小さな私
“ん…眩しい…ここは…?…あぁそうか…私転生したんだっけ…”
「目が覚めたかい?」
“誰…?…ん?…前にもこんな事が…”
私がゆっくり目を開けると、目の前には、さっき別れの挨拶を済ませたばかりの人が…
「ア~まっ?!」
声がうまくでない。驚いている私にアトラス様が声をかける。
「まだ小さいからね、上手く喋れないんだよ」
小さい?私は自分の体を見る。
“小さくなってる?!本当に転生したんだぁ。あれ?じゃあなんでアトラス様が?”
私の心の声が聞こえるアトラス様が私の問いに答えてくれる。
「キミはね、無事に転生したんだけど、何というか…命を狙われたんだよ」
“えっ??”
「あぁ、死んだ訳じゃないから、安心して」
“よかった、まだ生きてるんだ”
「命を狙われたキミを精霊たちが守ってくれてね、エルフィートのところに避難させてくれたんだ。キミを送り出したのは僕だから、天界へ連れてきたんだよ」
“そうですか…ありがとうございました。私を守ってくれた精霊さんたちは無事なんですか?”
「かなり、力を使ったようだけど、エルフィートがいるからね、大丈夫だよ」
“そっか…よかった…私はこれからどうなるんですか?”
「う~ん、そうだね。キミは生きているからね、キースへ帰すことになるよ。ただ、精霊たちがこちらの世界に連れてきた以上、キミがいなくなったキミの故郷には、直接送り帰すことができないんだ。キースの知らない土地からの始まりとなる」
“それって、こんな小さな体で置き去りってことですか??”
「…そういう事になるかな。キースはね、スノーラド以外の神の力が干渉しにくい星なんだ。だから、我々が能力を与えた転生人を送り込むことぐらいしかできないんだよ」
“そんな…”
私は考え込む。右も左も分からない土地で、しかも、こんな小さな体で置き去りにされたらと思うと不安が込み上げてくる。
“そうだ!アトラス様!”
「なんだい?」
“転生する前に言ってたでしょ?困った事があったら強く願いなさいって。神に二言はありませんよね??”
「あぁ、もちろん。ただ、時間を戻したり、死者を生き返らせることはできないけど」
“私がここで暮らすことを許可して下さい!ずっとじゃなくていいんです。せめて、一人で生きていくための知識や体力がつくまででいいですから!お願いします!!”
「…それは僕の一存じゃ決められないよ…うん…少し待ってて」
そう言うと、アトラス様は私の前から姿を消した。私はベッドから足を出して、自分の小さくなった体を見ながら、足をぶらぶらさせた。
“足小さいな。肌も白いし、手もぷにぷにだ。これがもみじの手ってやつか。かわいいな。ん?髪の毛…白?!”
微かに頬をくすぐる髪の毛をチラリと見るとキラキラ輝く白い髪の毛が見えた。自分の姿が見たくて、鏡を探すが見当たらない。キョロキョロしていると、ふわっと体が宙に浮いて誰かの腕の中にいた。
「小さくなったな」
声の主を見上げると、エル様だった。
「え~ま?!」
エル様はニヤッと笑う。
「お前の姿が見たいのか?」
“はい!…あれ?エル様も心の声が聞こえるのかな?それより、私を助けてくれた精霊さんたちは?!”
「ククッ。あぁ、あれらは大丈夫だ。かなり消耗していたがな」
“あ~よかった!って、やっぱり聞こえるんですね。”
「当たり前だろう。俺を誰だと思ってるんだ」
“すみません…あの…精霊さんたちにお礼を言いたいのですが”
「あれらは自分の棲家へと戻っていったよ。大丈夫だ。お前の気持ちは精霊たちに伝わっておるよ」
“そうですか…いつか会えたら、直接お礼を言いたいと思います。エル様もありがとうございました!”
「礼はいい。お前、自分の姿が見たいんだったな。ほれ。」
エル様は片腕で私を抱いたまま、もう片方の手の平の上に鏡のような水を出してくれた。
「水鏡だ。お前も使えるようになるぞ。」
便利だなと思いながら、私は水鏡を覗きこむ。
“うわぁ~”
鏡に映ったのは、キラキラしている白銀の短い髪に透き通るようなブルーの瞳の色をした小さな女の子。
“これが私?”
「転生前とあまり変わっておらぬだろ?」
“えっ?!すっごく変わってますよ?なんか、美少女ってこういう子なんだろうなって思うぐらい”
「何を言っておる。肌と髪と瞳の色が変わっただけではないか」
“ん?”
私は小さい頃の私の姿を思い出す。黒髪に黒い瞳、日焼けした肌…
“全然違いますよ!こんな美少女、滅多にお目にかかれませんよ!”
「何を言っておるのだ。その美少女とやらはお前だというのに」
私はもう一度、水鏡を見る。自分の姿を見て、何だか頬が赤くなってしまう私。鏡に映る女の子が可愛くて照れてしまうのだ。
「やぁ、お待たせ~」
アトラス様が目の前に現れた。
「エ、エルフィート!来ているのは分かっていたが、なぜ彼女をだ、だ、抱き上げているんだ?!」
「ふっ。子どもは抱き上げるものだろう?」
エル様はニヤッと笑う。
「な、な、な、何を言って…」
“アトラス様!どうでしたか?私、ここで暮らせますか??”
私はアトラス様の言葉を遮るように問いかける。
「あ、あぁ、結論から言うと暮らせるよ。本来なら、人間が天界で暮らすことはできないんだけど、キミは特別だよ」
“特別?”
「他の神たちも、キミにスノーラドのように、不憫な思いはさせたくないって思うんだろうね。何というか、キミは不思議な雰囲気を纏っているんだよ」
“不思議な雰囲気…とにかくよかった!これで路頭に迷わなくてすむわ。アトラス様、ありがとうございます!他の神様たちにもお礼を言わなくちゃ”
「他の神にはそのうち会えるよ。では、キミが住む場所に案内しよう」
アトラス様が“おいで”と両腕を広げると、エル様の腕の中から、アトラス様の腕の中へ体が浮いていった。
“浮くって不思議な感じ。”
「ハハッ。今から色々な不思議な事に出会えるよ」
“すでに、転生自体が一番の不思議ですけどね”
私はアトラス様と微笑みあう。アトラス様の腕の中にスッポリとおさまった私。体が子どもになっても心は18歳なので、やはり、抱っこをされるのは恥ずかしい。だけど、今の不安な私には、人の温もりがとても安心できるのだと感じた。
“あっ!”
「ん?どうしたんだい?」
“アトラス様、こんなに小さいんですけど…私…記憶が…は、排泄って…”
私はつい小声になってしまう。
「あぁ、心配いらないよ。天界ではそういった感覚がないからね。キミの心は18歳だから、動けさえしたら、地上に戻っても大丈夫だろう?だから、こちらに来た時点で記憶を戻させてもらったんだよ」
“そうなんですね。よかった”
私が安心すると、エル様が笑いだす。
「アッハッハッハッ!転生しても、やはりお前はお前だな」
「エルフィートはほっといて、キミが住む神殿へ案内しよう。詳しい説明はそこでね」
アトラス様は微笑みながら、頭を撫でてくれる。お兄ちゃんがいたら、こんな感じなのかなと兄弟がいなかった私には少し嬉しかった。




