何もないのは口寂しいものだね。」


アトラス様はそういうと、指を鳴らす。すると目の前に飲み物とクッキーがでてきた。


「天界ではね、空腹を感じないから、飲食をする必要がないんだけどね。ほら、食べて。地球の食べ物は久しぶりだろう。」


“え?…久しぶり…?…あっ!”


私の頭の中にここに来る直前の記憶が甦る。


“そうか、思い出した。確か、お祭りみたいなところで、精霊さんたちに会って…そうだ!何かが飛んできて、少し痛くて、気づいたらここに…”


「思い出したんだね…これを。」


アトラス様は、私に何かを差し出す。


「ここに来たときにキミが身につけていた物だよ。」


“これは…”


目の前に差し出された物は革袋だった。革袋を手に取ると、真ん中に穴があいており、下の方に何か文字のような物が彫られていた。


“何て書いてあるんだろう…”


「鑑定の能力を使ってごらん。」


“鑑定?”


そういえば、そんな能力をもらったなぁと思っていると、アトラス様が力の使い方を教えてくれた。


「鑑定したい物を見て、知りたいと願うんだよ。そうすれば分かるから。」


私は革袋をジッと見て、知りたいと願う。すると目の前に鑑定結果の表示が現れた。


【革袋】

Bランクモンスター≪フロッグイール≫の皮でできている。指輪はブルーサファイア。かなり高価なもの。右下に“リディ”の文字が彫られている。


“すごい…”


私は革袋の文字を指でなぞる。


“リディ…私の名前…?”


私はキースでの記憶を思い出そうとする。


“…なんで…?どうして思い出せないの?”


私を愛してくれていた家族たちや、お世話をしてくれていたメイドさんたち。確かに私は、大切な人たちと過ごしてきたはずなのに、思い出す顔は、モザイクがかかっているようにぼやけていて、ハッキリと思い出すことができない。


「まだ幼いから仕方のないことかもしれない。前世のキミの記憶も戻っていなかったからね…」


私の目からは涙が溢れる。


「泣かないで。ほら、心配しているよ。」


私の側に控えていたダウルが、私の頬を舐めて心配そうに鳴いている。


“ありがとう、ダウル。大丈夫よ。”


私はダウルに顔を寄せる。


“アトラス様。私に力を貸して下さい。家族を…私の大切な人たちを見つけたいんです!お願いします!”


私は、何度も“お願いします”と言いながら、小さな頭を精一杯下げる。


「キミに…リディにそこまでお願いされちゃ、断れないね。」


“本当ですか!ありがとうございます!”


「神に二言はないよ。ただ出来る範囲でだけどね。」


“構いません!本当にありがとうございます!”


「じゃあ、決まり!ってことで、今日はエフィに天界を案内してもらうといい。まだ体が小さいからね、無理をしないこと。いいね?」


“はいっ!”


「あっ!それとなるべく言葉で話すようにしないと、発声ができなくなるよ?ここでは、発声しなくても伝わるから不便はないけど、発声していないと地上に戻った時に声がでないからね。」


「あいっ!わーた。」


わかりましたって言ったつもりだけど、なんだか、この言葉使いが照れくさい。小さいから仕方ないんだけどね。


「クスッ。リディは可愛いね。」


“アトラス様、バカにしてます?”


「バカになんてしてないよ。本当に可愛いんだもの。ほら、心漏れてるから、発声頑張って。」


「う~」


「唸る姿も可愛いね。」


“なんで?急にアトラス様が親バカみたいになった?”


「僕は何も変わらないよ?」


「リディ様、アトラス様は本来このようなお方なのです。転生者は数刻しかアトラス様とお会いになりませんから、アトラス様の本性がバレることはございませんが、アトラス様はご自分が可愛いとお認めになった場合、何と言いますか、その…」


“溺愛するってこと?”


「左様でございます。」


「何を言ってんだい。僕はここでの家族として、リディに接しているだけだよ。だって、リディは今日からここで暮らすんだから、僕たち家族みたいなものでしょ?だから、僕はキミのお兄さんだよ。兄さんって呼んでほしいな。」


「にーたん?」


「なんだい!リディ!」


アトラス様が嬉しそうに身を乗り出してくる。アトラス様の溺愛ぶりにちょっと引きそうになるが、なんだか心は温かい。この感情、覚えている気がする。


「にーたん、あーと。」


感謝を伝える私の側に来たアトラス様は、私をギューッと抱きしめてくれる。


「リディ、困ったことがあったら何でも言うんだよ?」


「あいっ!」


「離れたくないけども、時間になってしまったようだね。残念だよ。あとはエフィにお願いしよう。」


アトラス様は私をそっと椅子に戻すと、名残りおしそうにくるっと向きをかえる。


「エフィ、リディを頼んだよ。」


「お任せ下さい。」


エフィさんは、胸に手をあて、アトラス様に頭を下げる。アトラス様はエフィさんの返事を聞くと、私に微笑みながら姿を消した。

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